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〜フランクから夭折の天才、ルクーへ。ベルギーの系譜〜 孤高の幽玄と情熱の交錯

〜フランクから夭折の天才、ルクーへ。ベルギーの系譜〜 孤高の幽玄と情熱の交錯

ピアニストの渡邊さんが、鈴木さんの演奏会の打ち上げの席で「ルクーのソナタを弾いてみたいんですよね」とつぶやいたのがきっかけとなり、今回の演奏会が実現しました。

 

ルクーと、ルクーの師匠であったフランク、二人のベルギーの作曲家のソナタを軸に、今年生誕100年を迎えるフランス女流作曲家のブーランジェ、サラサーテの洗練された気高く美しいカルメンとともに、珠玉の作品たちが演奏されました。

 

始まりはマスネのタイスの瞑想曲。

ピアノの幻想的な音が耳をやさしく撫で、思わず「現し世の音ではない、どこから聴こえてくるのだろう?」と目を閉じました。やわらかく、打鍵を全く感じさせない、浮遊する音。ヴァイオリンがその世界にすっと入り込み、時には優しく、時には情熱的に、自在に歌いました。

 

この演奏会は、鈴木さんの落ち着いた語り口のMCを挟みつつ進められました。

リリー・ブーランジェは、「生まれた時から体が弱く、常に死と隣り合わせだった彼女の曲は、柔らかい雰囲気の中にも死を感じさせる暗い影が見えます」とのこと。

 

ノクターンは、その名のとおり夜想曲らしい雰囲気で始まり、妖艶にたゆたいながら、ふいに高音に駆け上がり、秘めた情熱が垣間見えました。

コルテージュは、「『行列』という意味で、これは子供たちが遊園地の遊具を待っていたり、わたあめを貰うのを待っていたり、わくわくするような行列です」との言葉通り、子供の笑い声のようなピッツィカート、微笑ましいおしゃべりのような軽いアルペッジョなど、可愛らしさ満点の演奏。 

 

そして、前半のプログラムに入ってはいるものの、今回のメインであるルクーのヴァイオリンソナタが演奏されました。

鈴木さんによれば、「彼も夭折の天才で、24歳であっけなく亡くなってしまいました。ベルギーに生まれ、十代で哲学を勉強し、そんな中、巨匠フランクと出会い音楽の道を進められ、音楽に人生を懸けた人です。

フランス音楽の特徴は、“微笑みながら自分の悲しみを語る”こと。彼自身も『喜びを書く方が、悲しみを書くよりもずっと難しい』と言ったように、ルクーのソナタも若々しさの中に翳りがあります」とのこと。

 

第1楽章では、意志を感じさせる鈴木さんのヴァイオリンの深い音、思索的で繊細な渡邊さんのピアノの音が融合し、ルクーの哲学が感じられました。

第2楽章は成熟した瞑想的な曲。中間部にはベルギーの民謡が一節引用されており、そこが鈴木さんの1番好きなところだそう。通常とは逆に、ヴァイオリンの上をピアノがたゆたうような、異色な美しさが新鮮で、情熱的な3楽章が続きました。循環形式を用いて作曲されており、同じ旋律が全楽章通して変化しつつ登場し、それがどれをとっても宝石のようにひとつひとつ美しい。最後は若葉に太陽の光が透けるような煌めきでもって、前半が締めくくられました。

 

後半に演奏されたフランクのヴァイオリンソナタは、友人であったヴァイオリニストのイザイの結婚のお祝いに捧げられたものです。恋人たちが描かれていると解釈されており、その2通りの解釈が鈴木さんによって紹介されました。1つは若きカップルの結婚までのストーリー。1楽章は出会い、遠慮し合ったり、不安になったり。2楽章で喧嘩をして、3楽章で1人になって思い悩みます。4楽章で仲直りし、めでたくゴールイン。ヨーロッパの結婚式は教会で行われるため、鐘の音が象徴的に盛り込まれています。もう1つの捉え方は、カップルの人生を描いたというもの。1楽章は新婚で、お互いに控えめな夫婦、2楽章では慣れてきて喧嘩をします。3楽章では歳を重ね、4楽章では熟年の夫婦が「やはり、あなたと結婚できて良かった」と、若き日の結婚式を振り返って祝福するというものです。

 

1楽章は空気を含みながらも情熱的なヴァイオリンの音が印象的。2楽章はピアノから仕掛け、ヴァイオリンが烈々たる気迫で応戦します。3楽章は孤独なピアノの音が前楽章の熱い世界を魔法のように一転させました。ヴァイオリンもピアノも、同じ空間で音を奏でているものの、それぞれの物思いに耽っており、対話ではなく独白に聴こえ、その世界観に没頭しました。4楽章になると、手に手を取り合う、明るい語らいに変化します。最後はたくさんの教会のベルに祝福され、満面の笑みで終わりました。

