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今もっとも活躍中の若手ピアニスト黒岩航紀さんに聞く【音楽のQ &A】前編

今もっとも活躍中の若手ピアニスト黒岩航紀さんに聞く【音楽のQ &A】前編

 

2017年、第27回青山音楽賞新人賞を受賞!
今もっとも活躍中の若手ピアニスト
黒岩航紀さんに聞く、音楽との出会いから、今、演奏家として。まずは前編!




国内コンクールを総なめし、現在は国内外で演奏活動の幅を広げ、今もっとも活躍中のピアニスト黒岩航紀さん。(以下、敬称略)
黒岩さんといえば、そのレパートリーの広さや聴きごたえたっぷりな音の多彩さが光る演奏が魅力的です。

そんな彼の音楽との出会い、そして演奏家としての素顔をインタビューさせていただきました。
弛まぬ努力と、音楽に対する真摯な姿勢はいったいどこから溢れてくるのか…
びくともしない骨格の強さと芯の強さ、その秘密にたっぷりと迫ります。

 

 

 感動とは"驚き"  音楽との衝撃的な出会い。

 

ー 黒岩さんがクラシック音楽を好きになったきっかけ、ピアノをはじめられたきっかけは何ですか?

 

黒岩:僕がピアノを始めたのは3才か4才のときでした。姉の音楽教室にくっついて通っていたので、ごく自然に自分も行ってみたいと思ったのがもともとのきっかけではありましたが、自分が最初に触れた音楽が"ピアノ"という楽器を使ったもので、たまたま"クラシック"というだけだったのだと思います。

忘れられない印象的なエピソードがありまして…
僕は小学1、2年生の頃に、ピアニストのマルタ・アルゲリッチがシューマンのピアノ協奏曲を演奏したコンサートに行ったんです。その時に非常に強い衝撃を受け、圧倒されました…!

冒頭のピアノの音が鳴るや、呼吸も忘れたかのように微動だにせず、聴き入っていたみたいなんですね。そして演奏が終わるやいなや立ち上がってしまい、何か考えるでもなく、拍手をするわけでもなく、ただただ呆然として立ち尽くしていました。当時の僕にはアルゲリッチの技術がすごいとか表現力がすごいとか有名だなんてことは、わからなかったしどうでもいいことでした。ただ単純に「この音楽はすごい」「シューマンのピアノ協奏曲ってとっても良い曲だ」と、衝撃を受けたのは今でも強く、印象に残っています。

あの演奏を聴いていなかったら今のピアニストとしての自分はなかったと思っています。
そういう意味では、自分の原点ですね。

 


スタッフ
:そのような話は音楽家さんから良く耳にします。音楽家を志すきっかけはやはり印象的な音楽がきっかけなのでしょうね。
私たち聴衆なんかも、そういったきっかけはあります!
例えば、私が最初に音楽の凄さを体験したのがストラヴィンスキーの春の祭典でした。感動というより"衝撃"ですよね。「なんだ?!これが音楽なのか?!」と圧倒されましたね。
音楽がというのではなく、音響がすごいとでもいうのでしょうか…。
それからブルックナーの宇宙にハマって、バロック音楽の時間というラジオを毎朝聴くようになりました。
ですので、私の場合、いわゆるクラシック音楽の王道であるモーツァルトやベートーヴェンから入ったわけではないんですよね。
そう考えると"感動"の正体って何なのかなぁって思いますね。
良く一般的に言われているのが心の温まるのが感動って思うというのですが、"驚き"も感動ですよね。
「圧倒された!」「驚いて衝撃を受けた!」多くの人は最初はそんな感動から始まり、その正体を知りたくなって自分も音楽をはじめたとか、何かを決めるきっかけになったという話を良く聞きます。

 

黒岩:そうなんですよ!それって理屈ではなく…何がとか、どこがとかではなく"すごい"という感覚だけなんですよね。
ですので、良い演奏会に行くと(良いというか自分が好きな演奏会に行くと)終演後、その素晴らしさを言葉でうまく表現できないことがあります。例えば音楽評論家や音楽について評論される方々は楽理的な見解や歴史的な背景、あるいは何かと誰かと以前の演奏と比較したデータをもとにしてみたりと多方面の見方から演奏会のレビューをしたり、感想を述べたりできるのかもしれません。確かにそのような見解から感想を述べたりする場合が僕にもあります。しかし時にその諸々の理屈のようなもの、頭で構築されたものではないところで、理由はわからないけれども、すごいな、感動で胸がいっぱいになる、そういった感覚に陥ることがあります…。

 

スタッフ:それは音楽自体が言葉を超えた存在であることも関係しているのでしょうか?

