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「吉田友昭のベートーヴェン」が聴きたい理由。めずらしい音楽人生と、独自の指導方針

「吉田友昭のベートーヴェン」が聴きたい理由。めずらしい音楽人生と、独自の指導方針

吉田友昭氏は、第79回日本音楽コンクール第1位、マリア・カラス、ホセ・イトゥルビ、マリア・カナルス、ハエン、シドニー他の国際コンクールで優勝・入賞。ヨーロッパに12年間居住して帰国という欧州の経験が長い本格的なピアニスト。
これまで、サロンの会員さんや音大関係者、著名な先生方などから評判を耳にすることが多く、美竹サロンが密かに気になるピアニストです。

風格のある響き、瞑想的なコンテキスト──巨匠を彷彿とさせる音楽性を持つ吉田友昭氏ですが、
このたびベートーヴェン「悲愴」「月光」「熱情」に「エロイカ変奏曲」を加えて豪華絢爛なプログラムでソロ初登場です!
指導者歴8年と教育者としても定評の高い彼ですが、今回はめずらしい音楽人生と独自の指導方針について、さらに音楽を志すすべての人の心に響くような力強いメッセージをいただきました。

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吉田友昭 ベートーヴェン3大ソナタ 2022年11月12日(土)  15:00開演
L.v.ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」 ハ短調 Op.13
ピアノ・ソナタ第14番 「月光」嬰ハ短調 Op.27-2
ピアノ・ソナタ第23番「熱情」ヘ短調 Op.57
「プロメテウスの創造物」の主題による15の変奏曲とフーガ(エロイカ変奏曲) Op.35

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重視すべきは技巧ではなく“薫り”

 

スタッフ吉田先生の演奏というのは、何か20世紀の巨匠を彷彿とさせる味わい深さを感じます。昨今は、激戦の舞台が繰り広げられるコンクール時代です。技巧に重きを置いてしまう音楽家も多くいらっしゃると思いますので、技巧が全面に出ていない演奏というのは珍しいような気がしますが?

 

吉田技巧が全面に出てくる演奏というのは初めすごく憧れるのですが、技巧が自分よりすごい人間がたくさん居るということに、否応ながら気がついてしまうので…(笑)
そういう現実を目の当たりにして、自分の方向性を見つめ直す時期が20代前半くらいでしょうか。自分の音であったり、自分のやりたいことであったりを探していく時期だと思います。

 

スタッフなるほど、吉田先生は何がきっかけでそれを見つけ出したのですか?

 

吉田:20歳でパリに留学したことがきっかけでした。その時は、ミシェル・ベロフのもとで研鑽を積みました。その後、イタリアやザルツブルクへ移りました。
最初はそれこそスーパーピアニストというか…なんでも簡単に弾ける技巧重視のピアニストを目指していました。しかし、自分の中に立ち返ったときに、やっぱり“薫り”・・・かなと。自分が指導する立場になってみると、やはり「“技巧”ではない!」って思いますよ(笑)

 

スタッフ:吉田先生のピアノに触れて何か、心に染み入るものがあって、それはなんだろうと考えていたのですが、“薫り”という言葉を聞いてしっくりと来ました。

 

吉田教えるようになってからは、特にそれを意識するようになりました。若い学生の演奏に日々接していると、技巧に寄ってしまい、パワーや迫力ばかりを意識する傾向があります。しかし、世の中に出ている素晴らしいピアニストの大半が、それとは違う要素で評価されている、ということを話します。

 

スタッフそうですね、それは感じます。若いうちにあまりにもパワーや技巧に寄りすぎてしまうと、先生のもとから離れたとたんに弾けなくなってしまうという例をよく耳にします。

 

吉田そうですよね。どうしても、目先のコンクールや試験に寄ってしまうので…近視眼的になりがちです。なので、最近は手取り足取り、あまり教え過ぎるということをやらないようになりました(笑)
大切なのは、本人が発見して取り組んでいくことができることだと思います。選曲に関しても、自分の意見を持って考えて欲しいですしね。

極論、バッハのインベンションとシンフォニアでも成り立つと思うのですよね。そこにどれだけ自分の意見や考えを込められるかだと思います。

 

スタッフそれはわかりますね。特にこの情報社会において、膨大に散りばめられた玉石混交の情報たちを、どうキャッチして自分に取り入れていくべきか…
若い学生さんは迷ってしまうと思います。選曲についても、流行りの曲に行ってしまうこともあると思いますし。

 

 

 

サッカー、勉強、読書、すべてが必要なことだった

 

スタッフこうお話しさせていただいていると、ブレない軸のようなものを感じるのですが、吉田先生のピアノ人生をお伺いしても良いですか?

