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佐藤彦大が受け継いだもの── "伝統の継承"が生み出す音楽の本質

佐藤彦大が受け継いだもの──

 若手音楽家の登竜門のひとつ、2016年第62回マリア・カナルス・バルセロナ国際音楽コンクール第1位、併せてグラナドス賞・聴衆賞を受賞(スペイン)され、現在、演奏活動や後進の指導にお忙しい日々を過ごされている佐藤彦大さん。

2007年第76回日本音楽コンクール第1位 、併せて野村賞・井口賞・河合賞を受賞、2010年第4回仙台国際音楽コンクール第3位、2015年第21回リカルド・ビニェス国際ピアノコンクール第2位(スペイン)など、数々の輝かしいコンクール歴をお持ちの佐藤さんですが、モスクワ音楽院への留学経験のなかでの気付きが、彼を大きく成長させたと言います。


表面的にはフレンドリーで愉快で、決して深刻な表情など見せない佐藤彦大さんですが、ひとたびピアノに向かうや否や、演奏が進むにつれ、ときおり垣間見せる深遠さ、卓越した鋭い解釈、至高の芸術性、美しさ…そうした光と影のもたす絶妙なバランス感覚を備えている佐藤彦大さん。(以下敬称略)
そんな彼が紡ぎ出す"繊細なタッチから生まれる多彩な美しい音"、そして"内奥から導かれる音楽性"──
その魅力と独創性に迫りました。

 

 

 

 

モーツァルトとの出会い

 

クラシック音楽を好きになったきっかけはなんですか?

佐藤そうですね、もともと幼稚園がミッション系だったのですが、お片づけの時間になるとモーツァルトのアイネク第一楽章がCDで流れていたのがとても気に入ってしまって…その曲が入っている曲集を買ってもらったのがきっかけでしょうか。幼稚園ではみんなで賛美歌などを合唱し、その伴奏を先生がオルガンで弾くので、もともとピアノよりもオルガンのほうに興味がありました。それからキーボード教室みたいなところに通いはじめ、それから小学生に上がって、モーツァルトのトルコ行進曲を聞いて「ピアノをやる!」って言って始めたんですよね。

 

スタッフなるほど。もともと音楽に触れやすい環境だったわけですね。

 

佐藤うーん、けど両親なんかは日本のロックなんかが好きでしたね!なので、あんまりクラシックに縁があるような感じではなかったんですけどね。(笑)

 

スタッフ:佐藤さんのモーツァルトが絶品な理由がわかりました。モーツァルトからはじまっているんですね…もともとモーツァアルトにご縁があったんですね。

 

 

 

 

七夕に願いを込めて──「ピアニストになりたい!」

 

― ご自身が演奏家として生きて行こうと思ったきっかけは何ですか?また、もしピアニストにならないとしたらどんな自分の姿を思い浮かべることができますか?

 

佐藤:うーん、それは超むずかしいですね!もともと小学2年生のとき、短冊に「ピアニストになりたい!」って書いていたんですよね。なので、ピアノを始めたときからピアニスト志望ではあったようですね。ピアノを習い始めたのも小学校2年生のときでした。で、質問はなんでしたっけ?(笑)

 

スタッフあぁ…(笑)演奏家として生きていこうと思ったきっかけは?ですね!

 

佐藤:あぁー、だとしたらやっぱり日本音楽コンクールで優勝した後とかでしょうか。コンクールのあと、もともと演奏会をほとんどやったことのない人間が、年間30、40回くらい演奏会をやるようになって…当時、1週間に1回くらいのペースで本番をこなすというような割合でしたので、まぁ、大変でした。

 

スタッフ佐藤さんは東京音大の付属高校から音楽の勉強をするために上京されたようですが、進路での迷いはなかったのでしょうか?よく進路で音楽科に行こうか、普通科に行こうか、皆さん迷われる印象がありますが、その辺はいかがだったのでしょうか?岩手からやはりこっちに出てくるというのは、何か覚悟のようなものがあったのでしょうか?