 

黒岩:それはあると思います。言葉にはできないくらい、心に何か突き刺さるもの、心と音楽が直接握手しているような…それがある意味「純粋に音楽を楽しむ」ということなのかなぁと。

細部に気を取られて、この人はこういう演奏スタイルなんだろうとか、この人はこういう風に表現したいのであろうとか、実際、そんなことはどうでもよい場合も多いと思うんですよね。

僕はこうして演奏する立場となりましたが、お客様に専門的な言葉や楽曲を知った上で感想を言ってほしい、などと思ったことは一度もありません。

お客様とのコミュニケーションは好きですが、そこで何らかの言葉がお客様の方からうまく出てこなかったとしても、楽しい気持ちになってくださったり、喜んでみたり、泣きたくなってしまったり、いろんな意味でそのお顔が良い表情をしていたらそれだけで嬉しくなりますね。

 

スタッフ:なるほど!黒岩さんはそういう生の演奏ならではの空間そのものを大切にする演奏家さんだなとお見受けするのですが、それは何かきっかけがあったのでしょうか?


黒岩:それはですね、まったくきっかけというものはなかったんですよ。
僕はもともと人前で弾くのがすごく好きで…いつからというのはなく、本当に小さいときから人前で弾くことというのが誰よりも大好きでした…!(笑)

今も、なんのために練習するのかといったら、最終的にお客さんに聴いて欲しいから、というのがあります。

それこそ小さい頃は聴いてもらう相手が家族や親戚、友だちが多かったのですが、聴いて良かったって思ってもらえるのがとても嬉しかった。

ですので、自分でいうのもなんですが…人前で弾いているときが良い演奏ができているんですよね。

 

スタッフ:それはすごい!普通は「緊張しちゃって…」とかありますよね。

 

黒岩:そうですね。ですが僕の場合は人前で弾くのが好きという方が勝っちゃっていたのかもしれませんね。それがなぜかはわからないのですが…。

ピアニストによっては音楽というものは人間の領域を超えたものであって、神から授かったもの、そして偉人たちが残した遺産でもあり、そんな尊い存在である音楽が空間に広がっているのは、大事でかけがえのないことだと言います。

僕も一ピアニストとしてそういう一面も感じています。ですが、実際この世でただ一人残されてピアノを続けられるかといったら…僕は続けられないかも(?!)というより、求め続けられなくなるかも、と思います。

 

スタッフ:そこが黒岩さんの良いところだと思いますね。バランスがとれているといいますか。

最近よく思うのが、いわゆる"芸術至上主義"というのは、ちょっと違うな、と思うのです。
もちろん芸術は尊いものですよね。ですが、例えば無人島で一人で素晴らしい音楽をしたとしても、大満足かといったら、そうではないのでは?と。

 

黒岩:そうなんですよね。数々の作品は人間が作ったもの。その作曲家たちそれぞれに人生のドラマがあり、人と人との繋がりがあり、その中で素晴らしい作品が一つ一つ生み出されていったのだと思います。

もちろん、作曲家や演奏家の一部においては、神に選ばれたもの、天命のような、そう感じることも多いです。しかし"音楽をする"という意味で捉えると、やっぱり人間的なドラマ?綺麗事ではなく泥臭いまでの人生がないと、成り立たないものだと思いますし…人と人との結びつき…それらの心の繋がりがあってこそ初めて"良い音楽"が生まれるのだと、僕は信じていますね。

 

スタッフ:なるほど!今のお話を聞いて気づいたのですが、黒岩さんってどこで弾いていても楽しそうなんですよね!
弾くことに喜びを感じている…という弾き方なんですよね。

もちろん、ピアニストさんによって色々なタイプがあると思うのですが、たとえばツィメルマンやポリーニはお客様のことはなるべく忘れようとして自分の中に没入して演奏しているように感じます。一昨年、ポリーニのコンサートに行ったとき、空調や非常灯まで消してしまって驚きました。

自分の世界だけに没入して弾くスタイルと、お客様と一体化して演奏するスタイルと2パターンあるように感じますが、黒岩さんは後者ですよね!

