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ファゴットの"おんがく"

ファゴットの

“123シリーズ” の2回目となる公演、本サロンでは初めての、木管楽器メインのリサイタルとなりました。

謎に包まれた魅惑の木管楽器…ファゴット!

演奏してくださったのは皆神陽太さん。大学時代の同級であるピアニストの渡邊智道さんを伴奏にリサイタルを開催いたしました。
渡邊智道さんといえば、当サロンではおなじみ、美しい響きの追求と、鋭い視点をお持ちのピアニストです。
そんな彼も一押しの"ファゴット奏者"ということで、偶然が偶然を呼び、今回の演奏会が実現となりました。

さらに、サロンに使用されている木材である楓(かえで・メープル)はファゴットのボディにも使われているので、サロンとの共鳴が楽しみでもありました。


本公演の企画が持ち上がった当初から「ファゴットはマイナーな楽器…」と仰っていた皆神さん。
ですがお話をしているなかで、彼は心の底からファゴットという楽器を愛していて、その愛情は「実はファゴットという楽器の熱烈なファンは彼自身なのでは…?」と思ってしまうほどでした。
 
 


<プログラム>

木下牧子:おんがく
グロヴレーズ:シシリエンヌとアレグロ・ジョコーソ
サン=サーンス:あなたの声に私の心は開く
ドヴィエンヌ:バソンソナタ 第5番ト短調
ピエルネ:演奏会用独奏曲
ジャンジャン:プレリュードとスケルツォ
サン=サーンス:バソンとピアノのためのソナタ


一曲目は木下牧子作曲の「おんがく」
原曲は合唱曲で、作詞はまどみちおさんです。
その名のとおり、音楽の魅力が語られた詩なのですが、歌詞のある合唱曲を言葉の発することができないファゴットで演奏する意味があるのだろうか…はじめはそんな風に感じていました。
ですが、この曲に隠されたメッセージはそんな表面的なことではありませんでした。
なぜなら、音楽は言葉を超えた存在だからです。
まさに"歌詞のない歌"── 管楽器の魅力はそこにあるのだと、気付かされた気分でした。
この曲を一曲目に演奏された理由も、頷けます。
 
 
 

二曲目のグロヴレーズ「シシリエンヌとアレグロ・ジョコーソ」
は一曲目とは正反対で、ファゴットのために作曲された曲です。
表現の幅が広いファゴットという楽器の魅力をふんだんに味わえるこの曲。ただ”綺麗”な音色だけではなく、場面によって変化するファゴットの音の面白さを、ピアノの渡邊さんとの軽快な掛け合いの中で楽しみながら聴かせてくださいました。

サン=サーンス「あなたの声に私の心は開く」
オペラ『サムソンとデリラ』に登場するアリアの名曲です。この繊細で魅惑的なメロディが皆神さんの音色とピッタリ!
オペラではメゾソプラノで歌われるパートを皆神さんが甘く歌い上げ、ピアノの渡邊さんがそれに応えるように男性パートを奏でます。
そんな2人の対話と、皆神さんのファゴットの語りかけるような優しい音が、胸にじんわりと広がります。
オープニングの「おんがく」も元々歌の曲ですが、ファゴットは人の声の音域に近いこともあり、歌曲との相性が抜群に良いのでしょう。


続けてモーツァルトと同時代の作曲家ドヴィエンヌの「バソンソナタ 第5番ト短調」
第一楽章はモーツァルトのファゴット協奏曲に通じる叙情的な曲調。優しく豊かな音色がサロン全体に響き渡ります。第二楽章のゆったりと大きく歌う旋律から駆け抜けるような第三楽章へ。
エネルギーに満ちた優雅なこの曲で前半終了です。


ピエルネ「演奏会用独奏曲」
華やかで、それでいて重厚に始まり、ピアノと軽やかに曲を締めくくる、ファゴットの定番のこの曲から後半スタート!
続けてジャンジャンの「プレリュードとスケルツォ」は極めてフランス的な曲調…
皆神さん曰く、「ファゴットの芸人的要素を詰め込んだ作品」。
プログラムの中でもこの曲だけ少し違ったテイストで、ファゴットもピアノもひたすらに洒脱で甘い…そして聴いていると、確かに…少し間抜けた、芸人的な要素が面白い…!
こんな風に曲による音の違いを楽しみながら聴くこともできるファゴット…なるほど、奥深い楽器です。



そしてプログラムの最後はサン=サーンス「バソンとピアノのためのソナタ」
サン=サーンスの最晩年に描かれたこの曲。
繊細なタッチの渡邊さんのピアノの、小川を流れる水の様にきらめくアルペジオからはじまります。
それから、皆神さんのファゴットの、日差しのように温かく、のびやかな旋律が寄り添い、絶妙なアンサンブルを奏でます…
思わずため息が出るくらいに、大切に演奏されていることを感じる、素晴らしい第一楽章でした。一転して第二楽章では荒々しく雄弁な音色で躍動感のあるスケルツォ。そして第三楽章は、シンプルなピアノの伴奏の上で皆神さんのファゴットの美しい旋律がゆったりと、聴く人の心に深く染み入る様に響きます…こちらも言葉では表現しきれないほどの美しい音色に、ただため息が出るのみでした。最後は快活な曲想へと移り、この名ソナタが締めくくられました。
皆神さんと渡邊さんのお二人の音の特徴が見事に溶け合い、サロンを包み込んでくれるような素晴らしいアンサンブル。
演奏前の解説で「ファゴットのことを想って描いてくれた、いい曲」と仰っていましたが、皆神さんがファゴットのことを真に想って演奏をしているのを感じ、よりこの曲の魅力が引き出されているように思われ、心震わされるひとときでした。

 
 

オーケストラでは埋もれがちなファゴットという楽器に焦点を当てた本リサイタル。
皆神さんの温かなお人柄から溢れるファゴットの優しく囁きかけるような音色に心を落ち着かせられる、濃密で充実したリサイタルとなりました。

死ぬまでファゴットを吹いていきたいという皆神さん、今後年を重ねるごとに変化してゆくであろう彼の音色が今から楽しみです。

"今この瞬間に生まれる音楽"とは実際に会場に足を運び、生演奏を体験しないと生まれません。
それはとても刹那的なものとも言えます。
ですが、だからこそ尊く、誇り高き魅力があるものなのです。