 

吉田小学校の頃はサッカー少年でした。ピアノは兄のついでに小4まで習っていましたが、弾くのは週に1時間くらいなので、本当に下手でしたよ(笑)なので、子供のコンクールには一度も入賞したことがなかったです。
そんなこともあって、近年乱立している子供のコンクールは、そこまでたくさん必要ないと思っています。もちろん、中学受験に有利という点は認めますが、そこに優劣をつける意味は本当にあるのかどうか。ステージで演奏する経験、計画的に練習努力するというのは素晴らしく貴重ですね。

話が逸れましたが…中学、高校と記憶力だけは良かったので勉学に取り組み、何かやり尽くした感がありました。そして当時、アシュケナージのショパンや、キーシンのラフマニノフなど、ピアノを"聴く"のが大好きだったので、最終的に進路希望を出す時には「藝大」と書きました。

 

スタッフそれは意外です。よく、小さい頃から英才教育を受けて、厳しいレッスンやコンクールに耐え抜いて、音大や藝大などの音楽の道に進む、というお話を聞くので…。
となると、もともとの能力値が高かったのでは?

 

吉田高くない、高くない!(笑)ただ振り返ると、コミットメントというか、決断力はあったのかもしれないですね。
勉強もやらないと決めたら高校の教科書も買わなかったですし(笑)修学旅行にも行かずにピアノに全ツッパ、全集中でしたね!

 

スタッフ修学旅行も行かなかったのですか・・・!それはなかなかの覚悟。引き返せない怖さのようなものはなかったのですか?

 

吉田なかったですね!(即答)もともとピアノを良く聴いていたことと、音楽に関する本を良く読んでいたこともあり、その経験がパズルみたいに繋がって、いざピアノに全集中した時に、最短距離で行けたというのはあるかもしれないですね。

 

スタッフなるほど、潜在的に音楽に関する必要な知識や経験を積んでいたということですね。本はどんな本を読まれていたのですか?

 

吉田作曲家の伝記を全般的に。それから、中村紘子先生の「チャイコフスキーコンクール」や、若いのに「罪と罰」や、ダンテの「神曲」を読んだりしていました…ちょっと変わった子ですよね。

 

スタッフたしかに、なかなかの芸術肌ですね(笑)しかし、もともとサッカー少年で、勉強に励み、自分で音楽に関しても学び…色々なことにチャレンジしてきていたからこそ、何か、物怖じしないタイプに見えますが。

 

吉田そうですね。色々なことをやってきたというのが、逆に"強み"になっているような気がします。あとは多分、ラジオや落語も好きだし、学年委員長や生徒総会の議長など人前で話すことも多かったので、そういう経験も影響しているのかもしれません。自分の結婚式のスピーチも、事前には何も決めずにその場で話してしまいましたね。

 

 

 

 

 

 

知らない世界への憧れと情熱

 

スタッフ:今のようにインターネットから多くの情報を取れなかったことが一因となって、自然と、昔の本物の演奏や書籍に触れ、そして憧れ、真っ直ぐに突き進むことができたように思います。

 

吉田そのとおりですね。2022年現在、国際コンクールもすべて生配信でタイムリーに見ることができ、世界で今、何が行われていて、どういうピアニストがいて…という情報は簡単に手に入ります。例えば、昨年のショパンコンクールなどの配信を見て「自分とは別の異次元世界」だ、と諦めてしまう学生も多くいたのではないでしょうか。
情報に恵まれている反面、知らない世界に対する憧れや、行ってみなきゃわからない、やってみなければわからないという純粋な行動力というのが失われてしまうのはもったいないことだと思います。

 

 

 

スタッフそうですね。少し前はコンクールや留学についての情報が少ないからこそ「俺でも行けるかも!」って…ある意味ちょっと厚顔無恥になってがむしゃらに行動することができたのかもしれませんね・・・。

 

吉田:厚顔無恥…本当にそう!僕もベロフ先生に「僕、(有名な)このコンクールで1位になろうと思います」って、本気で言っていましたからね…(笑)さらに、10代・20代の頃は指揮者のカルロス・クライバーと共演することが夢で、本気で目指していました!
実態が見えていないからこそ、自分が本気を出せば「できるはずだ!」と思っちゃったのですよね。けど今の子って実態が見えちゃうから…。自然と自分と他者を比較して「自分にはできない」という先入観が生まれやすいのかもしれないですね。

 

 

 

 

正直でいること、等身大でいること

 

スタッフ人生を振り返って恵まれたなぁ、と思うことを教えてください。

 

吉田:人に恵まれてきましたね。

 

スタッフそれは吉田先生の人徳ではないでしょうか?