 

黒岩:そうですね。もちろん、自分の世界を持ち、そこにお客さんもいる、という考えの中で、素晴らしい音楽があるのも事実です。

そういう演奏も僕は大好きです。ただ、自分が演奏をするという立場に立つと、やはりお客様がいて、同じ空気の中で音楽を共感しあえるというのが好きですね。

たまにレコーディングやラジオなど、機械に向かって演奏することがありますが、実は僕はちょっと苦手で…(笑)。ですので、その先にある誰かの顔を想像して演奏しています。

僕の場合は、そうしないと本当に孤独感に苛まれてしまうというか…音楽も一気に活力がなくなってしまうのです。

そういう意味では演奏会形式で観客の前で演奏していることが自分らしいのではないかなと。繰り返しになりますが、それは子供の頃から変わらないんですね。

 

スタッフ:なるほど。それで気がついたのですが、グールドが聴衆のための演奏はやらないといって引退したことがありましたね。

というのも、グールドのゴールドベルク変奏曲(1981年版)が好きでよく聴くのですが、あのグールドでさえ、自分のなかに没入して演奏しているだけではなく、自分もそれに含まれる聴衆を意識し、一体になって演奏を楽しむという姿勢があったように思えます。最近公開された録音シーンなどを聴いてもそうですね。

 

黒岩:そうですね。ですからグールドのようなピアニストでさえ、人に届くことを想像して演奏していたということですよね。むしろそれがなかったら演奏できないんじゃないかな、と思いますね。

最終的に"人に届ける"ということは、誰しもが意識していることであって、やり方や作りかたが違うだけかなと。

 

スタッフ:まったくそのとおりだと思いますね。

 


 

 

 自然体でいることが、続けられる秘訣

 

ー ご自身が演奏家として生きて行こうと思ったきっかけは何ですか?

 

黒岩僕、演奏家として生きていこうと思ったことはいまだにないです。(笑)
何というか、あまり「演奏家として生きていこう!」と不自然に決めたということはないのです。
自然と聴いてくれる人がいて、もっと良い演奏をしたいという自分の欲求があって、それに共感できる環境があって…その関係がただ幸せで、その喜びを常に噛み締める日々が続いている、そんな感じです。
何かこう"仕事"的な(マイナスな)意味ではまったく考えていなくて、僕にとってピアノというのは最大の趣味であり、最大の特技というところから始まっていますから。

よく、何がプロのピアニストなのか、ピアニストとは、というような論議になりますが、僕は自分がプロのピアニストだと思ったことは一度たりともないのです。
もちろん、僕の音楽を聴きにお客様が足を運び、自分の時間を捧げてくださっているわけなのですから、それに応えるだけの良い演奏をしてお客様が納得して、良い表情で帰ってもらわないと、というのは大前提です。
ですが、どんなに歳を重ねても音楽の追究は続くと思っているので…ゴールはないと思っています。

それと、"先生"と呼ばれることも多いのですが"先生"と呼ばれることもあまり好きではありません。とても違和感を感じます。
例えば誰かにピアノを教えることがあったとしても、音楽というもの自体"正解"というものが極論かもしれませんが、無いとも言えます。
自分だったらこう弾く、自分だったらこういう考えを持つ、こうしたら良くなると思う、ということをただ伝えているだけで、そのとおり弾いたら良いということはまったく思っていないですし…。
教えることも演奏することも、僕が「良いな、共有したいな」と思っている音楽に、ついてきてくれる人がいて、僕の考えている音楽の輪のなかに人が混ざってきてくれているというのが、すごく幸せなことだなと思っています!

