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三者三様のトリオ――歌うチェロと喋るヴァイオリン、聞き上手なピアノ

三者三様のトリオ――歌うチェロと喋るヴァイオリン、聞き上手なピアノ

 ロシアから名チェリスト、グレッブ・ステパーノフが来日し、モスクワで研鑽を積むヴァイオリニスト福原すみれさんがコーディネートし、ピアニスト浜野与志男さんと、ピアノトリオやソナタなど多彩なプログラムを披露しました。
当日のプログラムは、ドビュッシー:ピアノ三重奏曲、プロコフィエフ:チェロとピアノのためのソナタ、エルガー:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ、ラフマニノフ:ピアノ三重奏曲『悲しみのトリオ』第1番 遺作。ラフマニノフのトリオ以外、すべて作曲家にとってそのジャンル唯一の曲ばかりです!



 

ドビュッシーの唯一のピアノトリオは若書きで、優しい色合いで描かれています。
第一楽章は微笑むヴァイオリンから始まり、薫り高いチェロが加わり、川のせせらぎのような穏やかなピアノが流れ、優雅な旋律が会話する。第二楽章では、弦の風情のあるピチカートと空気を震わせるトリルの後ろで、ピアノが遠い音で軽やかな主題を奏します。
続いて弦に主題が移り、心の中の声を聴くような繊細なやり取りがあった。そして三楽章はチェロが存分に歌を聴かせ、広々とした景色を吹き渡る風を感じさせ、終楽章の付点リズムで三人の息がより合っていました。

 

 


ピアノの浜野さんのMCによると、ロシアをより身近に感じてもらえるよう、コンサートのタイトルを「ロシアとの対話」にしたと話してくださいました。
彼自身ロシアのハーフですので、ロシアと日本、それぞれの国において伝えたいメッセージがあるのだと感じました。
浜野さんが感じる「ロシアの漠然とした魅力」は、人間個々人の生命力、エネルギーだと。
日本ではロシアの明るいニュースをあまり聞きませんが、ロシアにも文明開化と呼べる時代、ヨーロッパの一員として認められ始めた明るい時代があり、その後の革命を機にフランスやイギリス各地にロシア人が散っていきました。
さまざまな国にロシア人が溶け込み、社会の車輪となっている・・・そう考えれば、日本にとって遠く暗く感じるロシアという国を親密に感じ「対話」できると、説得力のある言葉で浜野さんは語りました。
クラシック音楽ほど、時代を反映するものはありません。
益々この後のプロコフィエフが楽しみになりました。

 

 

続くプロコフィエフのチェロソナタで、深淵なステパーノフの音色がロシアの薫りを濃く漂わせました!
大地を踏みしめる激しいピチカート…前へ進もうとするチェロと引き留めようとするピアノとの摩擦が強い印象を与える第一楽章。
対して第二楽章リズミカルなピチカートと躍動感のあるチェロのアルペジオと中間部の深い歌は、人間味と懐の深さを感じます。
終楽章は陽気さやロマンチックな旋律が湧き出て、チェロの超絶技巧をステパーノフは軽々と飛ぶように弾きこなし、最後はピアノと共に広がっていき、豊潤な響きに満たされました!

ステパーノフは、物腰柔らかで、優しい雰囲気を持つ好青年。
ですが、その目は鋭く、まさに芸術家そのものです。
驚いたのが、彼はチェロの名手というだけでなく、なんとピアノの名手でもあったことです。
リハーサルでは、チェロを置いてショパンのエチュードを軽々と弾きこなす姿に瞠目しました。
さらに、ブラームスのピアノコンチェルトを耳コピだけで弾きこなす"つわもの"です。
世界にはこれほどの芸術家がいるのかと…愕然としたのを覚えています。
彼にとってはチェロのを弾くこともピアノを弾くことも、同じ芸術活動であり、
なんの不自由も無く演奏できるのは、それが一番自分の魂を表現できる術だからなのだと、そう感じました。



