黄金のバランス感覚と、しなやかな感性、そして澄んだ知性――
實川風による九年目の《ゴルトベルク変奏曲》
一年の終わりに《ゴルトベルク変奏曲》を聴く。
美竹サロンが大切にしてきた年末のこのひとときも、
今年で九年目を迎えます。
毎年、異なる演奏家がこの大作に向き合い、
その人ならではのゴルトベルクを届けてきました。
同じ作品でありながら、聴くたびに異なる音楽、
異なる感動に出会います。
世が変わり、奏者が変わり、そして聴く私たちもまた、
年月と共に変わっているからでしょう。
《ゴルトベルク変奏曲》が私たちに与えてくれるもの、
それはいつも「心の慰めと安らぎ」です。
人生は常に変化し、さまざまな喜び、哀しみ、迷い、
悩みと共にあります。
そんな中で私たちは、ややもすれば、
自分にとって最も大切なものを忘れてしまいそうになります。
しかし不思議なことに、
ゴルトベルクはどんな時にも静かに私たちに寄り添い、
心を癒やし、安心させてくれます。
《ゴルトベルク変奏曲》とベートーヴェンの《第九》、
この組み合わせは、一年を振り返り、新年を迎えるのに、
まことにふさわしいものといえるでしょう。
今回(2026年)は、實川風が紡ぐ《ゴルトベルク変奏曲》
です。
昨今、彼が最も力を注いできたのがバッハであり、
4年前の美竹サロンの公演も「新境地、バッハ」でした。
實川風の演奏は、
聴く者を音楽の内奥へと自然に導く力があります。
彼ならではの「しなやかな感性と澄んだ知性」
によって作品の本質が捉えられ、
恣意的に歪められることなく、
見事なバランスをもってその場に再現されます。
一音一音の響きにまでバッハの慈しみが込められて発せられますが
、その流れが構成する音楽そのもの、
それがバッハのメッセージであり、
同時に實川風の演奏そのものなのです。
演奏時間的にもバッハの大作といっていい《ゴルトベルク変奏曲》
ですが、
この曲は聴けば聴くほど、
その不思議な魅力の秘密を私たちに開示してくれるような気がしま
す。
「黄金のバランス感覚としなやかな感性」
を備えた實川風の今回のゴルトベルク。
それがもたらしてくれる安らぎは、
どのようなものとして私たちの心に残るのでしょうか。
冒頭のアリア、そして三十の変奏を経て帰還する終結のアリア――
これを私たちはどのように受けとめることができるのか、
真に大きな期待を抱かざるを得ません。
(渋谷美竹サロン)