 

スタッフ:なるほど!音楽とは"会話"とも言えますね。そして、それを伝えることや教えることは"共有"ですか。

先ほどから黒岩さんのお話をお伺いしていると、すごくシンプルだなぁと感じます。

 

黒岩:そうなんですよね。

ですので、本来、音楽の世界に"プロ"なんてものは無いと思いますね。
例えば、世に言う"アマチュア"のピアニストが演奏会で奏でた音に感動することというのもよくあります。それは上手いとか下手とかではありません。やっぱり音楽の原点と言いますか…そういうものなんじゃないかなと思います。

 

スタッフ:そうですね。かつて小澤征爾さんが言ったように"音楽は太陽みたいなもの"という側面を忘れてはいけないのだと思いますね。音楽は太陽のように分け隔てなく、人類全体を照らすものなのですね。
芸術至上主義といった、偏った孤高の存在ではなく、皆がいて音楽があって生きていく、ということなのだと思います。
もちろん、音楽の世界ではコンクールなどの競争も時にありますし、演奏を仕事にすることの大変さもあるとは思いますが…。

あ、そういえば黒岩さんにお礼を言わなければいけないことがあって、思い出しました!
以前、黒岩さんとお話ししていたときに、なるほどと納得した言葉があったのです。
「音楽家の仕事って地味ですよ。ただ、目の前に本番があって、練習をして…その繰り返しですよ。」と、その言葉が妙に私のなかでしっくりときていて…。
なぜしっくりきたかと言いますと、どんな仕事をしている人でも、実は音楽家さんと一緒なのでは、と気付いたのです。
日々、どんなことを考え、意識し、生きているのかというのは、仕事のパフォーマンスにもすべて出てしまいます。仕事をすることは単純に作業することだけではないですね、そう考えると、例えばご飯を食べているときも、寝るときも、お風呂に入るときも、すべて仕事だと言えますよね。音楽家さんって、音楽に人生が出てしまうじゃないですか、隠せないというか…。本当は、どんな人のどんな仕事も同じようなものではないのかな…と。

 

黒岩:そうですね。僕にはオンとかオフって無いですよ。(笑)
なんていうか、その感覚が無いので、常にオフです。

 



スタッフ:やっぱり!そうなんですよね。
当サロンにいらっしゃる音楽家さんで皆さん音楽だけでなく、人間性というか人格的にもブラボーな方ばかりです!それはなぜなんだろうと考えたとき、音楽を追究する過程で、何かそういった大切なことに気づくからなのだろうと思っています。

 

黒岩:そうですね。僕にとって、演奏会があって、そのために音楽を追究して、お客様に伝えられて本当に幸せなので、本当にいつでもオフなのです。
ですので、他の仕事をしている人もその考え方を応用してみると人生がより良くなるというか…もしかしたら考え方一つですけど、楽になるのかなと思いますね。
よくオンとオフの切り替えといったことを色々な業界で耳にしますが、オンとかオフを超えたすべてが自分だと思えたとしたら、少し見える世界が変わりそうですよね。・・・・なんて、カウンセラーみたいなことを言ってしまっています。(笑)

 

スタッフ:そうですよね!(笑)自然体でいれるというのがポイントな気がします。
演奏家さんってこうやってお話するときや、演奏を聴かせていただくときも、すべてにおいてどこか自然体なんですよね。ですから、演奏の中での凄まじい集中力というのも、自然体のなかで自然に生まれているものなんじゃないかなと思ったりもします。・・・・すみません、脱線しました…。

 

 

 

 

 黒岩流!ステージに立つ上での心構え

 

ー 実際に演奏家として多忙に活躍されている黒岩さんですが、本番が毎日のようにあるなかで大切にされていることや心がけていることなどございますか?

 
 

黒岩ずばり睡眠です。(笑)
1日7、8時間くらいは寝ています。
やっぱり、健康体でない人が前にでてきたら嫌じゃないですか。ですから、自分がいつも良い状態で、お客様の前に立てるようにしています。

ステージに出るということは、演奏家にとって丸裸にされることなのです。すべてが出てしましますから…。そうなると、体調管理に気をつけることは、とても大切なことだと思いますね。あとは美味しいものですよ!それは"超"大事です!(笑)

 

 

スタッフ:なんと!それは…気が合いそうですね!(笑)

 

黒岩:良い料理を知らないと良い音楽はできませんよ。一緒です。

 

スタッフ:あぁ、それはわかりますね。なぜか音楽家さんってグルメな人や料理が上手い人多いですよね…!良いものに触れる、ということはきっと大事なことなのでしょうね。

 

 

 

 