 

佐藤そうですね。当時、中学3年生のころ、僕は塾に通っていました。それこそ、岩手県で一番良い高校に入ろうとして、勉強していたんです!(笑)ちょうどその頃、鷲見先生(注:鷲見加寿子、東京音楽大学教授)に出会いました。当時習っていたピアノの先生がチェンバロ(古楽器)の専門の方で、いきなりその先生が留学することになってしまったのです。それがきっかけで鷲見先生を紹介してくださって、いろいろ接してお世話になっているうちに「東京に来ないか?」と、声をかけてくださり、それで、まぁ、進学するかどうかというところで…ごく軽いノリで決めました。(笑)

 

スタッフでは先生との出会いがきっかけだったのですね!

 

佐藤そうですね。ですが、まぁー東京出てきたときはカルチャーショックでしたね。岩手県の人間ってみんなおとなしくて、クラス会とかで話し合いとかしてもみんなシーンみたいな…(笑)ですが、東京は女の子が強い強い!!(笑)

 

スタッフ:えっ!!そこですか!(笑)

 

佐藤:うん!!女の子ってこんなに強いのか〜って思って・・・強い、びっくりでした!

 

スタッフそういうカルチャーショックは初めて聞きましたね。(笑)

 

佐藤そうですか?!でも授業は音楽メインでしたので、あの時代はスポンジが水を吸うように、かなり貪欲に勉強していました。

 

スタッフそれは…さまざまなカルチャーショックを経験するなかでも素晴らしい経験となったのですね!

 

 

 

 

 

 

 

 

日本人離れした音楽的なスケールの大きさ

 

スタッフところで話は変わりますが、佐藤さんってなんとなく、日本人離れした雰囲気がありますよね。

 

佐藤:それはよく言われますね(笑)「君は大陸系の薫りがする」とか…言われることがありますけれども、僕はれっきとした”岩手県の人間”ですよ!

 

スタッフうーん、なんとなくそうは見えないですね〜。

 

佐藤:だって!昔からキノコが好き、山菜好き、昆虫採取好き…のような人間ですからね!とてもピアノをやっているような人間には見えないです。自転車であちこち行くのも好きでした!

 

スタッフ:自然が好きですよね。

 

佐藤:もう大好きですよ〜!今住んでいるところは東京ですけど、比較的自然が豊かなところです。けっこうサギとか飛んでくるんですよね、川にも魚がいますし。とにかくアウトドア派!キャンプなんていったら超喜びます!(笑)

ただ、山登りしたことないんですね。それが残念……本格的にやってみたいです。

 

スタッフでも、やはりなんとなく、日本人離れしていますよね。最初にお会いしたときから、なんとなくずっと感じていました。

 

佐藤あぁ、初めてお会いしたときはちょうどスペインから帰ってきたときですからね!ただ、なんとなく日本にいるとちょっと窮屈な感じはするかもしれませんね。

 

スタッフやっぱり潜在意識というか、なんかそういうものがあるのでしょうかね。前世で外国人として生まれているとか(笑)

 

佐藤まぁー・・・ですけど、僕は日本は窮屈とは言いましたが、日本が大好きですよ!

 

スタッフ:輪廻転生があるとしたら、外国人としても生まれているという気がしますね。音楽的なスケールの大きさもうなずけます。

 

佐藤:どうなのでしょうね〜(笑)うーん、何人だったんだろう…ドイツとかなら嬉しいな!

 

スタッフでないと留学しないのでは?やはり異国にご縁があって留学するような気がします。

 

 

 

 

常に自分をアップデート

 

スタッフ:そういえば、留学して大きく変わったとか?・・・・以前お聞きしましたが…。

 

佐藤そうですね。最初ベルリンへ留学し、その後、ロシアへ留学したのですが、今まで日本で築き上げた成果とかプライドとか、そういうものはすべて捨てないといけなかったのです。

 

スタッフ具体的にはどういったことですか?

