ショパンのバラード第4番を中心に、務川慧悟が"今、弾きたい"をセレクトー
元々は単なるスケジュール上の都合から、ここ美竹清花さろんで、夏の一番暑い時期に、リサイタルをさせて頂くというルーティーンがもう3年目にもなり、今ではむしろ、美竹でのリサイタルといえば炎天下の渋谷、という不思議な連想が僕の中で自然と起こるようになりました。
さて今回、ここで新しい試みとして行うのは、事前に曲目を決定しないでおくということです。ふわふわとした心を持つ演奏家にとって(もちろん全員に共通することではないかもしれないけれど)、時に少しだけ残念なことは、演奏会を開くにあたって数ヶ月前に曲目を告知し、しかししばらくの勉強の過程で、その作品を演奏する自信を失ってしまったり、または日常の予期せぬきっかけで全く別の作品に衝動的により魅せられてしまう、ということが起こった際に、しかし曲目の変更はあまり容易にはしづらいことです。現代の録音技術というものに慣れ親しんだ私達は、それを感じる機会が少し減ってしまいましたが、演奏とはやはり「刹那の美」であると僕は思います。ですから今回は試みに、その時に自分が最も弾くべきだと思える曲目を当日口頭で発表させて頂くという形を、わがままながら取ってみます。たゆとうような日常の中でふっと浮かんでくる、その時にだからこそできる演奏を、常に心がけていたいと、いつも自分に言い聞かせています(でもそれは難しいことでもありますが)。
(務川 慧悟)
務川慧悟の音楽の原点は「バッハにある」と聞いたことがある。
バッハから始まり、数多くの作曲家のさまざまな作品に取り組んできた務川慧悟。
その道のりの一端でわたしたちは務川慧悟に出会った。
そのときの務川は、フランスもの――とくにラヴェルに励み、「フランスでラヴェルの本当の魅力に気づいた」と語っていた。
ラヴェルのピアノ曲全曲を手中にし、なんとも表現しえない、日本人にしか表現できない魅力までも盛り込んだラヴェルにわたしたちは圧倒された。もちろんラヴェル以外に、ドビュッシー、バラキレフ、ショパン、モーツァルト、スクリャービン、ベートーヴェン…と、務川のレパートリーは広く、多彩だ。
そんな務川は、モダンピアノの演奏の魅力をさらに深化・向上させるためであろう、古楽への研鑽に挑むという。
さて、フランス留学5年目を迎えたいま、「いま務川慧悟が自分のために、そしてファンのために演奏したい」と感じている作品はとどんなものなのか、それをどんなふうに聴かせてくれるのか――わたしたちの関心はいやが上にも高まらざるを得ない。
(美竹清花さろん)
プロフィール
務川 慧悟(むかわ・けいご)Piano
1993年生まれ。東京藝術大学1年在学中の2012年第81回日本音楽コンクール第1位受賞を機に本格的な演奏活動を始める。2014年パリ国立高等音楽院に審査員満場一致の首席で合格し渡仏。現在、同音楽院第2課程にて研鑽を積む。
2015年エピナル国際ピアノコンクール(フランス)第2位。2016年イル・ド・フランス国際ピアノコンクール(フランス)第2位。コープ・ミュージック・アワード国際コンクール(イタリア)第1位。国内では第62回全日本学生音楽コンクール中学校の部全国大会第1位、第14回松方ホール音楽賞、等多くの受賞歴がある。
2017年シャネル・ピグマリオン・デイズのアーティストに選出され「ラヴェルピアノ作品全曲演奏」をテーマに6回のリサイタルを開催。これまでに、日本各地、スイス、上海、ラトビアにてリサイタルを開催のほか、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、フランスにてロレーヌ国立管弦楽団、等と共演。室内楽においては、チェロの木越洋氏、ヴァイオリンの篠崎史紀氏、大谷康子氏、等と共演。ソロ、コンチェルト、室内楽と幅広く演奏活動を行うと共に、留学記、コラムを連載するなど多方面で活動している。
フランク・ブラレイ、上田晴子、テオトール・パラスキヴェスコ、横山幸雄の各氏に師事。
2015・16年度ロームミュージックファンデーション奨学生。2017年度江副記念財団奨学生。