魔法をかけるかのごとく聴き手を強力に誘い込み、音楽と一体化してしまう鐵百合奈、再び登場。
鐵百合奈さんが熱い期待に応え、ふたたび美竹清花さろんに登場します!8月5日の鐵さんの演奏会直後から「次回の演奏会が待ち遠しい」と、日程も決まっていないのに仮予約をされる方が相次ぎました。今回の演目は前回とはまったく変わっていますが、実に盛り沢山で、しっとりとした味わい深いものが多くなっています。
バッハ平均律クラヴィーア曲集1第1巻より第12番ヘ短調は、どこか甘美で哀切なところもあり、バッハというバロック音楽の作曲家のロマンティシズムを感じることができる曲調が魅力的といってもよいのではないでしょうか。この曲から始まる演奏会というだけで、ワクワクしてしまいます。次はベートーヴェン/ピアノソナタ27番、この曲も鐵さんにはピッタリの鐵さんらしい選曲です。その後の曲も目を惹きます。ラヴェル「夜のガスパール」よりオンディーヌ。さらに休憩を挟み、ヤナ-チェク2曲、そして締めはブラームスのピアノソナタ2番となっています。
前回のプログラムでは、すばらしくチャレンジングな演奏会になると予感し、実際、そのとおりの感動的な演奏が次から次へと披露されました。今回は、ラヴェルなどによって、鐵さんというピアニストの新たな側面、またブラームスでは、彼女の豊かな内面的な魅力がふんだんに示されるのではないでしょうか、とても楽しみです。
鐵さんの、聴き手を音楽の中に誘い込む吸引力は大したものです。「魂の内奥に響くような説得力…偉大な作曲家の魂と共振しあうことができるのか…」そんなふうに表現したことがあります。若いチャーミングな女性ですが、ひとたびピアノに向かい、数十秒もすると、そこには別人が存在しているかのような、圧倒的な臨在感が生じます。
鐵さんの演奏の特徴は、そうした集中力による魂の次元からの深遠な音楽の湧現といってよいと思います。具体的な特長でいえば、ヴァイオリンやチェロの演奏、また高度な息の合った弦楽アンサンブルでときどき味わえるようなコンテキストの魅力、誰にも止めることのできない感動の抑揚といったらよいのでしょうか。この大きな、深い抑揚、呼吸に引き込まれたら、魔法をかけられたかのように、最後まで、聴き手であるわたしたちも、その音楽の世界にたっぷりと浸ることになります。
鐵さんはどんな作品でも、決して客観的な姿勢で弾くようなことはありません。深く情熱的に、作品そのものと一体化します。自分だけがそうなるのではなく、聴き手であるわたしたちもその一部として誘い込んでしまいます。これが鐵百合奈さんというピアニストのたぐいまれな魅力なのだと思います。
(美竹清花さろん・渡辺公夫)
プロフィール
鐵 百合奈
香川県生まれ。東京藝術大学音楽学部附属音楽高校、同大学を経て、同大学院修士課程に在籍。青柳晋氏に師事。
ピティナピアノコンペティション第29回E級全国大会銀賞、同第35回G級銅賞。第11回大阪国際音楽コンクールAge-H部門第1位、兵庫県知事賞。第20回日本クラシック音楽コンクール高校の部第1位、グランプリ。第14回ローゼンストック国際ピアノコンクール第1位。第84回日本音楽コンクール入選。
藝大卒業時に、アカンサス音楽賞、藝大クラヴィア賞、同声会賞を受賞。皇居内の桃華楽堂にて御前演奏を行う。学内より選抜され、藝大モーニングコンサート、日韓交流演奏会、同声会新人演奏会、読売新人演奏会等に出演。
ヤマハ音楽振興会、よんでん文化振興財団、岩谷時子音楽文化振興財団より奨学金を受ける。