4人の理性的な対話としての弦楽四重奏、
女神たちの“個性”が輝く至上のアンサンブル
現今の日本の状況で、室内楽の演奏会で商業的な成功を求めるのは難しいだろう。
世界的な傾向のようだが、日本でも室内楽の演奏会は漸減のようである。
しかしどうだろうか、クラシック音楽の原点は“アンサンブルにあり”ともいえるのではないだろうか。
オーケストラはもちろんのこと、伴奏を伴う歌曲であっても、2台ピアノであってもアンサンブルが基本である。
そうしたアンサンブルの中でも、“弦楽四重奏”といえば、アンサンブルの定番で基本、あるいはアンサンブルの完成形、究極といってもよい存在様式だろう。
その証拠に、カペー弦楽四重奏団、アルバンベルク弦楽四重奏団、スメタナ弦楽四重奏団、ブダペスト弦楽四重奏団、ゲヴァントハウス弦楽四重奏団、東京クァルテット、エマーソン弦楽四重奏団等々…弦楽四重奏の名手たちが創ってきた歴史は、SP、LPのレコードの時代から多くのクラシックファンを魅了してきた。
弦楽四重奏の原点といえば“弦楽四重奏の父”として知られるハイドンだが、68曲もの作品を遺し、弦楽四重奏という形式を確立したことで有名だ。
「運命」や「第九」など、交響曲のイメージが強いベートーヴェンも、最期の作品は弦楽四重奏曲だったという。ベートーヴェンは「第九」を作曲したあと、後期弦楽四重奏曲である「第12番」から「第16番」が書かれたそうだ。ベートーヴェンの魂の行き着く先は、交響曲でもピアノソナタでもなく、弦楽四重奏だったのかもしれない。
ゲーテが弦楽四重奏を「4人の理性的な人間の対話(4人の思慮深い人間の交わす対話)」と言ったように、弦楽四重奏には何か、人の感情を超えた哲学的な魅力があり、ベートーヴェン同様、最期の作品として弦楽四重奏に辿り着く作曲家も多い。そろそろ弦楽四重奏を聴きたくなってきたのではないだろうか?
今回演奏される弦楽四重奏団は、美竹サロンでもお馴染みとなってきたタレイア・クァルテット!
さらなる躍進を遂げ、各所で活躍の幅を広げている。ザルツブルク=モーツァルト国際コンクール第3位。宗次ホール第4回 弦楽四重奏コンクール(2018年)では、あのカルテット・アマービレ(ミュンヘン国際コンクール弦楽四重奏部門第4位)に並んで第1位を受賞した。
それぞれの“個”が輝くタレイア・クァルテットのメンバーだが、相互に理解し、尊重しながら音楽作りを進める様子には、なんとも言えない“フィット感”というか、安心感が感じられる。
華やかなバンドマスター、鋭い審美眼を持つ山田香子(第1ヴァイオリン)
縁の下の力持ち!調和と包容力の二村裕美(第2ヴァイオリン)
影の支配者?芯の強さと柔軟性を持つ渡部咲耶(ヴィオラ)
マイワールド炸裂!才気溢れる石崎美雨(チェロ)
タレイア(ギリシャ神話に登場する女神で「豊かさ」と「開花」の象徴とされる)という名のごとく、4人の個性的で美しき奏者たちは、女性ならではの強さと柔軟性を兼ね備え、成長を続け、輝きを増している。
今回は前述のとおり、弦楽四重奏を確立したハイドンの第82番 作品77-2 Hob.III-82 ヘ長調《雲がゆくまで待とう》と、その編成に最期に辿り着き、心血を注いだベートーヴェンの第10番 作品74 変ホ長調《ハープ》を中心にプログラムが組まれている。弦楽四重奏を牽引してきた作曲家であるハイドンとベートーヴェン、この機会は見逃せないだろう。
(美竹清花さろん)
プロフィール
タレイア・クァルテット
2014年東京藝術大学在学時に結成。ザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクール2015第3位、第4回宗次ホール弦楽四重奏コンクール第1位受賞。宗次ホールにて百武由紀氏、藝大130周年事業「藝大茶会」にて澤和樹氏、とやま室内楽フェスティバルにて堤剛氏、第一生命ホールにてクァルテット ・エクセルシオと共演。日本演奏連盟主催「新進演奏家育成プロジェクト リサイタル・シリーズ」オーディションに合格し、東京文化会館小ホールにてリサイタルを開催。プロジェクトQ第15,16,17章に参加。公益財団法人松尾学術振興財団より、第28,29,31回助成を受ける。サントリーホール室内楽アカデミー第5期フェローメンバー。NHK音楽番組”らららクラシック”、”クラシックTV”に出演。山崎伸子、磯村和英の各氏に師事。
山田 香子(YAMADA Kako)1st Violin
東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校および東京藝術大学を経て、同大学大学院修士課程を首席で修了、大学院アカンサス音楽賞受賞。静岡県学生音楽コンクール第1位および室内楽協会長賞、KOBE国際学生音楽コンクール優秀賞(部門最高位)および兵庫県教育長賞、大阪国際音楽コンクール第2位(部門最高位)、等受賞。沼田園子、澤和樹、山﨑貴子、ジェラール・プーレ、ピエール・アモイヤル、堀正文、松原勝也、野口千代光の各氏に師事。
二村 裕美(FUTAMURA Hiromi)2nd Violin
福岡県北九州市出身。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、東京藝術大学卒業。北九州芸術祭、全日本学生音楽コンクール、西日本国際音楽コンクールなどのコンクールにて上位入賞。第15回北九州市の若い芸術家を育む会パドロニーニグランプリ。デザインKアンリミテッド国際音楽コンクール2014、全部門中グランプリ。第8回横浜国際音楽コンクール、アンサンブル部門第1位。
現在、東京藝術大学指揮科教育研究助手をつとめながら、東京と福岡を拠点にフリーの演奏家として、ソロ、室内楽、オーケストラの客演演奏、レコーディングなど、ジャンルを問わず活動中。また後進の指導にもあたる。
渡部 咲耶(WATABE Sakuya)Viloa
5歳よりヴァイオリンを始める。大学入学時にヴィオラに転向。東京藝術大学を経て、同大学院修士課程修了。大学卒業時に同声会賞、大学院修了時に大学院アカンサス賞を受賞。第3期サントリーホール室内楽アカデミー修了。2015年ザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクール第3位受賞。2016年宗次ホール弦楽四重奏コンクール第2位受賞。2016年東京芸術大学奏楽堂にてヘンシェル弦楽四重奏団とモーツァルトの弦楽五重奏曲を共演。これまでヴァイオリンを西川重三、小林すぎ野、久保良治の各氏に、ヴィオラを市坪俊彦氏に師事。
石崎 美雨(ISHIZAKI Miu)Cello
8才よりチェロを始める。第12回泉の森ジュニアチェロコンクール高校生以上の部銀賞。第68回全日本学生音楽コンクール東京大会本選 チェロ部門大学の部3位。第12回ビバホールチェロコンクール井上賞。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部卒業時に同声会賞受賞。山崎伸子、中田有、増本麻理、中木健二各氏に師事。