研ぎ澄まされた音、薫風のような青春溢れるコンテキスト、そして緻密な楽曲分析
――藤田真央の愉悦の世界
藤田真央さんといえば、難関なことで知られるクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール(昨年の第27回、併せて3つの特別賞)に優勝され、一挙に世界的な注目を集めている現在19歳のピアニストです。
ちなみにクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールとは、2年に1回開催され1位のみが受賞するという世界でもっとも難関なコンクールの一つで、日本人としては、ルツェルン音楽院教授の坂上博子、国際的なピアニストとして活躍中の河村尚子、そして藤田真央さんが3人目です。
そんな彼に今回のプログラムに寄せてメッセージをいただきました。
「前半はドビュッシーが中心ですが"ドビュッシー独自の音の響き”が聴きどころです」
そんな彼は、音とその響きに対して特別なこだわりがあるようです。
「すべての音を支配し、どういう音を出したいのか、どういう響きにしたいのかを常に考えています」
音がきれいなピアニストはたくさんいますが、藤田真央さんは"音に対する凄まじいまでの集中力”が並大抵のものではないようです。
“研ぎ澄まされたきれいな音”というような平凡な表現では足りず、"気高さや厳しさ"までも同時に感じとることができるといったらよいのか…そんな音が藤田真央さんのピアノ演奏から聞こえてくる音です。
さらに藤田真央さんの演奏の際立った特長としては、よく「芸術家は成熟すればするほどすばらしい境地に達する」とか言われますが、真央さんの場合は、
テクニックではなく芸術性に、“若さ”というものがとてつもない魅力となって鮮烈に現れています。こういう例は希有なことといえるかもしれません。
そんな真央さんにその秘訣を伺ってみました。
「常に音のことは考えています、どう響くか…。お客様によってはテクニックをふんだんにアピールするような演奏を喜ばれる方もいらっしゃると思います。
ですが、自分はテクニックの前に、まず音がきれいであるか、音がどれだけ魅力的であるかを考えます」
そう語る藤田真央さんの演奏は"音"が魅力的なだけでなく、曲を構成するうえで欠かせない"緻密さ"も卓越しています。
「ショパンのソナタ第3番は非常にきめ細かい作品です。ほとんどフーガのような作品です。当時、ショパンがあの曲を作曲するときにピアノの脇に置いてあったのがバッハの平均律だったという逸話も残っているくらいですから…。かなり影響は受けていると思いますね。最初からずっと半音階が随所に現れています。バロックのような、そんな魅力があるのもこの作品の聞きどころですね」
比類なく研ぎ澄まされた美しい音、この上なく爽快な薫風のような若々しさを感じることができるコンテキスト、そして緻密な楽曲分析――このすべてが現在の藤田真央さんの魅力です。目を見開き、耳を澄ませ、全身で、藤田真央さんによる愉悦に浸りましょう。
(見澤沙弥香)
プロフィール
藤田 真央(ピアノ) Mao Fujita (Piano)
1998 年東京都生まれ。3 歳からピアノを始める。
2017 年、東京音楽大学 1 年在学中に、第 27 回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝。併 せて「青年批評家賞」「聴衆賞」「モダンイズム賞(新曲賞)」の特別賞を受賞し、一躍世界の注目を 浴びる。
2010 年台湾で開催された世界クラシック ピアノ・コンクール(ジュニア部門)優勝、全日本学生音 楽コンクール(小学校の部)第1位、2013 年オーストリアで開催されたロザリオ・マルチアーノ国際 ピアノ・コンクール、2015 年中国で開催された若い音楽家のためのモーツァルト国際音楽コンクー ル第1位 、2016 年浜松国際ピアノアカデミーコンクール第1位、アメリアで開催されたジーナ・バ ッカウアー国際ヤングピアノコンクール第3位など、国内外での受賞を重ねる。
2013 年津田ホールにて初めてのリサイタルを開催。以降、国内はもとより、ショパン国際音楽祭(ポ ーランド)、世界のアッシジ音楽祭(イタリア)、バート・ラガッツ次世代音楽祭(スイス)などの 音楽祭に招待されリサイタルを行っている。
これまでに、リッカルド・ミナーシ、現田茂夫、飯森範親、大友直人、レイ・ホトダ、クリスティアン・ツァハリアス、リュ ー・ジア各氏の指揮により、東京都交響楽団、東京交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、ユタ交響楽団、ロー ザンヌ室内管弦楽団、マカオ管弦楽団等のオーケストラと共演。
2013 年には、ナクソス・ジャパンから若い世代の音楽家のための新レーベル「ナクソス・クレッシ ェンド」第1号として、デビューアルバム「MAO FUJITA」(NYCC-10001)、2015 年には「ヤング・ヴィ ルトゥオーゾ」(NYCC-27296)をリリースし、高い評価を得ている。 現在、特別特待奨学生として東京音楽大学 1 年ピアノ演奏家コース・エクセレンスに在学中。ピア ノを野島稔、鷲見加寿子、佐藤彦大の各氏に、ソルフェージュを西尾洋氏に師事。
平成 29 年度公益財団法人青山財団奨学生。