 

吉田え、けど僕はそんなに良い人に見られようと気はないつもりですよ!(笑)

 

スタッフ:吉田先生の凄さは、いつ、どんなときでも等身大でいられることのような気がします。

 

吉田なるほど!コロナの時代でコミュニケーションが難しい時代になりましたが、まさに今おっしゃられた「等身大」というワードがキーファクターだと思います。

 

スタッフ吉田先生はもともとそのスタンスだったのでしょうか?

 

吉田いや、僕にとっての転期はコンクール時代が終わり、大学で教え始めた31歳くらい。ちょうど結婚し、子育てが始まった頃です。
最初は必死に指導も演奏も、なんでもやってやろう!という感じで詰め込んでいたのですが、ある日突然、倒れたのですよね…。
それから、体力的な限界に気付くようになり、ワークライフバランスを考えるようになりました。今は演奏や指導と、良いバランスで生きていけているのは、まさに人に恵まれたからかなと思います。感謝ですね。

 

スタッフたしかに、時には弱さを見せることで、信頼関係が生まれることって多々ありますよね。それが等身大の自分でいる、ということに通ずるのかもしれません。

 

 

 

 

トレーニングより、リカバリーを大切に

 

スタッフ:ピアノに向かう時に、大切にされている習慣はありますか?

 

吉田:ストレッチですね!寝る前に30分〜1時間、朝も必ずストレッチをしてから、ピアノに向かいます。血流が良くなるので、ピアノが上手くなるのですよ。あとはサウナとかですかね。
大谷翔平選手が「トレーニングよりもリカバリーの方に重きを置くようになったら結果が出た」と言っていて、なるほどと思い、自分もとても納得しました。

 

スタッフなるほどですね!それは納得です。変な話、寝ないとどこか不調になってくるのと同じですよね。他に大切にされていることはありますか?

 


吉田:音楽以外の世の中のニュースに触れて、視野を広げることでしょうか。
世の中のニュースに触れて考えてみると、色々な人や役割があって世の中が回っていることに気がつきます。

 

スタッフそれは私もとても共感します。視野が広くなるからこそ、音楽も変わりそうですね?

 

吉田もちろん!しかし難しいのが、視野が広いうえで周りに翻弄されないことです。

 

スタッフまさにそのとおりですね!

 

吉田:パリ留学時代は、ベロフ先生とレッスン中、いつも世間や政治の話をしていましたよ(笑)

 

スタッフへぇ〜!日本では政治と宗教の話はタブーとかって言われていますよね?

 

吉田そうなのですよね。ただフランスだと若い学生さんが電車を待っているあいだに選挙の話をしていたりするのも日常茶飯事です。
きっと話すことによって自分の考えを整理しているのだと思います。やはり、ディスカッションの文化なので。初対面のホストファミリーでも「This is my opinion.」それでyouは?とかって聞かれます。まぁ、時には極端な意見を発してしまう人もいますけど、節度を持って自分の意見を言うのは全体的にプラスになりますし、意見が違うからといって仲悪くなるとかではないですからね。

 

 

 

 

教育方針は、超長期的で

 

スタッフ吉田先生は指導歴も長いと思うのですが、何か指導する上で気をつけていらっしゃることはありますか?

 

吉田大前提として、音楽教育って自分が受けてきた教育しか人に伝えられないと私は思います。
ですので、自分の教育方針として、手取り足取り教えて付け焼き刃でコンクールに入賞を目指すというようなことはしません。それを受けた経験がありません。自分で見つけて自分でやれと、それだけです。

 

 

スタッフえ!そうなのですか…!通常、音大の先生とかって生徒獲得のためにコンクールの入賞実績を重視したりするじゃないですか。

 

吉田:そこが僕、ないのですよね(笑)良い先生に思われたいというか…そういうことに興味がないというか…。
最初は生きていくために生徒獲得!とか言って頑張っていましたが(笑)それをやっても、長期的には何も意味がないのです。本当の意味での成長もないし、生徒にも無理を強いることになり、生徒との関係もおかしくなります。
そもそも演奏だけで生きていく人って、音大の生徒でも多くはないので、自分のペースで一生音楽に関わることをやっていけば良いと思います。音楽も人生も自分のペースで生きていけば良いと思います。先生を必要とせず、生徒一人で曲を仕上げる事ができるようになる、これが目標です。

 

スタッフ:超長期的な教育方針で、素敵だと思います。現に、無理にがんばりすぎた結果、潰れてしまう人や卒業後まったく演奏しなくなる方もいらっしゃるので・・・。
演奏で生きていきたいという人に対してはどんなレッスンをされますか?

