いま最も聴いてみたい若き俊英、二人が挑む、
三つのベートーヴェン・ソナタ
前田妃奈×久末航 ──── この注目されている二人が、ベートーヴェンを弾く。
いつのまにか注目を集めているこの二人が出演する、この事実だけで、胸が高鳴るのではないか!
しかも選ばれたのは、第2番、第5番「春」、第10番という、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの変遷を象徴する三つの作品である。
前田妃奈は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
2022年ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールでの鮮烈な優勝は記憶に新しく、
その演奏は、神がかった集中力に支えられ、豊かな感性と細やかな情感、自由闊達な音楽運びに満ちていた。
音楽を「理解」しているというより、「感じて」いる──いや、「音楽の命を生きている」と言ったほうが近いのかもしれない。
“瑞々しい”という言葉だけでは足りない。
まるで楽器が彼女の分身であるかのように、音楽が自然と湧き出てくる。
音楽そのものとひとつになる瞬間を感じさせ、舞台に立った瞬間には、空気がふわっと変わる。
その空気の変化に、何度となく驚かされてきた。
一方、久末航のピアノは、静かで、深くて、よく響く。
華美に流れることなく、音楽の構造と魂に真っ直ぐ向き合うその姿勢には、揺るぎない情熱と誠実さがある。
だが、それだけではない。
ベートーヴェンを弾けば、核心を射抜くような推進力があり、ブラームスを弾けば、重厚な響きのなかから情熱と哀しみが静かに立ち上り、心を深く揺さぶる。
現代作品を手がければ、閃きと緻密さが響きのなかに共存し、新たな風景を描き出す。
彼の演奏には、深い“信”がある──音楽を信じ、作品を信じ、聴き手を信じている。
2025年、エリザベート王妃国際音楽コンクールでの第2位受賞(日本人歴代最高位)は、その信念の証明だろう。
ベートーヴェンのような作曲家にとって、これほど信頼できるピアニストがいるだろうか。
そんなふたりが、三つのベートーヴェンのソナタで“対話”を試みるのだ。
第2番では、形式と対位法に戯れる若きベートーヴェンが。
第5番「春」では、自然と親しみ、旋律が花開くような優しさと、音楽への挑戦が…。
そして第10番では、すべてを見渡した晩年の静けさと内省が──
作品の風景が移ろうなかで、ふたりの音楽家がどのように耳を澄まし、寄り添い、すれ違い、また重なっていくのか。
まさに、“生きた音楽の対話”がそこに立ち上がる。
いま最も注目されるこのふたりのアーティストが、美竹サロンという親密な空間で奏でるベートーヴェン。
技巧や経歴では語り尽くせない、音楽の“本当の意味”が垣間見えるかもしれない。
そんな予感に、静かに心を預けたくなるのだ。(渋谷美竹サロン)