バッハ平均律第1巻、全曲演奏!入川舜のバッハを辿る(Vol.2)大好評シリーズ第二弾──
バッハを辿るvol.2 平均律クラヴィーア曲集第1巻――音楽の旧約聖書
「平均律クラヴィーア曲集」については、すでに多くのことがこれまでの音楽家たちによって語られている。その最も知られているものは、指揮者でピアニストのハンス・フォン・ビューローが言った「音楽の旧約聖書」というものだろう。そう、この作品について、偉大な音楽であることは異論の余地がない。この驚くべき世界の前では言葉などによって飾りたてる必要はなく、その音楽にただ静かに耳を傾ければよい。
・・・本来ならば、きっとこの前置きで充分かもしれない。だが、バッハを辿りはじめたばかりの者には、まだまだ語るべきスペースが与えられている。これだけでは一般的解説には不十分に違いない。かといって、この曲集を語ろうとすれば、ゆうに1冊の本ができてしまう。「0か100か」の選択肢しかないのだろうか。どうしたものだろう。
以降は苦し紛れの補足で、①平均律クラヴィーア曲集はなぜそこまで偉大か②私の思う「平均律クラヴィーア曲集」を記す。
①「平均律クラヴィーア曲集第1巻」は、ドレミファソラシドによるネットワークを最大限活用してつくられた最初の曲集だ。西洋音楽は概してドレミファソラシドの組み合わせによってつくられる世界だが、その無限の組み合わせの下には厳格な規則があって、ただやみくもに音を並べれば音楽が生まれるというわけではない。このドレミファソラシドのネットワークを最も効率よく体現する「よい」調律法、それが「平均律」といわれ、ドから1オクターブ上のドまでを均等に12等分して音が作られる(ドレミファソラシに加え、ド#、ミbなどができる)。そして、各音から2つの調――長調(major)と短調(minor)が導かれることによって、12の音から24の調が生まれる。私たちが普段耳にする音楽は、ほとんどがこの前提で成り立っている。
「平均律クラヴィーア曲集第1巻―24の前奏曲とフーガ」は史上初めて、これら24の調を用いて音楽が生まれたことから、ドレミによって考えられ、作られる音楽のベースを作った作品のひとつといえるのである。
②この作品には、「全て」がある。例えば、人間が持つあらゆる感情が24曲のうちに見られると思う。喜怒哀楽とはいうが、それよりももっと豊かで多彩な感情が、ひとつひとつの前奏曲とフーガに表れている。それは、音楽が全人的な表現を可能にした最良の例なのだ。けれどもそれは、人間の威光を促すことにはならない。恐らく最後にこの音楽がもたらすものは、沈黙や、静けさといったものなのだろう。感情を味わい尽くした先にあるその瞬間を求めて、この作品を辿っていきたいと思っている。
・・・偉大な人物に対して、怖気づきもせず思ったままをいう子供のように、私もこの作品に対峙するしかないようだ。
(入川舜)
プロフィール
入川 舜(Irikawa Shun)Piano
静岡市出身。東京芸術大学音楽学部ピアノ科卒業、同大学院研究科修了。文化庁海外派遣研修員として、パリ市立地方音楽院とパリ国立高等音楽院修士課程でピアノ伴奏を学ぶ。
高瀬健一郎、寺嶋陸也、辛島輝治、迫昭嘉、A・ジャコブ、J−F・ヌーブルジェの各氏に師事。パリ・シャトレ座はじめフランス各地やスイスで演奏するほか、オーケストラとの共演、室内楽、コンクールや講習会での演奏、録音など、活発な活動を行っている。
「静岡の名手たち」オーディションに合格。神戸新聞松方ホール音楽賞、青山バロックザール賞(依田真宣(Vn)、内田佳宏(Vc)両氏とのピアノトリオとして)を受賞。
日本人作曲家の作品を蘇らせたCD「日本のピアノ・ソナタ選」をミッテンヴァルト社より発売、文化庁芸術祭参加作品となる。
2011年デビューリサイタルを開催。以後も、ドビュッシーのエチュード全曲など意欲的なプログラムでリサイタルを行う。
ラヴェルアカデミー(フランス)にて歌曲クラスの伴奏助手。パリ市立地方音楽院でピアノ講師と伴奏ピアニストを務めた。
現在、 オペラシアターこんにゃく座のピアニストを務める。渋谷・美竹清花さろんにて、「バッハを辿る」コンサートシリーズを進行中。横浜・馬車道ピアノサロンでもコンサートシリーズを継続している。東京藝術大学非常勤講師。
公式ホームページ:
http://shunirikawa.work/shun.html