研ぎ澄まされた美意識に、自然と耳を傾けたい
詩うように紡ぎ出される江崎萌子のピアノ──
「花鳥風月の心を欠いた芸術などはありえず、一輪の花も咲かぬ小説は少なくとも芸術としての価値がない」
美竹清花さろんという名前に、いつか本の中で出会ったこの言葉を思い出しました。
大都会の中心に位置しながら、その名が連想させるとおり、アーティストの美意識をほころばせてくれる空間です。
江崎氏が初めてサロンに訪れたとき、サロンを表現した言葉があまりにも美しく印象的だったものだから、ごく自然に、彼女の持つ独自の感性や美学に魅かれ、音楽と共に磨かれたヒューマンスキルの高さにも驚いたものです。
サロンでは二度ほど演奏されていますが、二度とも彼女のピアノの圧倒的な魅力に引き込まれてしまいました。
前回のヴィオリスト安達真理氏とのデュオでは、歌詞の無い歌を詩うように、説得力のある音色で語りかけ、繊細で知的なタッチから、独自の哲学も薫っているかのような演奏でした。
息が長く、味わい深く、細部に渡りはっとする美しさがあり、スケールの大きさと緻密さが共存している彼女独特の演奏はとても心地のよいものでした。生き生きとした対話を進めているようなアンサンブルの巧さも光っていました。
そんな彼女の放つ演奏の薫り、雰囲気は、6年にわたってパリを拠点に、パリ国立高等音楽院で学んできただけあり、まさに和製パリジェンヌ!
演奏の合間やトークなどでも、時折垣間見られる表情の柔らかさに、どこか日本人離れしたセンスも感じられます。
また、一昨年から拠点をライプツィヒに移し、研鑽を積んでいる彼女が選んだプログラムは、ベートーヴェンの30番のソナタとシューベルトのソナタ第17番、3つのピアノ曲、12の歌曲など、ドイツものが中心となりました。軽妙洒脱な彼女の印象からは、良い意味で裏切られることとなりそうです。
スケールが大きく天衣無縫──時空を超えた先に見る江崎萌子の世界に、今回もさらに期待してしまいます。
(美竹清花さろん)
プロフィール
江崎 萌子(EZAKI Moeko)Piano
第8回ヴェローナ国際コンクール(イタリア)第2位およびクラシックソナタ賞、女性演奏家賞受賞。第26回エピナル国際コンクール(フランス)第4位、オーケストラ賞、現代曲賞受賞。国内では第80回日本音楽コンクールピアノ部門入選、第4回東京ピアノコンクール一般部門第2位、第2回桐朋ピアノコンペティション第1位などの受賞歴を持つ。
パリ・フィルハーモニー大ホールにてパリ管弦楽団プレリュードコンサートのソリストを務めたのをはじめ、日本、フランス、ドイツを中心に演奏活動を行う。2018年シャネル・ピグマリオン・デイズアーティストとして東京・ネクサスホールにて全六回のソロリサイタルを行うと同時に、同ホームページ上に三回にわたりコラムを掲載。2017年福岡にて大山平一郎氏指揮、モーツァルト二台のピアノのためのコンチェルトを師匠上田晴子氏と共演したほか、東京交響楽団、Orchestre symphonique et lyrique de Nancy等と共演。
室内楽にも積極的に取り組み、ザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクール2014第2位受賞、2016年ウィーンにてアルバンベルク弦楽四重奏団チェロ奏者ヴァレンティン・エルベン氏と共演する。Journées Ravel de Montfort L'Amaury、Festival de musique St Amand de Vergt(フランス)、Music Dialogueディスカバリーシリーズ、シャネル室内楽シリーズ等に出演する。Music Dialogueアーティスト。
桐朋女子高等学校音楽科首席卒業後、パリスコラ・カントルム音楽院、パリ国立高等音楽院にてテオドール・パラスキヴェスコ、フランク・ブラレイ、上田晴子の各氏に師事し、2018年修士課程を卒業。現在ライプツィヒ・メンデルスゾーン音楽大学演奏家課程にてゲラルド・ファウト氏のもと研鑽を積む。またメナヘム・プレスラー、マリア・ジョアン・ピレシュ各氏の薫陶を受ける。2019年度ヤマハ音楽振興会音楽奨学支援奨学生。