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圧倒的な佐藤彦大ワールドへの挑戦「2019佐藤彦大ベートーヴェン三大ピアノソナタPlus」を体験する

圧倒的な佐藤彦大ワールドへの挑戦「2019佐藤彦大ベートーヴェン三大ピアノソナタPlus」を体験する

<123シリーズVol.29> 5月3日(金) 佐藤 彦大 ベートーヴェン3大ソナタPlus

昨年のゴールデンウィーク、佐藤彦大さんによるベートーヴェンの三大ピアノソナタの演奏会が開催されました。その時のことを佐藤さんは「(ベートーヴェンの三大ソナタ)に挑むことによって、強烈に“自分は今ここに生きている”という実感を得た」と語っています。そしてそのコンサートに参加された方々からは、「佐藤彦大さんの三大ソナタを再度聴きたい、ゴールデンウィーク恒例の企画にしてほしい」という異例の強い要望が多く寄せられました。

ベートーヴェンの悲愴、月光、熱情という三大ピアノソナタは不朽の名作であり、ピアノサロンである美竹サロンの恒例の行事にしてもよいのではないかと関係者で話し合いました。その結果、特別な事情でもないかぎり、今後もずっと佐藤彦大によるベートーヴェンの三大ピアノソナタ演奏会が毎年のゴールデンウィークに開催されることになりました。

さて今年は「ベートーヴェン三大ソナタPlus」と称し、三大ソナタに、第13番「幻想曲風ソナタ」が加えられ、第14番「月光」と対称のプログラムとして構成されました。

普段、美竹清花さろんの定員は65名とすることが多いのですが、今回は少なくともキャンセル待ちが20名以上にも達してしまい、立ち見でもかまわないという方も含め、定員オーバーの73名の入場者でした。

 


さて、《ピアノソナタ第13番 変ホ長調 Op.27-1 「幻想曲風ソナタ」》では、独白のごとく始まり、自分自身と対話するような哲学的な空気が醸し出されます。空気に溶け込んで行くような美しいトリル、立体的で芯のある響き、音色の多彩さ、美しさはまさに佐藤彦大の真骨頂である“佐藤彦大ワールド”です。

次の《ピアノソナタ第8番 ハ短調 Op.13「悲愴」》からは、昨年と同じプログラムですが、アプローチは昨年とはまったく異なっています。今年の佐藤彦大の演奏の焦点、中心はどこにあったのか、同じ演奏者にもかかわらず別人のようなアプローチで演奏するその引き出しの多様さには驚かざるを得ません。

「悲愴」というタイトルについて、佐藤さんは「悲しく痛ましい、という解釈は間違っているように思う」と語られており、悲しみよりも決然とした力強さ、青春の一場面として颯爽と演奏されました。第一楽章の上行する音形は、まさにとどまることを知らない歩みそのもの、第二楽章は麗しさが瑞々しく表現され、第三楽章は織物が緻密に織られていくようで、緊張感に溢れた秀演でした。



 

 

休憩を挟み、幻想曲風ソナタ《ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2「月光」》を迎えます。

この「月光」でも佐藤彦大の真骨頂が惜しみなく披露されます。第一楽章から左右の手と足の絶妙なコンビーネーションとなります。すなわち、モスクワ時代に日本で学んだすべてを捨てて一からやり直したという佐藤彦大独自の奏法でしょうか、左手の演奏者と右手の演奏者、および左右の足の演奏者に指揮をする指揮者・佐藤彦大というコンビネーションによって音楽が “いまここ” に現れてくるといったスタイルです。淡々と歩みを進める右手に対して、左手は常に遅れて入ってきます。しかし、右手が左手を待つことはありません。それでも両手それぞれが創り出す世界は解体することなく絶妙に交錯していきます。月の光に照らされた不思議な魅力を湛えたいくつもに重なり合うパラレルな世界を堪能することができました。

第二楽章は高低差を感じさせない、自制の効いた表現。その流れを保って落ち着いたテンポで第三楽章に入り、最初から爆発せず、ここでは完全に噛み合った左右が、緊張感を持続させながらじわじわと音楽を盛り上げていきます。長く我慢を重ね、息の長いフレーズを経て、ようやく雪崩落ちるアルペジオ、迫り上がる半音階、心の震えのようなトリルでクライマックスが形成されます。同じ「幻想曲風ソナタ」の片割れである第13番の柔らかいトリルとは対極で、その対照性に圧倒されます。

 

「月光」の感動と興奮の余韻が漂うなか、《ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57「熱情」》へ。

去年の演奏会では、「熱情」の前に休憩を挟んだ関係もあり、抑制された表現や、推移部の同音連打の清冽な静けさが印象的でしたが、今回は「月光」の後に続けて演奏されたためか、それとも、佐藤彦大の演奏の焦点、中心点に変化があったのか、聴き慣れた佐藤彦大のスタイルとはやや異なり、今までほとんど見せたことのない全曲を通じて内に充満しているエネルギーをはっきりと垣間見ることができるような演奏です。これぞ生演奏の醍醐味です。