 

吉田:もちろん、それはガチで教えます。ただ、ガチになればなるほど、僕、しゃべらなくなります。

 

スタッフえ?!どういうことですか?

 

吉田:指導者の私が弾いて、共感できなくてもとりあえずすぐ真似して、さっと吸収できなければダメ、という感じ。一つの曲のレッスンもせいぜい2,3回です。で、だいたいそういう人たちは一言、二言フィードバックを伝えればだいたいわかって自分で先生を土台にして先生の上にトライしていくので。
かてぃん(ピアニスト・YouTuber)は、まさにそんな感じでしたね。

 

スタッフ:なるほど…そうやって貪欲に食らいついていって、やっと、演奏だけで食べていける世界なのでしょうね。

 

吉田そうだと思います。例えば初対面のプロフェッショナルの人たちと室内楽をやる、トリオだろうと5重奏だろうと合わせはせいぜい2回×3時間です。3回あれば多い方。メンバーの意図を即座に読み取り、何か要望されたらすぐ出来ないと何も言ってくれなくなりますよ。学生時代を終えると、誰も助けてくれないですよ。

 

 

 

 

「吉田友昭のベートーヴェン」が聴きたい理由

 

スタッフ初めて吉田先生のピアノを聴いてから、今日、改めてお話しさせていただいて、僭越ながら、すごく「ベートーヴェンが合っている」と感じました。

 

吉田え、そうですか!それは何故ですか?

 

スタッフ:正直だからです。もともと根が真っ直ぐで、良い意味でさらけ出していると感じました。演奏家さんがインタビューやその他でどんなことを語っていても、ステージの上ではそれとは異なる本音のようなものが出てしまうと思います。
ベートーヴェンの作品は、取り繕って何かを表現するというのではなく、自分と共感する真実をさらけ出さなければならない演奏なのではないかと感じますが、その辺で何かとても魅力的に感じます。

 

吉田ありがとうございます。まぁ、そうなれば良いのですが!(笑)
僕も"まだ人間"なので、どうしてもお客様を目の前にしたら、何か「こうしよう!」とか「笑いをとりたい!」という人間的な面も出てきちゃいますよ(笑)ただ、たしかに、ベートーヴェンだから無理して取り繕ってこう弾こう、とは思わないですね。もちろんラヴェル、ショスタコーヴィチなど、ある種、どこか隠して取り繕うことがプラスに働く作曲家や作品もあると思いますが。

 

 

 

スタッフもちろん!そんなベートーヴェン自身も、実はとっても人間らしい人だったのではないかなと感じます。もちろん晩年の作品などは、神々しさすらありますが…。

 

吉田そうですね。ベートーヴェンはおそらくもし耳が聞こえていたら、たぶんもうちょっと良い人に見られたいとか、あったと思うのですよね(笑)しかし彼は耳が悪いことを当時あまり言い出せず、葛藤があって、あの有名なハイリゲンシュタットの遺書辺りから…おそらく私が思うに、良い人であるのとかはやめたと思うのですよね。彼の若い頃の作品を聴いていると、初期のソナタなどはちょっと違った印象を受けます。たぶん人の意見なんかも取り入れていたのだと思います。ピアノトリオ第3番ハ短調についての逸話で、ハイドン先生に何か批判的なことを言われたときに「それはただの嫉妬だろう」と言い返したらしく、きっと悔しかったのでしょう、彼の自信と葛藤が見え隠れしていますよね。

 

スタッフなるほど!確かに初期の作品なんかはそう思える節があります。しかし、後期の作品などは、どんどんベートーヴェンの本質的な部分がさらけ出されているような感じがします。

 

吉田やはり耳がおかしくなっていったことで、だんだん変化していき、さらに、彼の不器用な面も相まって、自分を取り繕うということが、できなくなっていったのではないでしょうか。
最終的には、「人類に向けて」であり、「音楽に捧げる」という、そういう生きていく本質・信念だけを求めていくようになっていったような気がします。

