鈴木舞 × 川口成彦 シューベルト・シリーズ第2章
瑞々しい歌心から、幻想曲 D.934の深き幻想へ
シューベルトの音楽は、親しみやすい顔をして、
ふと聴き手を深いところへ連れていく。
美しい旋律、素朴な歌、柔らかな光。
しかしその奥には、言葉にしがたい憧れや孤独、
そしてどこか遠くへ向かっていくような幻想が息づいている。
その何気なさの中に、シューベルトの底知れぬ魅力がある。
鈴木舞 × 川口成彦によるシューベルト・シリーズ第2章となる本公演では、
ソナチネ第1番 ニ長調 D.384、ソナチネ第3番 ト短調 D.408、ピアノソロによる《グラーツ幻想曲》D.605A、
そして幻想曲 ハ長調 D.934をお届けする。
ソナチネ第1番には、
若きシューベルトならではの明るさと瑞々しい歌心がある。
その旋律は清らかで伸びやかで、
まるで音楽が自然に生まれてくる瞬間に立ち会うような喜びに満ち
ている。
一方、ソナチネ第3番では、親密な語らいの中に、
ふと影を帯びた表情がのぞく。
軽やかさの奥にある翳り。
この移ろいこそ、
シューベルトを聴く大きな愉しみのひとつだろう。
ピアノソロで奏でられる《グラーツ幻想曲》D.605Aは、
ひとときの夢のような作品である。
即興のように現れては消えていく旋律の断片に、
シューベルトの内なる詩がそっと滲む。
そして、幻想曲 ハ長調 D.934。
この作品に至ると、
シューベルトの音楽は一気に大きな広がりを見せる。
歌、祈り、舞曲、夢、そして激情。
さまざまな表情がひとつの流れの中で結ばれ、
ヴァイオリンとピアノは、時に寄り添い、時に呼応しながら、
深い幻想の時間を紡いでいく。
鈴木舞氏のヴァイオリンは、
ダイヤモンドの粒が踊るような音色で、時に情熱的に、
そして夢見るように繊細に、表情豊かに歌いあげる。
作品ごと真剣に音楽に向き合い、時に大胆に演じ切るその姿は、
まるで女流剣士のよう。
シューベルトの音楽は奏者によっては単調に聴こえてしまうことも
あるが、彼女の演奏はその真逆。
聴き手を最後まで引きつける力に満ちている。
一方、川口成彦氏のピアノは、
精妙なニュアンスに満ちたフレーズの美しさが際立ち、
対話を重んじた響きで会場を包み込む。
彼のピアノは、語るように歌い、歌うように語る。
シューベルトの音楽が持つ詩情と不思議なほどに重なり合うのは、
偶然ではないだろう。
芸大時代の同級生である二人のアンサンブルは、
まさに息がぴったりだ。
互いの音をよく聴き、受け取り、
そこから次の一音が自然に生まれていく。
単なる技巧の見せ場ではなく、作品の奥にある「語られざるもの」
に耳を澄ませるとき、そこにはきっと、
シューベルトの音楽が持つ「言葉にならない詩」
が満ちていることだろう。
瑞々しい歌心から、幻想曲 D.934の深き幻想へ。
鈴木舞 × 川口成彦が紡ぐシューベルトの第2章は、親密でありながら深く、
静かでありながら豊かな余韻を残す時間となるに違いない。(渋谷美竹サロン)