神童、現る。
完璧なテクニック。無色透明でありながら併せ持つ、深い感性。
神に愛でられし子、谷昂登が初登場──
私がピアノで一番表現したいものは「歌心」だ。今回、選曲したプログラムは一見、テクニックに目がいくように思えるが、その中に含まれる表情豊かな音楽を存分に味わっていただきたい。
まず 「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番 イ長調 Op.101」。「夢見心地」などと言われ、古典的なソナタとは離れた幻想的でどこまでも続いていくようなメロディで冒頭が始まる。この曲が書かれたのは、病気によって多難で苦しい生活も加わり、創作が困難な時期であった。それを克服して内面的な世界へ語っていくようなこの曲に込めたベートーヴェンの精神力を感じていただきたい。
2曲目は「ストラヴィンスキー(ギド・アゴスティ編曲):火の鳥」。オリジナルはバレエ音楽でオーケストラのための曲である。私は、この曲を通してピアノのもつ可能性の大きさを感じていただけるよう演奏したい。一台のピアノで弦楽器の波のような大きな音楽、管楽器の力強さ、打楽器の安定した支え、それらが全て同時に表現できればと思う。
そして後半1曲目は「ショパン:ノクターン第13番 Op.48-1」。私が幼い頃からとても好んでいた曲で、短調でどこか哀愁があり、そして想いが強くなっていく。この6分間に凝縮されたドラマが、私のもつ「歌心」でどこまで表現できるかに挑戦しようと思い選曲した。
最後に演奏する曲は「リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178」。この曲は単一楽章で書かれており、主題の要素をさまざまな形に変容させて新たな主題を生み出していき、いくつもの新しい技法を使った革新的なソナタとなっている。リストは超絶技巧ばかり注目されがちだが、非常に表情豊かで人間的な感情がこの作品に表現されている。また、多くの女性を愛し、波乱万丈の人生を送り、各地を旅してその印象を曲に投影させた。これらのことが、今回のテーマの技術だけにとらわれず「歌心」で魅せる、ということに繋がってくる。今回のプログラムも、ドイツ、ロシア、ポーランド、そしてハンガリーと全て違う国の作曲家。その上、時代・作風ともに大きく違った作品を取り上げている。その集大成のようにも感じさせるような表現をこの曲でしたいと思う。
(谷 昂登)
ただ漠然と「天才」や「神童」という言葉は使いたくはない。だが、谷昂登のピアノには、そう思わせられるような何か強烈な説得力があるのだ。
高潔な響きを持つ音色と、時折現れる悪魔的なスパイスの効いた音色。完璧とも言って良いほどの揺るがないテクニック、驚愕の構成力とある溢れんばかりの瑞々しい音楽性──
人の感性を震わせる何かを持つ彼の音楽は、一度聴いただけでその異常な才能を感じられずにはいられない。
現在、17才の高校三年生の少年だ。やはり「神童」としか言いようがない。
今回のプログラムでは、あの壮大なリストのロ短調ソナタを中心に、有名なバレエ音楽をピアノで表現したギド・アゴスティ編曲のストラヴィンスキーの火の鳥や、ベートーヴェンの憧れが詰まったピアノソナタ 第28番 イ長調 Op.101、そして、ショパンの憂いに浸ることができるノクターン 第13番 ハ短調 Op.48-1と、どの作品も聴きごたえたっぷりだ。
神に愛でられし子、谷昂登がピアノ界の新たな時代を切り拓いていくのを目の当たりにするのではないか。
(美竹清花さろん)
プロフィール
谷 昂登(Tani Akito)Piano
2014年 第38回ピティナ・ピアノコンペティション全国決勝大会にて Jr.G級 金賞 併せて福田靖子賞・王子ホール賞・読売新聞社賞受賞。15年 第21回フッペル鳥栖ピアノコンクールにて第1位及び月光賞を最年少受賞。16年 第20回浜松国際ピアノアカデミーコンクールにて特別賞受賞。エッパン国際ジュニアピアノアカデミーコンクール(イタリア)にて特別賞受賞。故・中村紘子氏の推薦により「題名のない音楽会」に出演、また佐川文庫(茨城県)にてピアノ ソロ・リサイタル開催。17〜19年 第13~15回茨城国際音楽アカデミーinかさまにて かさま音楽賞を3年連続受賞。第38~40回霧島国際音楽祭にてエリソ・ヴィルサラーゼ氏のレッスンを受講、霧島国際音楽祭賞並びに堤剛音楽監督賞受賞。第8回福田靖子賞選考会にて第2位。北九州国際音楽祭にてNHK交響楽団コンサートマスター篠崎史紀氏、広上淳一氏らと共演。トッパンホール ランチタイムコンサートVol.97、Vol.101に出演。19年 第1回若い音楽家のためのチャイコフスキー国際オンラインピアノコンペティションにて第1位(前身の「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際音楽コンクール」から含め、日本人初優勝)。ヤマハ主催 ミシェル・ベロフ氏のマスタークラス(パリ)、セルゲイ・ドレンスキー氏、ニコライ・ルガンスキー氏、アレクサンダー・サンドラー氏のマスタークラス(ロシア)を受講。第17回チェコ音楽コンクールにて第1位。第6回アリオン桐朋音楽賞受賞。20年 ヤマハ ライジングピアニストコンサートに出演。第44回ピティナ ・ピアノコンペティション特級 銅賞。第18回東京音楽コンクール第2位(最高位)及び聴衆賞受賞。NHK-FM「まろのSP日記」において篠崎史紀氏と共演。令和2年度 北九州市民文化奨励賞受賞。これまでに、高関健、山下一史、Chi-Yong Chung、岩村力、梅田俊明、秋山和慶、角田鋼亮、藝大フィルハーモニア管弦楽団、北九州グランフィルハーモニー管弦楽団、韓国交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、広島交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団等と共演。現在、岡本美智子、鈴木弘尚、永野栄子の各氏に師事。桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)2年に特待生として在学中。