 

佐藤例えば日本のコンクールで優勝したこと(注:第76回日本音楽コンクール)、国際コンクール(注:難関で知られるマリア・カナルス・バルセロナ国際音楽コンクール第62回)で優勝したことなど…それらを実感するのは自分ですが、そうした事実を意識せず、…もう昔の話ですので、過去のものとして客観的に受けとめ、常に向上し続けられるかどうかが演奏家には問われているのだと思います。

 

スタッフ:なるほど…演奏家さんって常に向上というか、常に自分をアップデートしていかないといけない面がありますよね。

 

佐藤:そうそう、常に止まっちゃいけないと思っています。みんなよく言うじゃないですか、「コンクールは通過点でしかない」って、そのとおりだと思います。

 

スタッフ・・・・ですが、本当の意味でそれを体現している演奏家さんというのは少ないと感じます。また、聴き手である聴衆もそうですね、特に日本ではクラシック音楽の世界でも、日本人の体質自体がミーハー傾向が強いというか・・・・。

 

佐藤うーん、まぁー多少は仕方ないと思います。

 

 

 

 

ピアニストじゃなかったら……植物学者に、エレキベース?!

 

― もしもピアニストにならなかったら、なにをやっていたと思いますか?

 

佐藤:これはもう答えは決まっています!きのこの菌の研究とか!あとは多分、昆虫写真家。他にはそうですね〜、植物学者とか。米の配合とか面白そうです。・・・あ、あとは漁師、お金に余裕があったら釣り堀の経営、イワナとかヤマメとか、緑のなかで釣ってみたいです♪

 

スタッフ:さすがです。(笑)私、田舎の方の釣り堀に行ったことありますけど…釣り堀経営は、一回で飽きると思いますよ!あれは釣り堀というよりは単なる魚屋さんです。釣った魚は買わなければいけないので・・・(笑)

 

佐藤あ、そうなんですか!(笑)でも、釣った魚をキープして、その場でバーベキューみたいな…ああいうことがしたいですね!…あんまりお金になるような職業には憧れない(笑)…もしくは、他の音楽の方面だとしたら、エレキベースなんかやりたかったですね。

 

スタッフ:エレキベース?!

 

佐藤:なんか、スラップ(エレキベースの奏法の一つ)とか勉強してみたかったです。

 

スタッフ:へぇ〜〜!

 

佐藤クラシック音楽でなければ、エレキベースでしたね。

 

スタッフですが佐藤さんは指揮者なんかも向いていそうな気がしますけどね!

 

佐藤:そうですか?!舞台の上でただ暴れている姿しか想像できませんが……ただ、死ぬまでに一回くらいベートーヴェンのコンチェルトなんかを弾き振りしてみたいですね。

 

スタッフ:それは、ぜひお願いします!よく、演奏もできて、しゃべりもできて、マネジメントもできっていうのが流行ってきているという人もいますが、私個人の意見としては演奏が100できる可能性がある人がマネジメントもやろうとするとマネジメント50、演奏50くらいに分散されてしまうような気がします。すべては役割だと思いますので、それこそクラシック音楽というのは本当に膨大で果てしなくて、何回生まれ変わってもすべてをわかることはできないくらい価値あるものだと思います。ですので、その扱い方というものがとても大切だと思うんですよね。もちろん、お一人ひとりの選択ですが…、歴史的な背景が違うからなのでしょうが、海外のクラシック関係者やファンの方というのは、割とその辺のことがわかっていると思います、文化の違いですかね。

 

 

 

 

モスクワの厳しい環境で学んだ"伝統の継承"

 

佐藤:たとえば、僕が留学していたロシアでは流派を大事にしている国のように感じました。

 

スタッフ:なるほど、流派!日本でいうと家元制度に近いのでしょうか。茶道の世界でいう表千家や裏千家であったり、お箏だとか三味線とかでもあったりしますね、レガシーな業界では。

 

