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ショパンの魂が宿る音 香りたつ音、スパイシーな斬新さ、降りそそぐ癒し――

ショパンの魂が宿る音 香りたつ音、スパイシーな斬新さ、降りそそぐ癒し――

 藤田さんによる今回のプログラムノートは<サロン音楽>をテーマに書かれており、サロン本来の概念を意識したものでした。藤田さんは、19世紀のパリの楽壇の最先端であった『ヅィメルマンのサロン』を「音楽を愛し、新しい音楽との出会いを求める人々の集い」と紹介し、ここ『美竹清花さろん』もそのような存在であると書いてくださっています。美竹サロンに集うお客様たちが音楽愛にあふれ、作品や演奏を心から楽しんでくださっていることを感じるからこそ、藤田さんは「今弾きたい曲」を自由にプログラミングしたとのことでした。

 

 この日の一曲目は、モーツァルト《幻想曲ニ短調K. 397》。第一音目から、サロンの空間に豊かな響きが香りを伴って広がっていくように感じました。続いてのベートーヴェン《ロンドハ長調Op. 51-1》は、その場で音楽が生まれて紡がれていくかのような新鮮さがあり、右手の装飾が軽やかに舞いました。

 

 そして、19世紀前半のサロン全盛期の象徴であったショパンを中心としたプログラムへ移っていきます。

 《即興曲第1番変イ長調Op. 29》は、繊細なレース編みが紡がれていくよう。《即興曲第3番変ト長調Op. 51》は、モーツァルト同様に響きのない音がひとつもなく、全ての音が隅々まで潤い、芳香を放っていました。

 《演奏会用アレグロイ長調Op. 46》は左手のオクターブの連続が軽やかで、右手のスケールは境目がないほどの滑らかさ。華やかでありながら癒される、優しい音楽が広がりました。

 

 前半の柔らかな雰囲気から、後半は一転して深刻で、自己と向き合う空間へと変化しました。

 藤田さんは、スケルツォ四曲を続けて弾きました。そうすることで、スケルツォ各四曲の魅力が新たな角度から見出され、四曲の流れが物語のように感じられました。

 《スケルツォ第1番ロ短調Op. 20》は、コンサート前半での潤いに満ちた幸せな響きから一転、衝撃的な和音にはじまり、右手のパッセージは乾いた音で弾かれ、破壊的なスパイスが効き、とても斬新でした。ショパンの感情そのものがダイレクトにこちらに迫り、激情を肌で感じることができました。傷ついた心を癒そうとするかのように、中間部はポーランドのクリスマス・キャロル『眠れ、幼子イエス』のメロディーが豊かに歌われ、それまでの乾いた響きとの対比が効果的でした。乾燥した大地に水が沁みわたるように、すぅっと心に浸透してゆく歌でした。

 《スケルツォ第2番変ロ短調Op. 31》の悲しみは第1番よりも深く、重量感のある和音によって深刻な響きがつくられていました。中間部では、コラールのあたたかい響きに包まれ、右手の上行形のパッセージは、天に昇っていきながら透き通っていくよう。水彩画のような透明感のあるタッチで癒しが描かれ、美しいまでの哀しさに胸を打たれました。

 続く《スケルツォ第3番嬰ハ短調Op. 39》では、涙をこらえて諧謔的にふるまう第一主題を、第二主題が慰めているように聴こえました。下行するアルペジオは、ひたすら癒しが天から降ってくるようで、第2番の中間部で天へ昇っていった美しい右手の欠片が集まったものであるかのよう。優しい慰めで心が満たされてゆき、最後になってようやく泣くことができたように感じられました。

 唯一長調で書かれた《スケルツォ第4番ホ長調Op. 54》は、生の感情が浄化された、洗練された優しい曲。第1番の破滅や第2番の激情、第3番の癒しを経たからこそ、第4番の明るさのなかに、哀しみを受け入れた切なさが見られました。悲しみをたたえながら儚く微笑む音は、切ないながらも限りなく高潔で、ショパンの魂が宿っているのではと思うほど、感動の演奏でした!

 

 アンコールは、《即興曲第2番嬰ヘ長調Op. 36》と《即興曲第4番嬰ハ短調『幻想即興曲』Op. 66》で、前半で弾かれたショパンの即興曲が全曲コンプリートされました。

(2019年1月29日開催)

 

<プロフィール>

藤田 真央(Mao Fujita)Piano

1998年東京都生まれ。3歳からピアノを始める。
2017年弱冠18歳で、第27回クララ・ハスキ ル国際ピアノ・コンクール優勝。併せて「青年批評家賞」「聴衆賞」「現代曲賞」の特別賞を受賞し、一躍世界の注目を浴びる。
2016年には、故中村紘子氏が最後に審査員を務めた浜松国際ピアノアカデミーコンクールで第1位に輝くなど、国内外での受賞を重ねている。
初めてのリサイタルを2013年に開催。以降、国内はもとより、各地でリサイタル、オーケストラと共演している。これまでに、オレグ・カエターニ、リッカルド・ミナーシ、小林研一郎、現田茂夫、飯森範親、大友直人、レイ・ホトダ、クリスティアン・ツァハリアス、リュー・ジア、東京都交響楽団、東京交響楽団、/日本フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、ユタ交響楽団、ローザンヌ室内管弦楽団、マカオ管弦楽団等と共演。ルール音楽祭に招かれた他、また2018年夏にはヴェルビエ音楽祭にアカデミー生として参加した。
2018/2019シーズンには、カーチュン・ウォン指揮/読売日本交響楽団とラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番、秋山和慶指揮/東京交響楽団とジョリヴェ:ピアノ協奏曲「赤道コンチェルト」を共演予定。
10月には、スイス、並びにパリのルイ・ヴィトン財団主催New Generationシリーズに招かれリサイタルを行なった。
CDはナクソス・ジャパンから3枚リリース。最新盤は「パッセージ」(NYCC-27306)。
現在、特別特待奨学生として東京音楽大学2年 ピアノ演奏家コース・エクセレンスに在学中。ピアノを野島稔、鷲見加寿子、佐藤彦大の各氏に、ソルフェージュを西尾洋氏に師事。