過酷な試練に見舞われながらも、運命を切り開いたピアニスト ──
ヘイスティングス国際コンクールを制した稀に見る才器、小井土文哉が初登場!
人生における重要な決断の瞬間には、必ず運命的な大きな体験や試練に出会うものだ。
小井土文哉氏は、その端正な顔立ちと美しい弾き姿、そして優れた美的感覚からは想像もできないような、未曾有の大惨事を経験し、乗り越えたピアニストなのだ。
2011年3月11日、国内観測史上最大となる巨大地震が三陸沖を震源として発生した。
この深刻な爪痕を残した"東日本大震災"と名付けられた未曾有の災害は、連日連夜その状況が報道され、日本中に暗い影を落とした。
そして当時、岩手県の高校進学直前だったという小井土氏は、音楽の道に進むべきか否かと進路に悩む少年だった。
あまりにも突然であまりにも悲惨な出来事に、ただただ茫然としたと当時を振り返っている。
そして、音楽にたずさわっている人間は誰しもが思ったことだろう「自分のやっていることに意味はあるのだろうか」と。
彼もそう思った一人だった。そしてしばらくピアノどころではなく、音楽から離れた。
まずは命ありき、そして生活インフラを整えることが最優先とされている渦中、しかも先が見えない絶望の最中。
驚くべきことに、人々は精神的な安定を求め、生きていることを確かめるように、音楽を求める動きが見られたのだ。
彼もまた、被災者の一人として音楽を求める人々と同じ心境だったことだろう。
遠ざかったピアノから音楽の道へと進む決心がついたのは、震災後に盛岡市で開かれた演奏会での出来事だ。
久しぶりに体験する生の演奏に心が動かされた。そしてその感動を今度は自分の演奏で届けたいと、自分の進む道を強く決心したのだ。 人間の恐るべきところは、困難な状況にこそ、自分の天命に気が付くということだ。
そして今、音楽を通して「感動を伝えられるピアニストに」と話す彼の言葉は説得力に溢れている。
今回のプログラムは、過酷な試練に見舞われながらも自らの運命を切り開いていったベートーヴェンのソナタ30番。
そしてブラームスの深みと内省的な叙情性を最大限に味わうことができる晩年のインテルメッツォOp.118。
新型コロナウィルスの感染拡大を受けて演奏会の自粛が続いてきているが、
そんな今だからこそ、音楽が心に深く染み渡ってくる彼の演奏に静かに耳を傾けたいものだ。
(美竹清花さろん)
プロフィール
小井土 文哉(KOIDO Fumiya)Piano
1995年生まれ。
2014年、桐朋学園大学音楽学部ピアノ専攻に特待生として入学、同大学を首席で卒業。卒業演奏会、皇居内での桃華楽堂御前演奏会に出演。
現在、同大学ソリスト・ディプロマコース2年、イタリア・イモラ音楽院に在学中。
2015年、第48回カワイ音楽コンクールピアノ部門ソロの部Sコース大賞。
2017年、第21回浜松国際ピアノアカデミーコンクール第1位。
第2回コインブラ・ワールドピアノミーティング(ポルトガル)第1位。
2018年、第5回KIPA国際コンクール(韓国)第1位。
第87回日本音楽コンクール第1位。
2019年、第15回ヘイスティングス国際ピアノコンチェルトコンペティション(イギリス)第1位。
これまでに英ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団等と協演。
第37回霧島国際音楽祭に参加し、音楽祭賞受賞。
2016、2017年度公益財団法人青山財団奨学生。
2019年度、2020年度ロームミュージックファンデーション奨学生。
シャネル・ピグマリオン・デイズ2019 アーティスト。
現在、ボリス・ペトルシャンスキー氏、須田眞美子氏に師事。