佐藤:そうですね、モスクワ音楽院で僕が習っていたヴィルサラーゼ先生がいる流派をどんどん辿っていくと、リストの弟子になります。ということは、リストの先生がツェルニーで、ツェルニーの先生がベートーヴェンですから、そうした師弟関係、"伝統の継承"というものを振り返ってみると、今回、ベートーヴェンの3大ソナタに僕が取り組むということは、ベートーヴェンから僕へと受け継がれてきた"伝統の継承"というものもあるはずで、なにかとても意義深いものを感じます、感慨深いというか、畏れ多いですね…。
最近では、このような"流派"というか、師弟関係というか、そういうものに誇りを感ずるようになりました。言葉では表しにくいのですが、心と肌で感じることができるすばらしい"伝統の継承"を数多く感じ、学んで帰ってきたからには、僕もある程度そのような"つもり"を持って、いま日本で教えています。ベルリンとモスクワに足かけ5年間いましたが、帰国して、以前の僕を知る友人からよく言われることは「まったくスタイルが変わった、体の使い方も異なっている!すべてが違う」ということでした。自分としては変えたつもりはないのですが、思い返してみれば、すべてを一からやり直したわけですから、変化したのは当然といえば当然のことといえます。

 

 

 

 

 

人生観、信念、誇り高きもの──

 

― どのような演奏家になりたいとお考えでしょうか?

 

佐藤: "人生観"とか、"このピアニストは・・・・!"というのでしょうか。信念であったり、「自分はこう!」みたいなものといいますか、そういうものが欲しいですね。割と僕はニュートラルというかナチュラルというか、あまりそういったものがないので、誇り高いもの…、そういうものを大切にしたいなと思っています。

というのも、ヴィルサラーゼ先生もインタビューでそのようなことをお答えしていたのを思い出し、そのとおりだなぁーと思ったので、彼女の言葉をお借りしました。

 

スタッフ信念ということでしょうか?

 

佐藤なんというのでしょう。奏法だったり歌わせ方だったり、音楽をある程度技術で表現することは可能ですが、そのような目先の事に囚われず、誰にも曲げられないような信念、超越したものが欲しいなと……年齢が解決してくれるのだろうと思いますが、今欲しいです(笑)

 

 

スタッフなるほどですね。聴いているその人にとって感動する演奏というのは、理論的・研究的には、なんと! AIでもできてしまうらしいです。人間とAIのアプローチが限りなく融合していく、脳科学の研究成果がAIのディープラーニングという技術に応用されることによって、あくまでも将来的には、また理論的には、ということだそうですが、その人にとって“最高の演奏”は、コンピュータが代行してしまうということになるかも知れない…という夢のような話の実現可能性が取りざたされるようになってきています。
ですがわたしたち聴衆というものはとてもわがままで、とても不可解で…わたしたちにとっての“最高の演奏”はころころと変わってしまう、また必ずしも“最高の演奏”を求めているわけでもない、これが実態なので、AIによる“最高の演奏”というのは、まだまだ実験室の中だけの空想でしかないと思います。
そもそもわたしたちが求めている“最高の演奏”体験というものは、あくまでも “一期一会の体験”であって、たとえば会場での出来事だったり、スタッフさんとの出会いであったり、自分がおかれている境遇や生活、心身の状況全体を総括的に含んでいる状況での出会いですので、ありとあらゆる要素が含まれているものだと思います。
となると、先祖帰りして、“生の一期一会の演奏会”を一番大切にしよう、ということになるのではないかと思います。
音楽は、やはり人と人との “いまここ” での一期一会の体験、それが大切だと思います。佐藤さんの言われる人生観であったり、信念であったり、誇り高きものであったり、人間という不可解な存在そのものの可能性にこそ、価値が生まれてくる源泉があるのかなと思われますね。

 

 

 

 

まるで建物を造っているような面白さ

 

― クラシック音楽の魅力とは何だと思いますか?

