このメトネルは必ず伝説になる
今、秋元孝介のソロが熱い!
これほどあらゆる面で“巧い”
ピアニストと出会うことは極めて稀なことだろう──
心底、そう思ってしまうほどの圧倒的なメトネル「忘れられた調べ第1集Op.38」に、会場が騒然となった。
2024年1月14日、本公演【第1回】メトネル&ラフマニノフでの出来事だ。
この演奏には、クラシック黄金時代の残照を彷彿とさせるマエストロ風の風格が漂っていた。
会場にいた大半の聴き手は、この「忘れられた調べ 」を生演奏で聴くことはなかったのではないか。CDであってもあえて聴くことは稀ではなかったか。
こうした知られなかった初めての作品でも、まるでよく知られている名曲かのように引き込んでしまう演奏力・・・それこそが秋元孝介のピアノなのだろう。
細部にわたるまで緻密に構築されているにもかかわらず、全体を貫いている太い流れを崩すことのないスケールの大きな演奏である。
芸術的な表現とは、知的な判断や想像を超えた、まさにこのような意外性に満ちたものなのだろう・・・。
本公演に寄せてのインタビューのワンシーンでは、自分は「なにがしです」というのは、基本的には「葵トリオの秋元」としてありたいというのが一番にあると答えた秋元氏。
たしかに、葵トリオによって、日本の室内楽の歴史に新たなページが開かれ、秋元孝介の名が一躍知られるきっかけとなったことは事実である。
しかし、ソロ、アンサンブルに関わらず、そもそも秋元孝介特有の魅力的な構成力、そして深い洞察性、ふくよかな響き、安定したテクニック等々で、次元の違った本格的なポテンシャルをこれまでまざまざと目の当たりにしてきた。
秋元には研究者気質の側面もあり、とりわけソロで取り組む作品にはこだわりを持っているようだ。そして数あるピアノレパートリーの中で今回、白羽の矢が当たったのが、秋元にとっては長年親しんできたメトネル(1880年〜
1951年)であったということである。
今回は「忘れられた調べ」第1集、第2集をメインプログラムとし、同時代に活躍し、互いに影響を受けていたとされるラフマニノフの「楽興の時」(公演終了:2024年1月14日 於・渋谷美竹サロン)と、対照的なコントラストが愉しめるであろうチャイコフスキー「大ソナタ」と組み合わせ、2回の公演に分けて取り組むことになった。
メトネルの作品は、ラフマニノフをはじめ、ルビンシュタイン、ホロヴィッツなどの名ピアニストたちによっても好んで採り上げられたそうだ。
秋元孝介というピアニストがメトネルを探求するのも納得できることといえる。
数々の巨匠を魅了してきた珍しいメトネルの作品たちが、ピアニスト秋元孝介によって明らかにされるこの機会は、とても貴重なものといえよう。
メトネルは、僕にとって最も心惹かれる作曲家の一人です。ラフマニノフやスクリャービンと同時代に生きたピアニストでもあることから、ピアノという楽器の魅力をこれでもかと引き出してくれますし、感情的な吐露と緻密な構成との釣り合いがここまで見事な作曲家はあまりいないかもしれません。
流行や空虚な演出を避け、音楽の本質に迫ろうとした彼の音楽は、弾く者も聴く者もその音楽を反芻させられる魅力があります。
今回は彼の代表的な作品である二つの「忘れられた調べ」と、ロシアの巨匠の名作を組み合わせたプログラムをどうぞお楽しみください。
(秋元孝介)
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プロフィール
秋元 孝介(Kosuke AKIMOTO)Piano
2018年、ピアノ三重奏団「葵トリオ」のピアニストとして、第67回ミュンヘン国際音楽コンクールピアノ三重奏部門で日本人初の優勝。現在は国内外で多数の演奏活動を行いながら、ミュンヘン音楽演劇大学大学院、東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程にて更なる研鑽を積んでいる。
これまでに、第2回ロザリオ・マルシアーノ国際ピアノコンクール 第2位、第10回パデレフスキ国際ピアノコンクール 特別賞などを受賞。葵トリオによる多数の公演のほか、ソロリサイタルやオーケストラとの共演、室内楽奏者としても数多くの演奏を行っている。特にメトネルの作品を中心としたロシア音楽のレパートリーに定評があり、積極的に演奏を行っている。これまでに自身が収録に参加したCDは、師の有森博とのピアノデュオによるストラヴィンスキーの「春の祭典」、葵トリオによる「ミュンヘン国際音楽コンクール優勝記念盤」ほか4枚、クラリネット奏者Sérgio Piresとの「Les Six」など、国内外でこれまでに8枚リリースされており、いずれも高い評価を得ている。
東京藝術大学音楽学部を首席で卒業後、同大学院音楽研究科修士課程を首席で修了し、サントリーホール室内楽アカデミーでも研鑽を積んだ。
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