ドビュッシー、ラヴェル、プーランク
香り高きフランス音楽の午後──
フランス音楽と聞いて、何をイメージするだろうか?
どこか抽象的な、どこか色彩的な、何か曖昧な・・・?
今回は、ドビュッシー(1862~1918)、ラヴェル(1875~1937)、プーランク(1899~1963)という
3人のフランスの作曲家たちが描き上げたヴァイオリン・ソナタを取り上げる。
彼らは、同じフランスの作曲家だが、実際は異なる作風の作曲家である。
良きライバルとして互いを尊重していたとされるドビュッシーと13歳年下のラヴェル。
そして幼少期にドビュッシーの音楽に影響を受け、ラヴェルの葬儀に参列したとされるプーランク。
同じ時代を生きた作曲家、しかも同じパリ音楽院出身、
ドビュッシーはラヴェルとともにフランス印象派の創始者として、全く新しい世界観を切り開いたことで並べられる。
しかし、二人の作風は対照的である。
ドビュッシーは音色や色彩的なものを大切にしていた。
音色に対してのファンタジー、イマジネーションが全面的に感じられる。
ドビュッシーの音楽は、“瞬間の神秘”と比喩されるほどに、感覚・感性に重きをおいていたようだ。
一方、ラヴェルは、すでにある伝統的な形式の中に自身の新しいアイディアを取り入れていた。
このことから、ラヴェルは伝統的基盤や理論にもこだわっていたことがわかる。
ドビュッシーはどこか開放的で色彩的なイメージだが、ラヴェルはその緻密さからか、
どこか内省的に聴こえるのは本質的な違いからだろうか。
そしてプーランクの音楽は、哀愁を帯び、歌謡性の富んだメロディに、
「あ、これはプーランクの音楽だ」と、なんとも特徴的だ。
ユニークで、どこかシニカル、ハーモニーも独特なのだ。
ラヴェルはジャズに影響を受けたと言われるが、プーランクはシャンソンに影響を受けたとか…。
同じフランス音楽でも、これほど多様な音楽が生まれているのだから、
フランスが今もなおアートの最先端の国として位置づけられているのは、妙に納得できる。
プーランクのヴァイオリン・ソナタは鈴木舞氏のCD「マイ・フェイバリット」で開眼したと言っても過言ではなく、
彼女のフランス音楽に対する美意識とセンスが、音楽の深さを生んでいるのだろうか。
彼女の藝大高校時代から朋友で、お互いを知り尽くしているピアニスト實川風氏のピアノも実に心地が良い。
信頼しているからこそだろうか、妥協を許さぬ音楽作りに、完成度の高さと揺るぎない安定感が感じられる。
フランス音楽には、格別な華とセンスを併せ持っている二人の演奏家と共に、
ドビュッシー、ラヴェル、プーランクという異なったフランス音楽のエスプリに浸る午後を過ごしてみたい。
(美竹清花さろん)
プロフィール
鈴木 舞(SUZUKI Mai)Violin
東京芸術大学を経て、ローザンヌとザルツブルク、ミュンヘンで研鑽を積む。
2013年ヴァーツラフ・フムル国際ヴァイオリンコンクール(クロアチア)、オルフェウス室内楽コンクール(スイス)第1位。16年スピヴァコフ国際ヴァイオリンコンクール(ロシア)第2位等、内外のコンクールで優勝・入賞を重ね、これまでにスイス、チェコ、フィンランド、クロアチアなどのオーケストラと共演をするほか、各地で室内楽やリサイタルに招かれている。将来を嘱望される新世代のヴァイオリニストとして、2012年度シャネル・ピグマリオン・デイズ・アーティストに選ばれた。
2017年9月にキングレコードよりデビューCD「Mai favorite」をリリース。使用楽器は1683年製のニコロ・アマティ。
Web site:
maiviolin.com
實川 風(JITSUKAWA Kaoru)Piano
2015年ロン・ティボー・クレスパン国際コンクール(パリ・フランス)第3位、最優秀リサイタル賞、最優秀新曲演奏賞を受賞。2016年カラーリョ国際ピアノコンクール(カラーリョ・イタリア)にて第1位を受賞。本格的に国内外での演奏活動を広げる。
ベートーヴェンを核とした重厚なレパートリーに取り組む一方、邦人作品の初演でも作曲家より指名を受け携わる。
海外の音楽祭への招待には、上海音楽祭、ソウル国際音楽祭、ノアン・ショパンナイト(フランス)・アルソノーレ(オーストリア)がある。
東京藝術大学附属高校・東京藝術大学を首席で卒業し、同大学大学院(修士課程)修了。
山田千代子・御木本澄子、多 美智子、江口玲の各氏に師事。グラーツ国立音楽大学ポストグラデュエイト課程にて、マルクス・シルマー氏に師事。