2人の女性演奏家が贈る、至福の室内楽の時間
ベートーヴェンとシューベルトが告げる春の息吹
ベートーヴェン、シューベルトというと、やはりオーケストラが聴きたくなるクラシックファンも多いだろう。
しかし、サロンで聴く室内楽は、オーケストラにはない至福のひとときを過ごせる特別な空間だ。
オーケストラ作品ではなかなか見えにくいシューベルトやベートーヴェンの本音の生の声が露わになっていることに、ふと気が付く。
そう感じられた機会として挙げられたのが、坪井夏美&大崎由貴デュオが取り組む「ベートーヴェン&シューベルト ヴァイオリンとピアノのためのデュオ作品全曲演奏会」の《第1回目》での演奏だった。
事前インタビューでは、「ベートーヴェンの作品には矛盾があり、人間らしさや温かさを感じられる。旅人のように進むシューベルトの音楽には彼の本質が現れているようだ」と、独自の解釈を展開した。
説得力のある演奏に、何か巨匠たちの真髄に触れられたような気がした。
演奏家が「全曲に取り組む」というのは、よほどの覚悟というか、思い入れを感じずにはいられない。
《第1回目》では、彼女たちの紡ぎ出す音楽からそんな熱量が聴き手に伝わり、このシリーズへの期待がますます膨らんだことだろう。
坪井夏美氏は2023年3月までベルリンフィルハーモニー管弦楽団・カラヤンアカデミーに在籍し、同管弦楽団の公演に100公演以上出演し、現在、東京フィルハーモニー交響楽団第1vnフォアシュピーラーとして、将来を期待されているヴァイオリニストだ。
室内楽からオペラまで幅広いジャンルのクラシック音楽を愛する彼女の演奏は、視野の広さ、知的さ、抜群のバランス感覚を備えている。
音色は輪郭のはっきりとしたもので曖昧なところがなく、粋なセンスも感じられる。
大崎由貴氏は、第18回東京音楽コンクールピアノ部門第2位(最高位)、イーヴォ・ポゴレリチ氏が審査員長を務める第4回マンハッタン国際音楽コンクールにて、特別金賞を受賞し、ソリストとして東響、東京フィル、新日フィル等、多くのオーケストラとの共演実績を積み、注目を集めている。
彼女のピアノは、大自然の中から湧き上がるような和音の美しさ、包み込むような響きの豊かさが印象的だ。波が寄せては引くようなレンジの広さ、躍動感溢れるダイナミックさは、オーケストラの音響を彷彿とさせる。
坪井氏とは藝大の同期から始まり、留学先での偶然の再会をきっかけに、本格的なデュオでの取り組みに挑戦することになったそうだ。
音楽に生命を吹き込むように、同じビジョンで音楽が進んでいくので、耳に心地よく、かつセンスの良い音楽が実に心地よい。
また時折それぞれの個性がピリッと対話する様子も面白い。
第2回では、4月という季節にふさわしい、生きる喜びを感じられるようなベートーヴェンの「スプリングソナタ」をはじめ、シューベルトの豊かな表現力とダイナミックな展開が聴き所のシューベルトの「華麗なロンド」など、濃淡のある内容となっている。
シリーズものといっても、一回ごとに起承転結の流れでドラマが詰まっているので、飽きずに各回を新鮮な気持ちで愉しめることだろう。
(渋谷美竹サロン)
演奏に寄せて──
このたびは渋谷美竹サロンのコンサートに出演させていただくこととなり、大変嬉しく思っております。
私達は藝大の同期なのですが、距離が縮まったのは数年前、ザルツブルクにて。
好きな音楽の話、ヨーロッパ生活のことなどをノンストップで話し続け、一緒に演奏したいという気持ちが膨らみました。
それ以来、何度か共演してきましたが、今回お互いの完全帰国を期に、本格的にデュオに取り組みたいということになったのです。
そしてせっかくなら全曲に挑戦したい、と真っ先にお互いの口から出てきた作曲家がベートーヴェンとシューベルトでした。
互いの留学先でもあったオーストリアゆかりの、尊敬してやまない二人の音楽家。
ベートーヴェンの使命感と生命力溢れる訴え、
シューベルトのどこまでも美しく、死への憧れすら感じさせる幻想的な歌心。
宇宙のように果てしない広がりをもつ彼らの世界をどこまで深く探究出来るか、
彼らの音楽の核心にどこまで迫れるか…
渋谷美竹サロンの美しく特別な空間にて、彼らの作品の真髄へ近づき皆さまと共有できることを、とても楽しみにしています。
(坪井夏美&大崎由貴)
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インタビュー記事はこちらから
プロフィール
坪井 夏美(TSUBOI Natsumi)Violin
第12回東京音楽コンクール第1位及び聴衆賞受賞。F.クライスラー国際コンクール第5位、日本音楽コンクール第3位、マイケルヒル国際コンクール第4位等、国内外のコンクールにて入賞。ソリストとして読響、都響、新日本フィル、東京フィル等多くのオーケストラと共演。東京藝術大学、同大学院修士課程を卒業し、安宅賞、アカンサス賞を受賞。ウィーン私立音楽芸術大学修士課程を修了。NHK-Eテレ『らららクラシック』、シャネルピグマリオンデイズ、宮崎国際音楽祭等に出演。2023年3月までベルリンフィルハーモニー管弦楽団・カラヤンアカデミーに在籍し、同管弦楽団の公演に100公演以上出演。現在東京フィルハーモニー交響楽団第1vnフォアシュピーラー。
大崎 由貴(OSAKI Yuki)Piano
広島市出身。第18回東京音楽コンクールピアノ部門第2位(最高位)。
ピアニストのイーヴォ・ポゴレリチ氏が審査員長を務める第4回マンハッタン国際音楽コンクールにて、特別金賞を受賞。
ソリストとして東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、群馬交響楽団、大阪交響楽団、広島交響楽団と共演する他、多数のリサイタルや演奏会に出演。広島大学附属高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部をアカンサス音楽賞、藝大クラヴィーア賞、同声会賞を受賞し卒業。令和2年度文化庁新進芸術家海外研修員としてザルツブルク・モーツァルテウム大学修士課程を首席で卒業後、同大学ポストグラデュエート課程を修了。
昨年度より、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校非常勤講師を務める。
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