 

佐藤そうですね・・・“構築”、それから“モティーフの展開”とかを考えるもの楽しいです!ただ、音楽が好き、魅力がある、というのではなく、楽譜の中にはなにか“規律”があったりもします。特にベートーヴェンのソナタなんかでは、いくつかの動機があって、それが展開されているのが、まるで建物を造っているような感じになりますね。ここがこうで、それがこうなって、だからそうなっていくのか…というように建築にたとえてみても面白いと思います。

 

スタッフ:なるほど。聴き手としても、そうした展開の仕方をどのように演奏していくのか、そこに個性が出たりしていて、とても面白いですからね。

 

佐藤たとえば、バッハのフーガを弾くにしても、主要テーマ以外は全部控えればいいとか、そういうのともちょっと違うと思います。よくありがちですけど(笑)テーマとは違った美しい旋律がその背景にあるのに…とか。特にバッハの曲なんかはチェンバロで当時は演奏されていたわけですので、もしチェンバロで弾くと想定すると、どの音も同じ大きさになるはずなので、その辺を考えないといけません。それから調性ですね。コードと言ってしまえばポップスのように聞こえますが、50個とか100個とかそういうレベルではないので、そういうのもクラシック音楽の魅力の一つかなと思いますね!

 

スタッフそれは演奏家さん視点での魅力のようにも感じられますが、私たちのように素人が考える魅力はなんだと思いますか?

 

佐藤:あぁ、それは…悪い点しか出てこないですね〜(笑)なんか「長い」とか、「退屈だ」とか、「繰り返しが多すぎる」とか・・・・!

 

スタッフ:たしかに!(笑)

 

佐藤だって普通は5分以上あれば、長く感じるに決まっているではないですか・・・・。ですが、たとえば、絵画であってもちゃんと深く鑑賞しようと思ったら、解説も読んだりして、しっかりと隅から隅まで観察しようとするではないですか、クラシック音楽も同じですよ。

 

スタッフなるほど…。ですが、私なんかは絵画よりも音楽のほうがとっつきやすいです。音楽の場合、音楽の方からやってきてくれて”体験”することができるので、それから疑問が生まれ、勉強する気になります。

 

佐藤そうですね。ですが、最初からちゃんと飽きないで聴くためには、下調べであったり、事前知識を持ったりしたうえで臨んだ方がいいに決まってます。ですが、忙しい日々のなかで、そういうのは大変ですからね(笑)、ですので、最近のコンサートで喜ばれるのが、弾く、しゃべる、です。

 

スタッフなるほど。私たちもたくさんの演奏会に行っていますが、演奏家さんにとってのセットアップになっているトークはとても良いと思います。まるで演奏の前の前菜とでもいいますか。演奏会の一連の流れがレストランのフルコースのように自然なパターンになっている場合もありますよね。ですが、そうなっていない不自然な雰囲気になってしまうこともあります。そうすると、演奏家さんにとっても、聴衆にとってもなにかわだかまりが生じたまま演奏が始まるということもありますので、トークはないよりもあった方がいいと思いますが、最初から無理に喋ることはないと感じています!コンサートの始まりは、沈黙のなかで演奏が始まるというのが、より音に集中できることが多いように感じます。

 

佐藤うーん、なんだろう。聴く方も努力しないといけないところがクラシック音楽の魅力だと思いますね。本当に事前知識もなにもない人が50分のシンフォニーを聴いて、はたして感動できるのかどうか…よっぽど素晴らしい演奏ならどんな人の心も動かせると思いますが(笑)なんらかの知識があって、作曲家の人生観と照らし合わせたりした方が感銘を受けたりするような気がします。なので、クラシック音楽というのはある程度、敷居が高いものだということは否定しません。

 

スタッフ:そうですね、私も同感です。敷居を下げてしまったらダメだと思いますね。

 

佐藤ダメというか、できるだけそうならないように努力しているつもりです。ただ、外国のお客様は自分たちでしゃべらなくても、聴衆がいろいろご存知です。何しろ自分達の国の作曲家に誇りを持っていますからね。

 

 

 

 

ヴィルサラーゼ先生は自分の原点

 

― 好きなピアニストや目指しているピアニストがいらっしゃったら教えていただけますか?

