名手集う! 濃密にして、究極の弦楽アンサンブル
リゲティ、マルティヌー、ドヴォルザーク、コダーイ
歌い、踊り、語り合う——中欧・東欧、弦楽室内楽の精華
ヴァイオリン二挺とヴィオラ、わずか三本の弦楽器。
しかも冒頭に置かれているのは、リゲティの《バラードとダンス》。
このプログラムを目にしたとき、多くの人は「これは相当な玄人向けの演奏会ではないか」と身構えるかもしれない。
しかし実際にこの演奏会で体験する音楽は、決してそうした構えを必要としない。
むしろ、旋律は自然に耳に入り、リズムは身体にすっと馴染み、気づけば音楽の流れの中に身を委ねている——そんな時間が用意されている。
プログラムは中欧・東欧の作品を軸に構成されている。
民謡や舞曲に根ざしたリズム、素朴でありながら忘れがたい旋律、そして声部同士が会話を交わすように進んでいく書法。
リゲティ、マルティヌー、ドヴォルザーク、バツェヴィチ、コダーイ——
時代も作風も異なる作曲家たちが、三本の弦楽器によって鮮やかに結びついていく。
この音楽を支えるのが、三人の奏者の圧倒的な個性と信頼関係である。
数々の国際コンクールに入賞し、ソリストとして、また室内楽奏者として、国際的にも高い評価を受ける毛利文香。
彼女のヴァイオリンには、言葉で言い尽くすことのできない迫力があり、まるで女王がマントをまとって静かに玉座に着くかのような、揺るぎない風格と存在感が舞台を満たすのである。
その音楽には芯の強さと揺るぎない自信があり、どんな複雑な楽想であっても、大きな流れとして聴き手に提示する力がある。
葵トリオのメンバーとして、また名古屋フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターとして活躍を続ける小川響子は、作曲家の内なる声をすくい上げるように、音を人の心へと届ける。
彼女のヴァイオリンは、内なる音楽の源から音楽の命を引き出して示すようなアプローチであり、その幸運な瞬間にふれることができた聴き手は、思わず息を呑み、その幸福を静かに味わうことになる。
そして杉田恵理のヴィオラは、この三人の音楽を根底から支える存在だ。
クァルテット・ベルリン・トウキョウ創設メンバーであり、フィンランド放送交響楽団副首席奏者を務めるなど、国際的な活躍が著しい彼女は、卓越したテクニックと驚くほどのバランス感覚によって、アンサンブルはしなやかに、しかし確固たる骨格をもって立ち上がる。
彼女がいることで、三つの声部は一層自然に溶け合い、どんな音楽も安心して委ねられる。
この演奏会の魅力は、音の多さや派手さにあるのではない。
三本の弦楽器が生み出す親密な対話、音と音の間に宿る気配、視線や呼吸までもが音楽になる瞬間——
クラシックに親しんできた方にも、これから深く触れていきたい方にも、等しく開かれた、滋味深い一夜となるだろう。(渋谷美竹サロン)