News ニュース
務川慧悟 三大潮流の新しい風 ~ドイツ・フランス・ロシアの音楽~
公開日:2018年11月27日
今年の第10回浜松国際ピアノコンクールで鮮烈な演奏を聴かせた務川慧悟さん。本選のトップバッターで弾かれたプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番の気迫、オーケストラとの一体感は格別でした。演奏後のブラボーは誰よりも圧倒的でした。
2018年、今夏8月14日、当サロンで務川さんのコンサートがありました。
前回からちょうど1年ぶりの待ちに待ったコンサートで、サロンのお客様も大変よろこばれており、チケットは早々に完売御礼となりました。
務川さんはピアノの演奏だけでなく、万人を惹きつけるお人柄も魅力を放っており、当美竹サロンのメンバーズの皆様、またスタッフとも、ミッションを深く共有できているかけがえのない音楽家さんの一人です。
この日の演奏は、後日ライブ盤CDとして販売が予定されているため、録音マイクの最高峰とされているNEUMANN/M149Tube真空管マイクのセットが用意されました!いよいよ待望のライブ盤CDが発売されますのでお楽しみに…!(詳細は追ってお知らせします)
務川さんの演奏は、完璧でありながら、人間味に溢れ、ふわっと心が震える瞬間や温かみに惹かれるものがあります。
この日のプログラムは、バッハに加えて今回の浜松国際の予選で弾かれた曲も含まれていました。
<当日プログラム>
バッハ:カプリッチョ『最愛の兄の旅立ちに寄せて』変ロ長調 BWV992
バッハ:フランス風序曲 ロ短調 BWV831
ラヴェル:組曲『鏡』
スクリャービン:ピアノソナタ 第5番 Op.53
前半はバッハが2曲、演奏されました。
カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」は繊細なトリルが施され、音が優しく語りかけてくるようです。
フランス風序曲は、重さを感じさせず端正に奏され、クーラントが優雅に、ガヴォットは強い性格で奏されるなど、慣習にとらわれない思い切った解釈が、耳に鮮やかに響いてきました。
後半はラヴェルの「鏡」が、前半とは一変して、妖しい雰囲気で始まりました。
「蛾」はまさに天衣無縫の演奏といえるでしょう。銀糸で織り上げた美しい羽衣を彷彿とさせます。
音粒はクリアであるのに音と音の境目がなく、限りなく滑らかな音の流れがこの上なく美しく舞っているようです。
闇の中で銀粉を散らしながら舞う、夜の蝶そのものでした。
「悲しい鳥」は、消えゆく鳥たちの命の軌跡が見えるようでした。
透き通った悲しみが、ゆっくり濁っていき、やがて空気に溶けていきました。
「洋上の小舟」は前2曲の闇から、一気に視界がひらけ、明るくきらめく穏やかな海原が見えてきました。
弾き進むうち、低音に不穏な響きが見え隠れし、嵐が近づき、遠くからセイレーンの妖艶な歌声も聴こえ、様々な彩色が施されていきます。
クライマックスの「水しぶき」は激しく、そして厳しく、彼の日本人らしさ…“サムライ”の佇まいが見えました。
ここまでの3曲は全て切れ目なく続けて奏されました。音粒の流れはほぼ同じである3曲の、色彩の濃淡の変化が絶妙でした。
「蛾」の夜闇から、「悲しい鳥」の薄闇、「洋上の小舟」の白昼へと、光のグラデーション。
音粒の流れが同じだからこそ、その淡い変化が際立っていました。
一呼吸置いて始まった「道化師の朝の歌」は特徴的なリズムを、身体全体で感じていました。
道化師の独白部分では、腕の重さを使った弾き方で、これまでにない人間らしい哀愁が漂いました。
華やかなラストの余韻のなかから、「鐘の谷」が立ちのぼるように始まり、深く沈んで消えてゆく幕引きは後を引き、もう一度最初の「蛾」から聴きたくなりました。
幻想的な空気が漂う中、次の曲はスクリャービンのピアノソナタ第5番でした。
神秘的な作品の多い作曲家ですが、第5番は暗い情念を秘め、激しく鮮やかです。
務川さんはこの曲の魅力を余すことなく伝えきりました。
速めのテンポ設定でありながら一瞬も気迫が緩むことなく、跳躍も間をあけず、火花のように弾ききります。
・・・・これほど鮮烈なスクリャービンの演奏が、これまであったでしょうか。
新しい風が美竹サロンを吹き抜けていきました。
今後も務川さんの演奏に目が離せません。
(2018年8月14日開催)
<プロフィール>
務川 慧悟(むかわ・けいご)Piano
1993年生まれ。
2015年エピナル国際ピアノコンクール(フランス)第2位。
2017年シャネル・ピグマリオン・
フランク・ブラレイ、上田晴子、テオトール・パラスキヴェスコ、
2015・16年度ロームミュージックファンデーション奨学生。