革新と魅惑に満ちたワーグナーの音楽が生み出す、陶酔の極み──
ワーグナーの音楽は、麻薬だ。そう比喩されることがしばしばある。それは、彼の音楽に特別な魅力があり、興奮させ、中毒性があるから。
実際、多くの偉人、音楽家たちが魅了され、虜になり、時として狂わせられている。
ワグネリアン(ワーグナーの愛好家、心酔する人)という言葉が生まれるほどだ。こんな言葉は、他の作曲家にはない。
今回、私はそんなワーグナーの楽劇に1人で取り組むことになった。立ち向かう、という表現の方がいいかもしれない。
ワーグナーの楽劇は、ピアノからは最も遠いと言ってもいい。本来はピアニストが取り組めるようなものではないのだ。
しかし、リストをはじめとした、数々の作曲家たちが名編曲を残し、不可能を可能にした。これは、とても画期的であり、有り難いことだ。これにより、我々ピアニストが、ワーグナーに取り組む権利を得た。
このリサイタルのプログラムを構想する際、自ら編曲を手がけることも視野に入れたが、今回は先人たちの大きな力を借りることにした。
とはいえ、ワーグナーの楽劇の追究というのは必要不可欠であり、その音楽の真髄へと迫れるかどうかは、楽しみながらも、少し怖いところでもある。最終的にどのようなリサイタルになるかは、自分でも未知数だが、しかしワーグナーの音楽に没頭する時間は、たしかに心躍らせる。
全身全霊をかけて臨んだ先に、凄まじい音楽のエネルギーを生み出せるような予感がしているし、そう願っている。
ワグネリアンの方も、そうでない方も、終演後には、熱狂的なワグネリアンへと誘い、変貌させる!いっそのこと、そのくらい大きな目標を持って…。
(黒岩 航紀)
プロフィール
黒岩航紀(くろいわ・こうき)Piano
東京藝術大学音楽学部ピアノ科を首席で卒業し、同大学大学院音楽研究科修士課程修了の後、ハンガリー、リスト音楽院にて研鑽を積む。第11回東京音楽コンクール第1位及び聴衆賞。第84回日本音楽コンクール第1位。第13回ヘイスティングス国際ピアノコンチェルトコンペティション(イギリス)第4位及びオーケストラプライズ。インムジカローマ国際ピアノコンクール2018(イタリア)第3位。2019年KIPA国際ピアノコンクール(韓国)第1位。第27回青山音楽賞新人賞。第14回宇都宮エスペール賞。2017年にはロシア・サンクトペテルブルクより招聘され、サンクトペテルブルク国立アカデミーオーケストラとブラームスピアノ協奏曲第1番を共演し、音楽監督セルゲイ・ロルドゥギン氏に絶賛される。2019年東京オペラシティリサイタルシリーズ「B→C」出演。現在は国内を中心にソロ、オーケストラとの共演に加え、荒川文吉氏(Ob.)、齋藤志野氏(Fl.)との「Trio Explosion」を始め、室内楽やアンサンブルピアニストとしても活動している。
芹沢直美、秦はるひ、江口玲、ファルヴァイ・シャーンドル各氏に師事。
(公財)青山音楽財団奨学生。宗次エンジェル基金/(公財)日本演奏連盟新進演奏家国内奨学金制度奨学生。(公財)ロームミュージックファンデーション奨学生。
2017年デビューCD「sailing day」を、2019年2nd CD「展覧会の絵」リリース。
https://www.kokikuroiwa.com