 

そして、サラサーテのカルメン幻想曲。鈴木さんのヴァイオリンの音色は芯が強く、ヴァイオリンという高音楽器においても低音がとても豊かです。語弊を恐れずに言うならば、地声が低く、声域がとても広いという感じでしょうか。 

その特性が、この「カルメン幻想曲」では非常に生きていました。なぜなら、カルメンという女性も、芯の強い自我を持っており、オペラにおいて彼女を演じるのはメゾソプラノ歌手だからです(オペラの主役はほとんどソプラノで書かれているため、メゾソプラノが主役である大変珍しいオペラといえます)。

妖艶でありながら自分を失わない気高い女性カルメンの情熱が、会場いっぱいに放たれました。

 アンコールは、会場の熱気を鎮めるように、イザイの「子供の夢」がまどろむ音色で始まり、途中ふわっと浮き上がった後、また夢が眠りに溶けていきました。

 

<プロフィール>


鈴木 舞(すずき・まい) Violin
神奈川県出身。2005年大阪国際音楽コンクールグランプリ、2006 年日本音楽コンクール第2 位、2007年チャイコフスキー国際コンクール最年少セミファイナリスト、2011年アンリ・マルトー国際コンクールファイナリスト。2013年ヴァーツラフ・フムル国際ヴァイオリンコンクール(クロアチア)で第1位、オーケストラ賞。オルフェウス室内楽コンクール(スイス)第1位。2016年スピヴァコフ国際ヴァイオリンコンクール第2位。
東京藝術大学を卒業し、ローザンヌ、ザルツブルグ、ミュンヘンでピエール・アモイヤル、インゴルフ・トゥルバンに師事。在学中より内外でリサイタルやコンサートに出演し、小林研一郎、円光寺雅彦、飯森範親、金聖響、ニコラス・ミルトン、ヨルマ・パヌラ、イヴァン・レプシッチらの指揮で、読売日響、東響、日本フィル、東京シティフィル、山形響、日本センチュリー響、名古屋フィル、広島交響楽団、神奈川フィル、ホーフ響、クロアチア放送響、ザグレブ・ゾリステンと、バッハ、ベートーヴェン、パガニーニ、ラロ、シベリウスなどの協奏曲を演奏している。
東京交響楽団と録音したベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲~第3楽章、マスネ:タイスの瞑想曲が日経ミュージックセレクションCD「モーニング・イン・クラシックス」に収録された。
最近ではフィンランド・クオピオ交響楽団と共演したショスタコーヴィチ第1番、チェコ・モラヴィアフィルとのモーツァルト第5番、クロアチア・ザグレブフィルとのメンデルスゾーン、スイス・ローザンヌ室内管やクロアチア・ドゥブロヴニク交響楽団とのプロコフィエフ第2番などが高評を得ている。
将来を嘱望される新世代のヴァイオリニストとして、2012年度シャネル・ピグマリオン・デイズ・アーティストに選ばれた。2012-13年度文化庁芸術家在外派遣研修員、2015-16年度ローム ミュージック ファンデーション奨学生。2017年度メニューイン・ライブミュージック・ナウ(ドイツ)奨学生。2017年7月にはフランス・コルマール音楽祭にリサイタル・デビューし、9月にデビューCD「Mai Favorite」をリリース。
使用楽器は1683年製のニコロ・アマティ。ミュンヘン在住。
http://maiviolin.com/
 

渡邊 智道(わたなべ・ともみち) Piano
大分県別府市出身。
東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校卒業、東京芸術大学卒業。
大分にて、ピアノを島岡恵子、中島利恵、塩手美子、木下文葉に、音楽理論を田村陽子に師事。上京後、2016年まで植田克己に師事。
2016年日本音楽コンクール・ピアノ部門で第3位受賞を区切りとし、その後は昔の偉大な巨匠達が体現し、次世代に伝えんとしていた真の芸術としてのピアノ奏法、響の在り方の追求、復活、伝承を求めて活動。ピアノ芸術研究会講師も務める。また、各地で協奏曲客演、独奏、伴奏、室内楽で独自の活動を展開。その他作詩、作曲、文筆、脚本執筆においても活動を展開。
2018/9/9、17時より代官山教会にてNYスタインウェイ「ローズウッド」を使用したリサイタル、公開録音会を実施。