 

スタッフなるほど・・・。そう考えると一般的にイメージするベートーヴェン像だけでは語りきれないほどの深さがベートーヴェンにはありますよね。

 

吉田そうですね。「ベートーヴェン=〇〇」という、一言では表現できないと思います。どの時代にベートーヴェンを見るかによって変わってきますよね。さらに作品一つ一つについても様々なストーリーがありますし、決して流れ作業でもないし…一言では語れないですよね!時代によっては、テレーゼソナタのような、幸福感に満ち溢れたようなものもありますし、決して一般の人がイメージする、戦いとか苦悩だけじゃないですよね。

 

スタッフとても深いですね!ベートーヴェンを語り出したら…(笑)

 

吉田:ワーグナーもベートーヴェンについて語り出したら朝まで語ったと言われるほど…それほど魅力的な作曲家だった、ということだと思います。まぁしかし、ベートーヴェンは自分に嘘をつかないし、その時、自分が思っていたことに正直であったということ、そういう部分は私とシンパシーを感じる部分かな、と思ったりします。ただ、私も気をつけなければいけないのが、毒だけ吐いていれば良いということではないと思うので…まぁ最近は丸くなってきましたよ。(笑)

 

スタッフたしかに、お話ししていると、物腰が柔らかに感じます。しかし、ピアノに向かうとちょっと別人みたいにも感じることがあるのですが?

 

吉田たしかに。音楽に向かう時だけは丸くなりたくないというか、良い意味でいい人にはなりたくない、社交したくない、という思いがあります。

 

 

 

 

プログラミングの肝は自分を追い込むこと?

 

スタッフ今回、3大ソナタにプラスでエロイカ変奏曲という大曲を組み込まれたので、とても驚きました!今回は、なぜエロイカ変奏曲を取り入れたのですか?

 

吉田ソナタはもちろんのこと、「変奏曲・ヴァリエーション」形式もベートーヴェンの中では大きな主戦場にあると考えるからです。このエロイカ変奏曲は二重フーガの要素もあり、新しい手法で描かれています。あとは、こちらのサロンは音楽家としてやりたいことなど、奏者の意見を尊重してくださるということもあり、挑戦的なプログラムにしました(笑)

 

スタッフたしかに、とても挑戦的なプログラムでしたので、驚きました!ですが、"吉田友昭らしい"と感じられます!

 

吉田そうですね、若干そういった「自分にしかできないであろう」という、すけべ心もありますよ(笑)
自分を追い込むのって結構、僕好きなのですよね。
この前もデュオ → ソロ(大曲)→ デュオ → 室内楽の、結構重いプログラムをやってきたのですが、それが案外心地良いのですよね〜。
追い込まれると自分の本性が現れるので、どういう演奏をするのか自分を見るのが好きです。まぁ、おかしくなって熱とか出るのですけどね(笑)ですが、今のところ自分を信じる方向にいっているから、面白いな〜って思いますね。


スタッフそれってある種自分を試しているっていうことでしょうか?しかもそれを楽しんでいますよね?(笑)

 

吉田それを自分は普通だと思っていたのですが、この前、室内楽のパートナーに「それはクレイジーだよ」と言われました(笑)

 

 

スタッフいや〜大多数は、リスク回避傾向ですよ。特に歳を取れば取るほど、そうなる傾向が出てくる気が…。
ただ、突き抜けている方って、みんなちょっとクレイジーだと思います。逆にクレバーな方は、案外梲(うだつ)が上がらないというか…もちろんそれも役回りだと思うのですが…。

 

吉田そうですね。作曲家もそうですよね、クレバーな作曲家で有名な人いますか?ラフマニノフおそらく最初はクレバーだったけど、最終的にはクレイジーな面が勝っているでしょ!演奏家も、まともになってしまったら演奏が良くないから、私も演奏会の1週間前は大学レッスンを入れません。人に教えるという行為は、ある種クレバーにならないといけないし効率も求められるので。芸術や音楽には、効率を求めちゃダメだと信じています。効率化すればするほど、人間の器がすごく小さくなっていっちゃうと感じます。そういう意味では良い人になりすぎないようにするというのは、演奏家として必要なことだと思います。

 

 

 

 

悲愴、月光、熱情によって、価値観を広げたい


スタッフ:何か3大ソナタというと、キャッチな企画に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ベートーヴェンの本質が現れている名作たちだと思います。また、演奏される演奏家によっても違うと思います。

 

吉田演奏はみんな違うと思いますし、演奏家にとっても憧れなのではないでしょうか。良い機会をいただけて嬉しいです。

 

スタッフお客様もとても好きですしね!3大ソナタについての、演奏に寄せてのお考えを教えていただけますか?

