風格のある響き、瞑想的なコンテキスト
巨匠を彷彿とさせる吉田友昭のベートーヴェン
悲愴、月光、熱情にエロイカ変奏曲を加えて登場
年末に第九を聴くのと同じように、一年に一度はベートーヴェンの3大ソナタを聴きたい、と感じている方も多い。
“ベートーヴェンの3大ソナタ”と聞くと、何かキャッチーな企画のように感じられるが、名曲には名曲たる所以があり、本格派の奏者にかかれば、その解釈には毎回、新発見がある。
さて、今年のベートーヴェン3大ソナタはどんなピアニストが演奏するのだろうか?
前回は入江一雄氏の「これぞベートーヴェン!」と言わんばかりの立体的な作品作りに驚いた。
今も鮮明にその感動が蘇るようだが、今年は東京音楽大学にて専任講師として指導者としてもご活躍の吉田友昭氏によって、新たなベートーヴェン像が切り開かれる。
吉田氏は、第79回日本音楽コンクール第1位、マリア・カラス、ホセ・イトゥルビ、マリア・カナルス、ハエン、シドニー他の国際コンクールで優勝・入賞。ヨーロッパに12年間居住して帰国という欧州の経験が長い本格的なピアニストだ。これまで、サロンの会員さんや音大関係者、著名な先生方などから評判を耳にすることが多かった。
初めて彼の演奏に触れた時の驚きは今でも鮮明だ。「ピアノを弾いているのではなく、ピアノを通じて彼の音楽が現れている、そのピアノのもてるポテンシャルの最高の美しい音響が溢れているのではないか…」、そんな風に感じた。その風格には驚きすら覚えたものだ。
しかし、多彩な音響に反して、彼自身は瞑想をするようにピアノを弾いている。聴いている私たちにもその集中が伝わり、音楽の中に深く入り込むことができるので不思議な感覚に陥るのだ。
音楽的には20世紀巨匠のピアニスト、ルービンシュタイン、アラウ、ホロヴィッツ、フランソワのような個性的な味わい深さがあるのではと感じた。テクニック重視になりつつある現代のピアニストにはどちらかといえば、少数派のタイプではないか。
そういった彼の特長から、どんなベートーヴェンが紡ぎ出されるのか、大いに期待したい。
今回の演奏に寄せて、吉田氏よりメッセージをいただいたのでご紹介したい。
「合唱の第9、タタタターンの運命、のだめのベト7、音楽室にある肖像画、映画、全身全霊、長い散歩、不屈の精神、孤独、筆談帳、毎朝数えるコーヒー豆きっちり60粒、コンクールや入試の課題曲、オケのプログラム曲にあると高まる期待感、どの国だろうと全ての先生が厳しくレッスン、自分も学生に口うるさくレッスン、、、」
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンに持つイメージは人それぞれ。その全てが正解だと思います。
「一瞬たりとも気が抜けない魔物。燃え尽きる覚悟で全集中演奏すると、生きるエネルギーが湧いてくる」私はそう感じています。
ベートーヴェンは睨み、笑い、穏やかに、激しく、人々の中で今日も生きています。
観客の皆様にも生きていくエネルギーが少しでも伝わる演奏となった時、ベートーヴェンはコーヒーを片手に心からの微笑みを見せてくれるでしょう。きっと。そう切に願っています。
(吉田 友昭)
自然体でユーモラスに溢れる文章から、どんなベートーヴェン像が現れるのか、益々楽しみだ。
今回は特に、悲愴、月光、熱情の3大ソナタに“エロイカ変奏曲”が加えられるという豪華なプログラムとなっている。
吉田友昭氏の貴重な渾身のベートーヴェンをぜひ体感していただきたい。
(渋谷美竹サロン)
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プロフィール
吉田 友昭(YOSHIDA Tomoaki)Piano
札幌市出身。東京芸術大学を経て20歳時にヨーロッパへ移住。パリ国立高等音楽院にてミッシェル・ベロフ、エリック・ル・サージュに師事。同音楽院を一等賞の成績で卒業後、イタリア・ローマ聖チェチーリア音楽院にてセルジオ・ペルティカローリに師事し修了。ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学ポストグラデュエート課程にてパヴェル・ギリロフに師事し修了。
第79回日本音楽コンクール第1位。マリア・カラス、ホセ・イトゥルビ、マリア・カナルス、ハエン、シドニー他の国際コンクールで優勝・入賞。スペイン、イタリア、オランダ、ドイツにて演奏ツアーを行う。バルセロナ・カタルーニャ音楽堂、アムステルダム・コンセルトヘボウ、ミュンヘン・ガスタイク文化センター、バレンシア音楽堂にて演奏。フランスに5年間、イタリアに4年間、オーストリアに3年間居住した後、2015年に日本に帰国。現在は国内にて様々な演奏・指導活動を行うと共に、東京音楽大学にて専任講師を務める。2022年は第76回全日本学生音楽コンクールの審査員を務める。趣味は歌舞伎鑑賞、サウナ、ランニング。