第19回ショパン国際ピアノコンクール
本大会出場が決定!
「東洋の奇跡」を彷彿とさせる──
山縣美季、ショパンを奏でる。
山縣美季さんを初めて拝見したとき、ふと「東洋の奇跡」と讃えられた田中希代子や原智恵子といった、20世紀初頭に活躍した日本人女性ピアニストたちの姿が脳裏をよぎった。田中希代子の音源はいまも血眼になって探すクラシックファンが少なくないが、それだけの魅力が、確かに彼女には備わっていたのだろう。
当時、ショパン国際ピアノコンクールにおいて、東洋人に対する偏見が根強かった時代に、田中は日本人として初の入賞(第10位)を果たした。
審査員の一人であった伝説的ピアニスト、アルトゥール・ベネディッティ・ミケランジェリは、この結果に異論を唱え、激怒して退場したという逸話が、今も語り継がれている。
田中希代子は、日本人ピアニストが国際的に認められる“夜明け”を告げた稀有な存在であり、皇后陛下にも愛された、まさに戦後日本の「夜明けのピアニスト」だった。なぜ、山縣さんにかつての日本人女性ピアニストの面影を重ねたのか──
最初はその理由をうまく言葉にできなかったが、彼女の演奏を何度か聴くうちに、少しずつその答えが見えてきた。
日本人らしい品格を湛えながらも、音の骨格はしっかりとし、輝きとともに豊かなスケール感を感じさせる。
そしてなにより、一音一音に確かな説得力が宿っており、それらは耳ではなく、心の深層に直接触れてくるような印象を与えるのだ。現在、彼女は名門・パリ国立高等音楽院で研鑽を積んでいる。
「芸術家はフランスで磨かれる」とはよく言われるが、ショパン自身がその足跡を残した地で、彼女は今、音楽家としての“進化”の真っ只中にある。
そして、国際的な舞台で輝くにふさわしい資質と個性を、たしかに備えている。
4年前の、2021年のショパン国際ピアノコンクールでは、惜しくも予備予選での敗退という結果となった。
このときの演奏も十分に高い完成度を誇っていたが、2025年の予備予選では、彼女の中に明確な音楽的深化が感じられた。
アゴーギクの扱いや、フレーズ内の呼吸の精緻さが格段に磨かれ、そこには“ショパンの品格”とでも呼ぶべき、深い詩情と構成感が立ち現れていた。
とりわけ、暗さや寂しさ、そして深いメランコリーといった内面的な感情の表現は見事で、彼女が葛藤を抱えながら、音楽と真摯に向き合ってきた時間が、音に刻み込まれていた。
多くは語らずともよい。
まずは、彼女のショパンを聴いてほしい。