 

吉田:悲愴っていうと、悲しみ?ですが、もっと決然とした若さの情動ゆえの苦しみを感じますよね。悲しみのイメージだとしたら、例えばショパンの葬送と比べてみると葬送行進曲であり、悲しみを表現したいだけなら違う形でそれを表現できたと思います。月光のタイトルは本人がつけたものではないので、なんとも言えませんが、月光というよりは、絶望というべきか、遺書というべきか…そういう印象ではないでしょうか。最後に、熱情。全部パッションなのか?といったらそういうわけじゃないですよね。無意識なのか意識的なのかはわからないけど、モティーフやテーマが隠れて後半に出てきたり、楽章を繋いで出てきたり、研究すると色々な事が見えてきます。しかし、演奏する時には頭でっかちになりすぎてはいけないとも思います。たしか指揮者のサイモン・ラトルは「ベートーヴェンを振ったときに体が痛くならないようであれば、何かが間違っているはずだ」と言っていたと思います。

 

スタッフなるほど、興味深いです。ご来場いただくお客様にはどんなことを感じていただきたいですか?

 

吉田:3大ソナタのような有名な曲であればある程、お客様お一人お一人の中にベートーヴェンの理想像というものがあると思います。皆さん、千差万別だと思います。なので、今回、今僕が生きている今僕が思う、その日にしか生まれないベートーヴェン像を表していきたいのですが、もしかしたらお客様とのベートーヴェン像と違うかもしれません。ですがその違いですら楽しんでいただけたらと思っています!人間、一人一人考えも違う、信じることも違う、どっちが良い悪いではなくて、価値観の多様性であったり、新しい発見であったり、そこまで到達できたら嬉しいなって思います。ベートーヴェン自身、スケールが大きく、決して狭い価値観だけの人間ではなかったと考えます。ですが自己の信じる絶対的な価値観は持っていたでしょう。だからといって違う価値観を一切認めないことはなかったと思います。それらを体が痛くなるくらい真剣に演奏したいと思います。体が痛くならなかったら、私が手を抜いていたということで…(笑)

 



 

 

 

(2022年6月14日収録。文責、見澤沙弥香)

 

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吉田友昭 ベートーヴェン3大ソナタ

風格のある響き、瞑想的なコンテキスト
巨匠を彷彿とさせる吉田友昭のベートーヴェン
悲愴、月光、熱情にエロイカ変奏曲を加えて登場

2022年11月12日(土) 開演15:00
渋谷美竹サロン

公演の詳細はこちらから

 

 

 

<プログラム>
L.v.ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」 ハ短調 Op.13
ピアノ・ソナタ第14番 「月光」嬰ハ短調 Op.27-2
ピアノ・ソナタ第23番「熱情」ヘ短調 Op.57
「プロメテウスの創造物」の主題による15の変奏曲とフーガ(エロイカ変奏曲) Op.35

 

<プロフィール>

吉田 友昭(YOSHIDA Tomoaki)Piano

札幌市出身。東京芸術大学を経て20歳時にヨーロッパへ移住。パリ国立高等音楽院にてミッシェル・ベロフ、エリック・ル・サージュに師事。同音楽院を一等賞の成績で卒業後、イタリア・ローマ聖チェチーリア音楽院にてセルジオ・ペルティカローリに師事し修了。ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学ポストグラデュエート課程にてパヴェル・ギリロフに師事し修了。
第79回日本音楽コンクール第1位。マリア・カラス、ホセ・イトゥルビ、マリア・カナルス、ハエン、シドニー他の国際コンクールで優勝・入賞。スペイン、イタリア、オランダ、ドイツにて演奏ツアーを行う。バルセロナ・カタルーニャ音楽堂、アムステルダム・コンセルトヘボウ、ミュンヘン・ガスタイク文化センター、バレンシア音楽堂にて演奏。フランスに5年間、イタリアに4年間、オーストリアに3年間居住した後、2015年に日本に帰国。現在は国内にて様々な演奏・指導活動を行うと共に、東京音楽大学にて専任講師を務める。2022年は第76回全日本学生音楽コンクールの審査員を務める。趣味は歌舞伎鑑賞、サウナ、ランニング。