 

佐藤昔はシフが好きで、高校生くらいからキーシンにはまり、日本音楽コンクールに出場した頃はリヒテルが大好きで…今は特定な人いないですね!
しいて言うならばヴィルサラーゼ先生!ヴィルサラーゼ先生の場合は好きというよりは、自分の原点に立ち戻るような感じなので、ちょっとニュアンスが違うかもしれません。

 

スタッフヴィルサラーゼ先生は今おいくつでしたっけ?

 

佐藤:75歳です。

 

スタッフ:え~っ!そんなふうには見えないですね…とてもお若い。

 

佐藤:あの先生、舞台のうえにたつと40代くらいまで若返って見えるんですよね。

 

スタッフたしかに(笑)毎年のように日本にいらっしゃっていますよね。

 

佐藤霧島音楽祭に招聘されたり、東京音大の客員教授でもありますので、年に1、2回は来日されています。うーん、ほかに好きなピアニスト…誰かいるかな〜。好きなピアニストと限定するのではなく、曲によって変わってきますからね。最近ではグラント・ヨハネセンですかね。たまたま聴いたら、音楽的にとても好きになりました。たまたまシューベルトのグラーツの幻想曲を勉強しているときに聴いて、感動しました。昔の演奏なのでもちろん欠点もあるのですが、その部分を取り除いても、とにかく長所がいっぱいあるというか、優っているといいますか…こんな隠れたピアニストいるんだな、と思いました。彼の他の曲も聴いてみたいですね。

 

 

 

 

自然が最大の癒し! 

 

― 練習以外の時間では、どんな過ごされ方をしていますか?

 

佐藤それはもう決まっていますよ!(笑)今、岩手大学にも行っていまして、週の半分は盛岡ですので、練習以外は教える、あとは自分の体のために休む、それから猫と戯れる…はい!!(笑)

 

スタッフキノコを採りには行かないのですか…?(笑)

 

佐藤今はキノコのシーズンではありませんが、シーズン中でしたら、空き時間にキノコや山菜取りに行ったりですとか、釣りに行ったり、あと料理も好きですね〜!それから最近は、自転車です。(笑)自転車は気分転換にいいですね〜。何しろピアニストは動かないですからね。

 

 

 

 

僕のピアノを聴いて、元気になって帰ってくれたら嬉しいですね

 

― ちょっとストイックな質問になってしまうのですが…クラシック音楽を通してのご自分の役割のようなものを本音の部分でお聞かせいただければ嬉しいのですが、いかがでしょうか?

 

佐藤そうですね・・・・ちょっと変わった話しをしてもいいですか?…僕のピアノを聴いて、元気になって帰ってくれたら嬉しいですね。さまざまな方から言われるのですが、僕のピアノっていくら聴いていても“疲れない”らしいんですよ。この前も「あなたのピアノ何時間でも聴いていられるわ〜」ってコンサート後にお声がけいただいて。

 

スタッフ:たしかに〜〜!!疲れないどころか、すごく元気になっちゃいますよね!エネルギーが湧いてくるといいますか…聴いていて、自分の中から本当にエネルギーが湧き上がってくるのが感じられるような演奏ですね。

 

佐藤:そうですか、それが役割で良いんじゃないですか!(笑)もちろんその前に、音楽家の使命として、“感動”をお客様にお伝えする、作品の素晴らしさ共有する、ということは外せませんが。

 

