鈴木舞 × 川口成彦 シューベルト・シリーズ開幕!
シューベルトの詩情が息づく──特別な二人が紡ぐ、極上の室内楽
シューベルトという作曲家は、音楽のなかに言葉にならない詩情を宿らせる天才だ。
若き詩人が静かに語りかけるような清澄さに、シューベルト特有の叙情と陰影が滲むソナチネ第2番 イ短調 D.385。
舞曲の高揚感と晩年の円熟が交錯し、単なる華やかさにとどまらない奥深さを秘めたロンド ロ短調 D.895。
ワルツという形式を超え、洗練と気品に満ちつつも、奥に秘めた静かな哀愁が漂う高雅なワルツ集。
そして、若き日のシューベルトが音楽の喜びに溢れ、その歓びをそのまま譜面に書き留めたかのような、明るさと軽やかさが印象的なソナタ イ長調 D.574。
これらの作品を通して、シューベルトの音楽の本質が改めて浮かび上がることだろう。
さて、第1回から"本気度"が伝わる、シューベルトの室内楽ならではの輝き、熱情、品格、抒情性が凝縮された、非常に完成度の高いプログラムだ。
「シューベルトは表現が難しい」とよく言われるが、その理由を一言で表すのは難しい。
彼の音楽には、ただ美しい旋律があるだけではない。
シューベルトの心の機微に寄り添い、それを表現することこそが、演奏者に求められる。
それは、言葉にならない想いが、時間の流れの中でふと立ち止まり、響きとなって私たちに語りかける瞬間。
どこか内省的でありながらも、決して閉じたものではない。
まるで、孤独の中にあっても、人が何かを語らずにはいられないように──
かと思えば、物静かなシューベルトの内に秘められた芸術性が、突如として爆発するようなデモーニッシュな一面を見せることもある。
シューベルトは決して単純な作曲家ではないのだ。
底知れぬ魅力を持つシューベルトの音楽を、鈴木舞 × 川口成彦デュオがどう表現するのか──期待は高まるばかりだ。
鈴木舞氏のヴァイオリンは、ダイヤモンドの粒が踊るような音色で、時に情熱的に、そして夢見るように繊細に、表情豊かに歌いあげる。
作品ごと真剣に音楽に向き合い、時に大胆に演じ切るその姿は、まるで女流剣士のよう。
シューベルトの音楽は奏者によっては単調に聴こえてしまうこともあるが、彼女の演奏はその真逆。
聴き手を最後まで引きつける力に満ちている。
一方、川口成彦氏のピアノは、精妙なニュアンスに満ちたフレーズの美しさが際立ち、対話を重んじた響きで会場を包み込む。
彼のピアノは、語るように歌い、歌うように語る。
シューベルトの音楽が持つ詩情と妙にフィットするのは、
偶然ではないだろう。
その響きはまるで、
シューベルトが部屋の片隅で即興を弾いているかのような、
親密な空間を生み出す──
芸大時代の同級生である二人のアンサンブルは、
まさに息がぴったりだ!
二人とも本番だからこそ生まれる”インスピレーション”
を大切にする演奏家。
だが、
そもそもそのインスピレーションを与えられる存在であることこそ
が、彼らの天賦の才なのだ。
単なる技巧の見せ場ではなく、作品の奥にある「語られざるもの」
に耳を澄ませるとき、そこにはきっと、
シューベルトの音楽が持つ「言葉にならない詩」が満ち、
無限の広がりを感じることができるだろう。
このシリーズでは、そんなシューベルトの真髄を、
じっくりと味わう時間となることだろう。(渋谷美竹サロン)