 バッハとショパンは特別な存在

 

ー レパートリーが多彩な黒岩さんですが、生涯を通して演奏し続けたいと思う作曲家や曲がありましたら教えてください。

 

黒岩:固定の作曲家に限定せずに様々な作品に取り組んで演奏しているのは、なにか打算的なものはまったくなく「ただやりたいから」というのが一番大きいですね。(笑)

人によっては「色々な作曲家を勉強したほうがいいから」とか、「自分のキャパシティの可能性を試したいから」というようなことを理由にあげる人もいると思います。

ですが僕の場合、自分の興味の幅があまりにも広いため、その結果、そのようになってしまうというのが答えなのです。

自分が好きな作曲家があまりに多すぎて…自分があと10人いたらもっとたくさんの作品に触れることができるのになぁと、どう頑張っても取り組みたいと思っている作品の全ては一生かけてもやりきれないだろうなと絶望してしまいそうになるくらいです。(笑)

・・・・えっと、脱線しましたが、生涯を通してやりたい作曲家。これは本当にベタな答えですけど"バッハ"です!・・・2人に1人が答える答えだと思われますが(笑)これはもう言わずもがなですが、どの作曲家や演奏家に聞いてもバッハをリスペクトしているし、バッハなくしてクラシックの数々の作品は生まれ続けなかったはずです。

バッハという存在は音楽家にとっての偉大なる父と言われますが、本当にそのとおりですね。バッハは生涯、演奏しつづけなければいけない存在だと考えています。
音楽家にとっての父ですから。家族は大事にしないといけないですが、血が繋がっていなくても僕にとっては父のような存在なのです。

けれども、この回答だけだと全然面白くないので、もう一人あげるのであれば"ショパン"です。

 

スタッフ:わぁ! 意外でした! リストだと思っていました! なぜショパンなのですか?

 

黒岩:そうですね。どうしてショパンなのかというと、自分が"ピアニスト"だからですね。

いろんな楽器に興味があります。時には作曲や、指揮にも…ですが「なんの楽器を一番愛していますか?」といわれたら迷わず"ピアノ"と答えます。

そうなったときに一番ピアニストにとって近い存在、あるいはピアノを愛して愛してやまなかった作曲家というのはやっぱりショパンかなと思っています。

あれほどすべての作品にいわゆる"駄作"がない、すべての作品がすべての人に愛されている…そんな作曲家はショパンしかいないですね。

ショパンというのはピアノ作品を極めに極めた作曲家なので、その作品を本当に素晴らしく演奏できたとしたら、本当に歌うことができたとしたら、他の作曲家のどのピアノ作品も良い演奏ができると、僕は勝手に思っています。

もちろんバッハを聴けばわかる、と言いますよね。次にピアニストの何を聴けばわかるかというと、ショパンを聴けばわかります。

そして、自分自身はショパンの勉強はまだまだ足りておりません!

色々な作曲家に興味はあるので演奏しますが、ショパンだけは意外にもずっと弾き続けていますね。プログラムにも何かしら、ずっと取り入れ続けてもいますし、それは僕の熱烈な"ショパン愛"ゆえです。(笑)

 

スタッフ:なるほど!そういう意味では黒岩さんってやっぱり"ピアニスト"なんですね。

 

黒岩:そうですね。
ショパンというのはやっぱりピアノという楽器に魅了された作曲家ですから。
もちろんチェロソナタといったピアノ以外の作品も残してはいますが、ピアノバカだったというか…彼自身、ピアニストだったんでしょうね。

 

スタッフ:なんでショパンはピアノバカになったのでしょうか?

 

黒岩:・・・なんででしょうね?僕がピアノバカなのと同じ理由じゃないでしょうか?(笑)

  

スタッフ:なるほど、天命だったんでしょうね。もともと才能があって、そこにピアノがあって、ピアノという楽器に惹かれて、それを表現する手段が多くの作品となり、今も愛されていて…。

 

 

 

 

 ピアノは"一人アンサンブル"

 

スタッフ:そう言えば、滅多にコンチェルトを弾かなかったホロヴィッツは、理由を聞かれて「オーケストラは邪魔だから」と答えたというエピソードを思い出しました。(笑)

 

黒岩:そうですね。ピアノ自体がオーケストラですからね!ここに座っているのが指揮者、一本一本の指がそれぞれの楽器でこの人(ピアニスト)次第で音楽がどうにでもなるというか…まるでシンフォニーですね。

そういう意味では、ピアノソロというのはある意味"一人アンサンブル"ですね!


