現代屈指の作曲家と称されるリゲティを
異色の俊才、内匠慧が弾く
密かに注目をしていた内匠慧さんとやっと連絡が取れたのは、今年(2017年)の春頃、まだ内匠さんがロンドンに留学中の頃でした。ロンドンからメールをくださいました。
当サロンではおなじみになりつつある務川慧悟さんとは(歳は一つ違いですが)同じ愛知の全国的にも名が知られている名門校、旭丘高校出身で幼馴染みのように仲の良い内匠さんを務川さんが繋いでくださったようです。人と人との繋がりを大切にできるのもサロンの良い特色ともいえるでしょう。
かねてより、多くの若手ピアニストさんから「内匠君こそ、本当の天才だよ!」「彼、変わってるけど本当にすごい」等々、多くの興味を惹かれる言葉を耳にしていたものですから、一体何がすごいのだろう・・・もしかして奇人? 変人?・・・・そんな得体のしれない期待と不安(?)を抱きつつ、9月、初めてお会いすることができたのです。
そして、実際にお会いしてみて、安心した面と驚いた面がありました。
まず安心した面は、とても好青年だったということです!
そこにいたのは、自分が演奏家として何を目的としてやっていくべきか、ただただひたすらに追求し、純粋な使命感を抱き続けている誠実で真摯な一人の音楽家でした。
そんな彼のミッションは"現代音楽を広めたい"ということです。
"現代音楽"と聞くと旋律のない、決して綺麗とはいえない和音が無機質に散りばめられた音楽…という印象を私たちは勝手にイメージしてしまいます。
しかし、その中でも本当に素晴らしい曲というのはたくさんあり、しかもそうした音楽には全ての音に意味があるのだといいます。
そして誰かが今作られた"音"を繋いでいかなければ、現代愛されているベートーヴェンやショパン、リストなどといったように後世に残ることが難しいのだと。
ですから、自分がその役割を演奏家として担いたいと、内匠さんは言います。
その真っ直ぐピュアな想いと、やる気にみなぎった情熱と行動力に、当サロンとして全力で応援したいと思ったことを今でも鮮明に覚えています。
内匠さんのそういった好印象と同時に、驚いた面もありました。
それは、大変に異色な才能の持ち主であったということです。ハイドンやモーツァルト、ベートーベン、ショパン、ラフマニノフなど、一般的な名曲でも内匠さんはすばらしい演奏を披露されます。しかし、先程もご紹介した通り、それでも彼は誰も手をつけていない現代音楽家のすぐれた作品を伝えたいのです。(未発表の作品のみならず、作曲を委嘱したいという希望も強くお持ちでした)
そうしたお話しをいろいろと聴かせていただくうちに、内匠さんには、妥協せずに“内匠ワールド”の魅力をご紹介いただきたいと考えるようになり、今回の企画となりました。現代音楽のシリーズ化という、"内匠"ならではの"匠"な斬新さ溢れる企画と演奏に目が離せません!
(見澤沙弥香)
リゲティに最適な“内匠 慧”の演奏に期待!
わたしは現代音楽はほとんど聴いていません。唯一の例外は武満徹くらいです。トーマス・ヘルのリゲティ演奏会には行ったことがありますが、聴いているときには面白いと感じたものの、終わってみて残るものがなく、ややこしさ?だけを感じてしまいました。
ところが現在、リゲティは大人気だそうで、日経電子版に以下のように紹介されたことがあります。
リゲティの時代がきた! メジャーへ躍り出た孤高の作曲家
「私は音楽を書く。それが人々に何を語りかけるかは、気にしない。ただ、消費され、最後は無に帰すたぐいの作品ではないとの自負はある」
ユダヤ系ハンガリー人の作曲家、ジェルジュ・リゲティ(1923―2006年)は死の5年前、東京でこう語った。2010年代に入って、リゲティ作品の演奏頻度は急カーブで上昇する。今から100年ほど前、マーラーは「やがて私の時代がくる」と信じて作曲を続けた。リゲティもマーラーやベルク、ストラビンスキー、ショスタコービチ、バルトークらに続いてクラシック音楽の定番(メジャー)入りを果たし、広く聴かれる時代が訪れた。(以下、省略。2013/2/16)
ある音楽家さんから、「リゲティの音楽の魅力は、演奏家によって天と地ほどの大きな差がある。内匠さんはおそらくリゲティに最適な演奏家の一人でしょう。すばらしい演奏会になることはまちがいないと言えます…」というおすすめの言葉もいただいています。
内匠さんという異色の俊才によるリゲティの演奏会――私にとってはこれまでの演奏会とはまったく次元の異なった期待を抱かせる演奏会です。ご関心のある皆様と共に楽しみたいと思います。
(渡辺公夫)
プロフィール
内匠 慧 Piano
1992年生まれ。春日井市広報大使。これまでに東京・名古屋・浜松・パリ・ロンドンでソロリサイタルを開催。この数年ではリストの超絶技巧練習曲やスクリャービンのソナタの全曲演奏をはじめとした、クラシック音楽の根幹をなす作品に加え、多様なスタイルの現代音楽も取り上げている。
3歳よりピアノを習い、ヤマハマスタークラス特別コースを修了。愛知県立旭丘高校普通科を卒業後、半年間の東京藝術大学在学を経て、英国王立音楽院に全額奨学生として留学。同音楽院にてBMus、MA、DipRAMを取得する。これまでに遠藤誠津子、後藤康孝、V・ゴルノスタエヴァ、鈴木弘尚、吉永哲道、東誠三、C・エルトンの各氏に師事。
名古屋フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団等、多数のオーケストラと共演。第8回浜松国際ピアノコンクールにおける最年少ファイナリスト。その他、受賞歴にはオスロ・グリーグ国際コンクール特別賞、全日本学生音楽コンクール高校の部全国大会第1位、PTNAピアノコンペティション特級銀賞などがある。
2014年のCHANEL Pygmalion Daysアーティスト。2015-16年度RMF奨学生。近日、ファーストCD「リゲティ・エチュード全集」を、イタリアのレーベル「シェヴァ・コレクション」よりリリース予定。
http://www.keitakumi.com