スタッフなるほどですね。最初に佐藤さんとお会いしてから感じていたことが一つあります。佐藤さんの表に出ている印象は、気軽でフレンドリー、ユーモアたっぷりでお話しされる姿がとても好印象という感じでした。ですが、演奏に初めて触れたときの衝撃は、今でも鮮明に覚えていて、何かすごいものをこの方は持っている、と感じました。
繊細なタッチで美しい音を響かせるピアニストは多いですが、佐藤さんのピアノの音は美しいだけでなく、すべての音が独特で、実に深い魅力をたたえており、内奥から導かれてくるすばらしい音楽性に溢れています。それによって何よりも音楽が“生き物”になっていて、その生き物が聴いている自分に入ってくるので、自分の内奥から元気になってしまう・・・・。
テクニック的には、右手と左手がまるで別な演奏者のように、たとえば指揮者とオーケストラのように、一体でありながら、それぞれ独自な個性があるような、そうした稀有の魅力に富んでいますので、それによって光と影のバランスが絶妙であったり、今後さらにすごいなにかを発揮するような気がしてなりません。

 

 

 

佐藤そう……ですかね〜(笑)けれども、常にいつも考えています。時にはピアノを弾くのが辛いと思うこともあります。良くわからないジレンマみたいなのがありますね。

 

スタッフ:それはやはり、本来すごいキャパシティーがあるのに、無理に出そうとしようとしていないといいますか…無理に急いで出すべきではないのかも知れませんね。たとえば「やるぞ、やるぞ!」と、表面的(意識的)には口に出している人ほど、口に出すだけで満足してしまって…裏(無意識)ではどうなっているのだろう…とか、企業の経営者などでも大成している人の多くが、変な表現ですが、必ずしも不自然なやる気などはなかったりします。自然に流されながら努力していくなかで、さまざまなきっかけから運をつかんでいる方が多いような気がします。ですので、表と裏、目に見えているものと見えていないもの、そうした両面とうまくつきあっていかないといけないですよね。・・・運命っていうのでしょうか、そうしたものは自分が作っているという面もありますが、天から与えられているという面もあると思います、そうした両面とうまくつきあっていかなければならないのだと思います。

 

佐藤なるほど、納得します。最近は良くわからないですけど、シューベルトを自然とよく弾くことが多いですね。心が落ち着くといいますか、自分を見つめる時間になるといいますか、瞑想といいますか、最近、無性に弾きたくなりますね。

 

スタッフ前回の演奏会での佐藤さんの即興曲の3番、これが本当にすばらしくて…すばらしくて、もう心に染みこんでしまっています!先ほども途中までちょっと演奏されていましたが、もう、続きが聴きたくて聴きたくて・・・!

 

佐藤:ベートーヴェンやめてオールシューベルトにしましょうか!(笑)

 

 

 

 

ベートーヴェンの三大ソナタ、真髄に迫る

 

― 最後に、今回の演奏会での聴きどころや意気込みをお願いします!

 

佐藤そうですね、こんなポピュラーなプログラム(ベートーヴェンの三大ソナタ)を演奏する経験はなかったのですが…(笑)先ほどもお話したとおり、大元を辿っていくと、ベートーヴェンの弟子になってしまうので、それを考えると、とんでもなく感慨深いプログラムだなと思います。
3曲とも世界観が全然違いますので、短編小説を3つ上手に並べたという感じがします。『熱情』に関しては、自分が1枚目のCDに入れたのですが、今聞き返すとまったく納得できません。ですが、最近はやっと何か答えがみつかった感じです。『月光』もそうですね。最近よくコンサートで弾いているので、6月にはもっとよいものに仕上げていけると思います。となると残る課題が『悲愴』ですよね〜。(笑) あれだけはなぜか3回くらいしか演奏会で弾いていないのです。ですので、今回は、研究の意味も含めて、突き詰めます!そして、そのうえで皆さまにお届けできれば嬉しいですね。作品を研究するのが大好きなので、演奏の準備の時間が一番楽しいんですよね〜♪

  

スタッフそうなんですね!私たちも三大ソナタをこうやって贅沢に聴く機会は初めてなので…非常に楽しみです!長々とありがとうございました。 

 

 

(2018年4月19日美竹清花さろんにて収録。文責、見澤沙弥香、渡辺公夫)