 

スタッフ:確かに。私が好きなピアノ演奏に出会うと、不思議な話なのですが、ピアニストはピアノを演奏していないのです。「ピアノを一生懸命弾く」というよりは、ピアノのこの大きな蓋から「音楽が広がる」という感覚に陥ります。

ピアニストはピアノを鳴らそうとしているのではなく、いまここで音楽を現す、創造している、と感じることが多々あります。

 

黒岩:わかります。

もちろん、どの楽器もそれぞれ難しいとは思いますが、ピアノって本当に難しいですね。やってもやっても勉強が足りないというか…。一人で指揮者の役割も楽団員の役割もすべて引き受けてオーケストラとして演奏するわけなので、何十倍も勉強しないといけないんだろうと、いつも思います。

 

スタッフ:たった指一本の、たった一度の音でも全く違いますものね。

 

黒岩:全然違いますね。
ですので、そういう意味ではアンサンブル作品に取り組むということは、ピアノソロと切り離せるものではないと思っています。
アンサンブルをやることによってピアノソロに還元できることというのは、とてもたくさんあります。例えば、管楽器奏者などは一音一音に人生かけていますから…そのこだわりはピアニストの一音一音とは、残酷なまでに明らかに違うのです。

そういう奏者の音を聴くと「こうやって歌うのかぁ」と、ハッとすることが多いですね。

一緒にアンサンブルをやりながら考えますし、「こんな音出したいなぁ」とか、声楽の人と演奏した時は「こうやって歌えば良いのかぁ」とか。自分の中での発見もあり、多くの気づきを参考にさせていただいています。

 

スタッフ:そうですね。バッハの曲も器楽的な曲もあれば声楽的な曲もありますものね。だとしたら歌がわからないよりはわかったほうがピアノでの歌い方もなんとなく変わってきそうですね。管楽器の人と一緒にやると、こんなふうにブレスするんだとか…そういうのも参考になりますね!

 

黒岩:そうなんですよ!ピアノはブレスをしなくても音が鳴ってしまいますからね。

そうやって音楽を作っていかないと聴いている人が心地よくないというか、ボタンの掛け違いを起こしてしまいますね、機械の演奏みたいに…。

アンサンブルは、自分がそれをやっていなかったということに気が付いてしまうので、本当に恐ろしいです!
聴いていて心地が良く、心に響く音楽というのは"呼吸"がありますよね。

 

スタッフ:なるほど。

この前の黒岩さんの演奏会でバッハを演奏している時に、その"呼吸"というか…絶妙な"間"というか、そういうものを感じました。呼吸、そして余韻の魅力に気づかせてくださいますね。

 

黒岩バッハの音楽には"歌"があります。
それこそ、多声の"歌"をここ(ピアノの鍵盤上)でやっているだけなのです。だからバッハは面白いのかと。
やっぱ"歌"って(ピアノももちろんそうだと思いますが)一人一人の個性があるじゃないですか、声質とか。それって一人一人の声帯の違いや体型の違いもありますし、最後は好みになりますね。
特にバッハの音楽というものは僕にとって鍵盤でやる"歌"だと思っているので、その人の"個性"が一番出せるところかなと
どう楽器が変化しようと、どう技術が発達しようと、どう時代が変化しようと、バッハという存在はまったく色褪せることがありません。
これからも何百年と、自分が死んでからも変わらず続くのだろうと思います。

 

スタッフ:たしかに…。バッハの音楽って、今のモダンピアノになる前に作曲されたはずの音楽なのに、現代のこのモダンピアノで演奏してもなぜこんなに素晴らしいのだろうと…ふと思うことがありますね。ですが、古楽器で弾いたとしても当時の音色が蘇るようで、それもまた素晴らしいです。さっきの話ではないですが、バッハって本当にみんなの"お父さん"なんですよね。

 

黒岩:そうなんですよね。だから僕は古楽器、モダンピアノ、どちらで演奏したバッハも好きですね。

 

 

後編へつづく)