休憩を挟み、
福原さんによるエルガーのヴァイオリソナタが女性特有の繊細さで細やかに表現されました。
彼女のバランス感覚が良さと、独自の視点を持つ考察力には、いつもたくましさを感じます。
今回は、そんな彼女だからこその人徳の賜物が企画に繋がりました。
彼女が覚悟を決めてモスクワに旅立つ姿を見てきたので、とても感慨深いものがありました。


 



最後に、この日の白眉であったラフマニノフの『悲しみのトリオ』第1番が奏されました。
ピアノの深さと感情豊かなチェロ、緊張感の高いヴァイオリンの三者が混じり合います。弦の三連符の拍動の上で、これまで泰然としていた浜野のピアノが珍しく慟哭しました。
やがて葬送行進曲になり、悲しみを湛えて終わります。


アンコールはショスタコーヴィチの2台のヴァイオリンとピアノのための3つの小品からプレリュードがじっくりと奏されました。


音楽には言葉を越えたものがあると、体感する機会となりました。
国境を越えた、心にあたたかいものが広がる演奏会でありました。

 

 

<プロフィール>

グレッブ・ステパーノフ(Cello)

レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれ、モスクワ国立中央音楽学校を経てモスクワ国立チャイコフスキー記念音楽院に進学し伝説的な音楽家と広く称されるナタリア・グートマン女史に師事。国際スラヴ音楽祭コンクール、ウラジオストク国際音楽コンクール、ヴィンチェンツォ・ヴィッティ国際コンクール(イタリア)、そして若手の登竜門であるFLAME国際コンクール(パリ)など多くのコンクールにてその実力を認められた。
FLAME国際コンクールの優勝を皮切りに演奏活動を国際的に展開し、モスクワ音楽院大ホールや救世主大聖堂をはじめモスクワ、サンクトペテルブルグから極東ハバロフスク、ウラジオストクまで国内各地をくまなく演奏旅行で訪れるほか、ヨーロッパ諸国、米国、アジアへも招かれている。
イリーナ・ボチコーヴァやミハイル・ヴォスクレセンスキー、マリア・ガンバリャンなど名だたる演奏家より共演パートナーとして慕われ、今後ますます活躍が嘱望されている。

 

浜野与志男(Piano)

2011年日本音楽コンクール第1位、マルメ北欧ピアノコンクール第1位、アルマトィ国際ピアノコンクール第2位、野島稔・よこすかピアノコンクール最高位など多くの賞歴をもつ。日本フィル・サントリーホール定期やロイヤル・フェスティバル・ホール、パーセル・ルーム(ロンドン)、モスクワ音楽院ラフマニノフホール、浜離宮朝日ホールでのリサイタルをはじめ国内外にてソリストとして積極的に演奏活動を展開し、自主企画にも注力している。東京藝術大学音楽学部を経て英国王立音楽大学大学院にて修士号ならびにアーティストディプロマを取得、モスクワ音楽院およびドイツ・ライプツィヒにて研鑽を積む。これまで岡田敦子、エリソ ヴィルサラーゼ、故・エレーナ アシュケナージ、御木本澄子、ヴァディム サハロフ、ニキータ フィテンコ、ドミトリー アレクセーエフ、ゲラルド ファウトの各氏に師事。本年4月より東京音楽大学および東京藝術大学音楽学部にて後進の指導にあたる。

 

福原すみれ(Violin)

第55回東京国際芸術協会新人演奏会オーディションに合格。副賞でソロリサイタルを行う。
2014年夏に、バイエルン州立青少年オーケストラ研修に大学代表として参加。その他、BS-TBS「日本名曲アルバム」や、複数のWEBサイトのイメージソングのソロ演奏収録。
東京音楽大学を卒業した後、モスクワ音楽院にて研鑽を積む。学内では派閥選抜コンサートや室内楽選抜コンサート、学外では国際音楽祭や美術館といった数々のコンサートに出演し、多方面で活躍している。また、自主企画にも注力している。
現在、ステパン・ヤコビチ氏に師事。