シューマン夫妻とブラームス 愛に溢れた葦の歌声──
123シリーズVol.10は、若きオーボエの名手として名高い荒川文吉による、至高のドイツリートの世界へ。
本コンサートへご来場いただくお客様へ向けて、荒川さんよりメッセージをいただいています。
オーボエはオーケストラの中でも歌うように聴かせるメロディーを担当することが多く、音域的にもソプラノ歌手とほぼ同じであるため、元来、歌(人の声)との親和性が高い楽器です。
僕自身、オーボエそのものの音の魅力はもちろんのこと、「楽器を通して歌う」ということへの興味も、オーボエに惹かれた理由の一つであったと感じています。
管楽器は音楽を息で表現します。言わば「歌詞のない歌の世界」です。管楽器による歌曲の表現を通して、より自由な想像が膨らむ音楽体験を目指せたらという狙いです。
歌は楽器と違い、誰でも思い立ったときに気軽に取り組める、音楽の入り口であり原点だと思っています。口ずさみたくなるようなお気に入りのメロディーに出会えるかも…そんなきっかけで足を運んでもらえたら嬉しいなと思います。
現在、ベルリンフィルのアカデミー生としてドイツへ留学中の荒川さん。
留学してから、元々好きだった歌曲やオペラへ対する情熱がより強くなり、その魅力に取り憑かれているとのこと。
また、実際にシューマン夫妻が生活をしていた家を訪れる機会を持ったことからも大きく影響を受け、シューマン夫妻のロマンスとドイツリート、歌曲といった内容を中心に深く取り組んでいきたいとの想いから、今回のプログラムが構成されました。
今、肌で感じているドイツの気風、シューマン、ブラームス夫妻が実際に過ごした空気、空間。
ドイツの三人の偉大な作曲家からの愛の便りを、荒川さんが美竹清花さろんへ熱い思いを込めて届けてくださいます。
前半は、R.シューマンの代表的な歌曲を中心に取り上げます。
「月の夜」は、シューマンの作品に感銘を受けた若き日のブラームスが、同じ詩に音楽をつけました。ブラームスがロベルトのことをいかに尊敬していたかを窺い知ることができます。
後半はクララの女性らしい感覚が表れている美しい歌曲から始まり、ブラームスがシューマン夫妻と出会った1853年に作曲された「6つの歌曲」、そして同年にクララが作曲した「3つのロマンス」を据えます。
今回のプログラム構成についてそう語ってくださいました。
きっと、コンサート中も軽快なトークも交えながら、三人の作曲家の歌の世界にたっぷりと浸ることのできる時間を提供してくださることでしょう。
一音一音に満ちた色彩、歌心にあふれた抑揚、一瞬一瞬をも聴き逃させない音楽への集中、ずっとずっとこの演奏に浸っていたい‥‥。
「美しい音色、響き」といった表現などではまったくもの足りない魅力――深く、どこまでも膨らみ、しかし繊細に煌めく“荒川さんの歌” を聴くことができる貴重な機会をどうぞご堪能ください。(文責 遠藤綾子)
プロフィール
荒川 文吉(あらかわ・ぶんきち)Oboe
1992年、東京都出身。12歳よりオーボエを始める。東京藝術大学卒業。同大学院音楽研究科修士課程修了。修了時に大学院アカンサス音楽賞受賞。
これまでにオーボエを池田昭子、広田智之、青山聖樹、小畑善昭の各氏に、室内楽を守山光三、和久井仁、岡本正之、小池郁江、高木綾子、植田克己、十亀正司、三界秀実、有森博の各氏に師事。また、オットー・ヴィンター、ディートヘルム・ヨナス、トーマス・インデアミューレ、モーリス・ブルグ、ハンスイェルク・シェレンベルガー、ジェローム・ギシャール、ジョヴァンニ・デ・アンジェリ、ローラン・ペルヌー、アルブレヒト・マイヤー、フィリップ・トンドレ各氏のマスタークラスを受講。
2013年第82回日本音楽コンクールオーボエ部門第2位ならびに岩谷賞(聴衆賞)受賞。2014年第31回日本管打楽器コンクールオーボエ部門第1位ならびに文部科学大臣賞、東京都知事賞受賞。国際ダブルリード協会主催2015年度フェルナンド・ジレ=ヒューゴ・フォックス国際オーボエコンクール第2位(日本人過去最高位)。
これまでに、ソリストとしてダグラス・ボストック指揮藝大フィルハーモニア、山下一史指揮東京ニューシティ管弦楽団と協奏曲を共演。
2016年8月、サントリーホール30周年記念演奏会に於いて武満徹作曲「ジェモー(双子座)」にオーボエソリストとして出演し、東京フィルハーモニー交響楽団と共演。
2014年9月、ヤマハホールコンサートシリーズ「Rising Artists Concert」出演。同年11月、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」出演。2016年5月、東京オペラシティコンサートシリーズ「B→C」出演。
「Trio Explosion」メンバー(Fl. 齋藤志野、Ob. 荒川文吉、Pf. 黒岩航紀)。
公益財団法人青山財団平成25年度奨学生。
2014年、大学4年在学中に東京フィルハーモニー交響楽団に入団。現在、同楽団首席オーボエ奏者。
2017年秋より、アフィニス文化財団海外研修員としてベルリンへ留学。2017年9月より、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の「カラヤンアカデミー」に在籍。ジョナサン・ケリー氏に師事。
2018年2月、ベルリンフィルメンバーによる「Scharoun Ensemble of Berlin」のローマ公演に参加。
宇根 美沙惠 (うね・みさえ) Piano
東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻卒業、その後同大学同学部楽理科卒業。
ピアノを佐野幸枝、北島公彦、浜口奈々の各氏に師事。また、ジャック・ルヴィエ、エリック・ル・サージュ、フランツ・ボーグナー等各氏のマスタークラス修了。
PTNAピアノオーディション、日本ピアノ教育連盟オーディション、かながわ音楽コンクール等で入賞、入選。
リサイタルやNHK-FMにて様々な演奏家と共演し、多方面にて活動している。
これまでローム音楽セミナー、国際ダブルリードフェスティバル、日本木管コンクール、浜松国際管楽器アカデミー等にて公式ピアニストを務める。
現在、東京藝術大学管打楽科非常勤講師(伴奏助手)。