2022年度、N響メンバーによる定期サロン最終回!
ブラームス、シマノフスキ、ラフマニノフによって導かれる室内楽の魅力
2022年度、N響企画も7回目となり、最終回となった。
クラシック音楽のコンサートではソリストへの関心が高く、室内楽を聴く機会はどちらかというと少ない。しかし、クラシック音楽のファンとしては、室内楽にももっと関心をもってよいのではないのか。特に、サロンで体験する室内楽では、繊細なニュアンス、ハーモニー等々を生々しくダイレクトに体験できる。
今最終回を飾るメンバーは、シリーズの衝撃的な始まりであった「フーガの技法」全曲を演奏し、その醍醐味を味わわせてくれたメンバーが再登場である。
さらに今回は、三国レイチェル由依氏のヴィオラが華を添える。東京藝術大学院音楽研究科修士課程2年に在学兼22年7月よりNHK交響楽団団員となったフレッシュな若手だ。
プログラムはラフマニノフ、シマノフスキの弦楽四重奏曲とブラームスの弦楽五重奏曲というフルコース。
ロシアの芸術を育てたといっても過言ではないラフマニノフの輝かしくみなぎる芸術性。
第1次世界大戦中、ヨーロッパの激動の真っただ中に描かれたシマノフスキの苦悩と解放。
妥協を許さぬブラームスが自ら認めた二つの弦楽五重奏曲に秘められた情熱と諦め。
室内楽の魅力をたっぷりと楽しむことができるプログラムである。
今回はプログラムノートを特別に事前に入手したので、以下に紹介する。
ラフマニノフ:弦楽四重奏曲第1番より「ロマンス」
ラフマニノフは幼少期は恵まれて育つも9歳の時に一家が破産、両親が離婚してしまう。それでも豊かな才能をもっていたラフマニノフは奨学金を経て音楽院に入学し勉強に励むこととなる。この作品はまだ彼がモスクワ音楽院に在学中の作品で未完成であるものの、彼がのちに発表する数々の名作品同様、哀愁をおびたメロディーと素敵な和声の数々…2月の寒い時期、暖かなサロンの空間で冷たさの中に温もりがポッっっとあるラフマニノフの音楽に浸ってください。
シマノフスキ:弦楽四重奏曲第1番 ハ長調 Op.37
この曲が作曲された1917年、ヨーロッパは激動の真っただ中。第1次世界大戦中に、ロシア革命がおき、各民族の自決権を認める宣言をソヴィエト政権が発したことにより、ドイツ・オーストリアの支配から逃れる道ができたポーランドは、戦争終結後独立したのだった。この作品は1922年ポーランド文化賞コンクールにて1位をとり、1924年に初演されている。ショパンやワーグナー等ロマン派の音楽からの脱却に加え、時代背景、ストラヴィンスキーに会う等刺激的なヨーロッパ旅行、そしてキリスト教、古代ギリシャやイスラム、オリエントの勉強等、この作品には彼自身が持つ経験がふんだんに詰まっているように私は感じる。メロディーがわからない時間も、全員が調性が違う一見混濁した音楽も、全ては純粋な響きC-durで全てが泡のように弾け、まるで今までの混乱が全て晴れるような最後...たまらないものになるだろう。
ブラームス:弦楽五重奏曲1番 ヘ長調 Op.88
ブラームス:弦楽五重奏曲 第2番 ト長調 Op.111
この2つの作品はブラームスにとってとても大事な作品だ。第1番はクララ・シューマンに対し「私の最高の作品の1つ」と手紙を残し、また「このような美しい曲を私から受け取ったことはないでしょう」と出版者ジムロックに送っている。第2番に至ってはジムロックに対し「この作品で私の音符はお別れにできます」と書き、翌年から終活を始めるのである。
どちらもブラームスの作品には珍しく楽天性がみられるが、内に秘められている想いは少々違うように感じる。第1番は明るさにも内なる情熱を秘め、重々しさもあり、まだパワーに満ち溢れているのに対し、第2番は自身が求めても求めてもどうしても届かない頂きがある事に気付きもがき、必死で抵抗し、様々な様式、アイディアを出しつくしたように思えるのだ。今回この2作品を並べて聴くことで皆さまがどのような感想を持っていただけるのか、楽しみでならないし、演奏者も弾き終えた時の感覚が、感性がどうなるのか想像するとワクワクがとまらない。(三又 治彦)
プロフィール
三又 治彦(MIMATA Haruhiko)Violin
桐朋学園音楽学部演奏学科卒業。2006年にNHK交響楽団に入団。現在ヴァイオリン次席奏者。2008年にハマのJACK(現在は特定非営利活動法人)を仲間とともに立ち上げ、未来の音楽家支援を目的とした「金の卵プロジェクト」、家族で楽しめる音楽プロジェクト等クラシック普及活動を行っている。またウィーンフィルハーモニー交響楽団メンバーとの共演等、室内楽、リサイタル等幅広く活動している。NPO法人ハマのJACK理事長。
倉冨 亮太(KURATOMI Ryota)Violin
東京藝術大学音楽学部弦楽科を首席で卒業。在学中に福島賞、安宅賞、三菱地所賞等受賞。同大学修士課程修了。ロームミュージックファンデーション2016年度奨学生。シゲティ国際コンクール入賞。リピッツァー国際コンクール最高位、聴衆賞等の特別賞受賞。別府アルゲリッチ音楽祭、リゾナーレ音楽祭、軽井沢国際音楽祭、北九州国際音楽祭、東京・春・音楽祭など出演し、活躍の場を広げている。これまでに千田成子、清水高師、篠崎史紀各氏に師事。東京ジュニアオーケストラソサエティ講師。現在、NHK交響楽団次席代行ヴァイオリン奏者。
村松 龍(MURAMATSU Ryo)Viola
6歳よりバイオリンを始める。東京音楽大学付属高校を経て同大学卒業。卒業時に読売新人演奏会出演。
1995年第49回全日本学生音楽コンクール東京大会小学生の部第2位。
2003年第4回大阪国際コンクール高校の部3位(1位、2位なし)2007年東京音楽大学コンクール第1位。NHK交響楽団アカデミーを経て、現在NHK交響楽団次席ビオラ奏者。ハマのジャックメンバー。各オーケストラでゲスト首席、室内楽、ソロ、アマチュアオーケストラ指導などでも活躍している。
三国 レイチェル 由依(MIKUNI Rachel Yui)Viola
第23回コンセール・マロニエ21入選。紀尾井ホール室内管弦楽団2021年度シーズン・メンバー。小澤征爾音楽塾オペラプロジェクトⅩⅥ.ⅩⅦ、セイジ・オザワ松本フェスティバル2018.19、小澤国際室内楽アカデミー奥志賀2018.19.22、武生国際音楽祭に参加。現在東京藝術大学院音楽研究科修士課程2年に在学兼22年7月よりNHK交響楽団団員。
小畠 幸法(KOBATAKE Yukinori)Cello
NHK交響楽団チェロ奏者。
東京藝術大学音楽学部卒業。同大学院音楽学部修士課程修了。
これまでに金木博幸、間瀬利雄、苅田雅治、山崎伸子、藤森亮一の各氏に師事。
マスタークラスをW.ヴェッチャー、P.ドゥマンジェ、D.ゲリンガスに師事。
キジアーナ音楽院国際アカデミー、小澤国際室内楽アカデミー参加。JTが育てるアンサンブルシリーズ、JTアフィニス アンサンブル セレクション特別演奏、フジロックフェスティバル2018G&G Miller Orchestra等多数出演。