自由に流動するテンポで、冒頭からクライマックスで激情に溢れ、トリルも旋律的に動き、心を揺さぶられます。第二楽章は、前回はどちらかといえば美しく、叙情的な演奏でしたが、今回は第一楽章の緊張感?エネルギー?を受け継ぎ、速めのテンポで進んで行きます。第2変奏からは、「月光」で現れた左手と右手の演奏をパラレルに組み合わせる佐藤彦大独自の奏法が用いられ、音色や響きだけではない立体的な音楽空間を現出させます。第4変奏は速く、細かい音符がまるでトリルのようです。

さらに、インスピレーションに導かれるままに第三楽章に入り、さらなる高みへと高揚していく音楽と自分を楽しみながら、「熱情の核心はこういうもの?」と、ベートーヴェンに問いかけているかのような圧倒的な演奏で、会場中が息を潜めて見守りました。

 



これだけの熱演の後に、いったいアンコールなどが求められるでしょうか。アンコールを求めるお客様の様子はありませんでした。それよりも感動と、凄い演奏が終わったというある種の安堵感、そして感謝に会場は包まれていました。

しかし、興奮冷めやらぬ会場の雰囲気に、いつもながらのフレンドリーな佐藤さんが、二言三言の和みトークの後で、アンコールとして、《ポロネーズ Op. 89 ハ長調》が演奏されました。

これがまた見事な、目の覚めるような大変な名演!!こんなに鮮やかで立体的で、生き生きとした《ポロネーズ Op. 89 ハ長調》は聴いたことがないと思えるほどでした。

来年はどんな「ベートーヴェン三大ピアノソナタPlus」がどんな演奏会になるのか、今から待ち遠しく感じざるを得ません。

 

 

 

 

<プロフィール>

佐藤 彦大(Hiroo Sato)Piano

盛岡市出身。東京音楽大学大学院器楽専攻鍵盤楽器研究領域(ピアノ・エクセレンス)修了、ベルリン芸術大学及びモスクワ音楽院にて研鑽を積む。2009-2012年ローム・ミュージク・ファンデーション、2013・2015年度明治安田クオリティオブライフ文化財団奨学生。
2004年第14回日独青少年交流コンサートに出演、翌年には招待演奏者としてドイツ各地での演奏会に出演。2008年第17回国際音楽祭「ヤング・プラハ」に出演。2009年広上淳一指揮/東京音楽大学シンフォニーオーケストラのヨーロッパツアー、2012年小泉和裕指揮/仙台フィルハーモニー管弦楽団の東北ニューイヤーコンサートツアーにソリストとして同行。その他、大友直人指揮/東京交響楽団、小林研一郎指揮/日本フィルハーモニー交響楽団、広上淳一指揮/京都市交響楽団、L.ヴィオッティ指揮/ビルバオ交響楽団、V.P.ペレス指揮/テネリフェ交響楽団等、国内外の主要オーケストラと共演。室内楽ではNHK交響楽団主席メンバーをはじめ久保陽子(Vl.)、二村英仁(Vl.)の各氏等と共演している。
主要なリサイタルは、2011年東京文化会館小ホール、2013年紀尾井ホール、2016年浜離宮朝日ホールにて行われ、各誌で好評を博した。また、NHK-FM「名曲リサイタル」「リサイタル・ノヴァ」に出演。 日本各地をはじめスペイン・ロシア・ドイツ・イタリア・フランス・チェコ・中国で演奏活動を行っている。
録音ではライヴ・ノーツより2012年「Hiroo Sato plays 3 Sonatas」、2017年「Hiroo Sato Piano Recital」(レコード芸術準特選盤)の2枚のアルバムをリリースしている。
現在東京音楽大学講師、岩手大学特命准教授として後進の指導にあたっている。ミリオンコンサート協会所属アーティスト。

【受賞歴】
2004年第58回全日本学生音楽コンクール高校の部全国大会第1位、併せて野村賞・都築音楽賞受賞
2006年第1回野島稔・よこすかピアノコンクール第1位
2007年第76回日本音楽コンクール第1位 、併せて野村賞・井口賞・河合賞を受賞
2010年第4回仙台国際音楽コンクール第3位
2011年第5回サン・ニコラ・ディ・バーリ国際ピアノコンクール第1位、併せてF.リスト2011特別賞、批評家賞を受賞(イタリア)
2015年第21回リカルド・ビニェス国際ピアノコンクール第2位(スペイン)
2015年第36回霧島国際音楽祭賞受賞
2016年第62回マリア・カナルス・バルセロナ国際音楽コンクール第1位、併せてグラナドス賞・聴衆賞を受賞(スペイン)

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