8本の弦の可能性に迫るーー
ヴァイオリンとチェロのための至極の二重奏。
Z.コダーイ: 二重奏曲Op. 7 についてーー
「今回のメインのコダーイの二重奏曲ですが、アンサンブルの曲としてかっちりと合わせるというよりは"可能性"がどこまでも広がっていくような曲だと考えています。可能性というのは8本の弦の可能性もありますし、ハンガリーの民謡風の歌であったりリズムであったり、曲の可能性もそうですね。8本の弦とは思えないほどのスケールの大きさがあるというのが、この曲の一つの大きな魅力だと思います。
コダーイといえば、超絶技巧でも有名なチェロの無伴奏の曲がありまして、当時から本当にチェロ一本で演奏しているのか、と疑われるほどでした。
そういった意味でも、コダーイの曲というのは楽器を超越したイメージがあります。」(伊東)
「コダーイといえば"民謡"というのは大きく外せない要素で、民謡独自の"歌い方"があるような気がします。なんと言いますか…土の匂いが感じられるような。有名な二重奏では他にラヴェルのヴァイオリンとチェロのデュオ曲もありますが、練習していても、同じ8本の弦から出てくる音楽がこんなに違うのかと感じてしまいます。
今回の、ヴァイオリンとチェロのみという組み合わせの演奏会というのは珍しいので、他の室内楽とは違った弦の響きであったりですとか、特色ある"音色"の発見をしていただけると思います。」(黒川)
モーツァルトはオーストリア、イザイはベルギー、カサドはスペイン、
そしてコダーイはハンガリー、
各作曲家の"音楽のナショナルカラー"を紡ぐ。
W.A.モーツァルト: 二重奏曲 ト長調KV423についてーー
「この曲はもともとヴァイオリンとヴィオラのために作曲されました。今回はヴァイオリンとチェロと、ということですが、コダーイとはまた違って、室内楽的な楽しさが詰まった曲だと思っています。ところどころで掛け合いがあり、弦楽器2本だけなのに、物足りない感じもなく、モーツァルトの優美な世界が堪能できる一曲です。」(伊東)
E.イザイ: 無伴奏ヴァイオリンソナタ 第2番 イ短調についてーー
「イザイ自身がヴァイオリン弾きだったこともあり、6曲ある無伴奏ヴァイオリンソナタはどれも、かなり技巧的に派手に作曲されています。
今回の曲は各々の楽章に題名がついていて、例えば第1楽章は"妄執"(Obsession)です。この楽章のみでなく、曲全体を通してバッハの無伴奏パルティータやグレゴリオ聖歌「怒りの日」のセンテンスが引用されているのですが、1楽章だけを見ても、バッハや聖歌に対する、イザイの作曲家としての"妄執"があったのかもしれないと想像できます。
また冒頭のバッハのセンテンスが"聖"としたら、イザイの部分が"俗"といいますか、"聖"と"俗"の入れ替わりみたいなものも表現されていると感じます。例えば、2楽章は聖歌のイメージで、逆に3楽章は民族的な世俗曲というイメージですし、そういうのを行ったり来たりするというような曲ではないでしょうか。
そういう意味では、とても面白い特殊な曲だという印象を持ちます。」(黒川)
G.カサド: 無伴奏チェロ組曲についてーー
「カサドは作曲家というよりはチェリストなので、この無伴奏チェロ組曲はチェロという楽器の特性を上手く活かして作曲されています。
スペイン人だったので、スパニッシュな色もかなり出ています。
この曲は短いですが、それぞれの楽章のキャラクターがはっきりしています。
3楽章なんかはまさにスパニッシュダンスです。
それがチェロ一本で(響きの面であったり)うまく描かれているなぁと思います。
弾いていて、やはりカサド自身がチェリストだな、と思う箇所がたくさんあります。
聴いていて映える曲だなぁと思いますね。」(伊東)
プロフィール
黒川 侑(くろかわ・ゆう)Violin
2006年日本音楽コンクール第1位、岩谷賞(聴衆賞)他3つの特別賞を受賞。2015年ルドルフォ・リピツァー国際ヴァイオリンコンクールでAnna Piciulin特別賞、2016年仙台国際音楽コンクールで聴衆賞を受賞。
これまでにスイス・ロマンド管弦楽団、スペイン国立管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、京都市交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団など国内外のオーケストラとの共演、リサイタルなど多くの演奏会に出演。京都市交響楽団定期演奏会(広上淳一氏指揮)での演奏がCD「名曲ライブシリーズ」に収録された。
また国際音楽祭ヤング・プラハに招待され、ファイナルコンサート(ドヴォルザークホール)で、プラハ室内交響楽団と共演。その後再度招待され、ワルトシュタイン宮殿を始め、チェコ各地で演奏会に出演して高い評価を受ける。
ウィーン、ブリュッセルで研鑽を積んだ後、桐朋学園大学院大学(修士課程)修了、現在エコール・ノルマル音楽院で勉強を続けている。
工藤千博、P.ヴェルニコフ、漆原啓子、堀米ゆず子、藤原浜雄、S.ルセフ、F.シゲティの各氏に師事。
倉敷市芸術文化奨励章、岡山芸術文化賞グランプリ、音楽クリティック・クラブ賞奨励賞、京都府文化賞奨励賞、京都市芸術新人賞、青山音楽賞、出光音楽賞を受賞。
伊東 裕(いとう・ゆう)Cello
1992年奈良県出身。6歳よりチェロを始める。日本演奏家コンクール小学生部門第1位およびグランプリ受賞。泉の森ジュニアチェロコンクール小学生部門および、中学生部門金賞。大阪国際音楽コンクール中学生部門第1位およびジャーナリスト賞、大阪府知事賞受賞。第77回日本音楽コンクールチェロ部門第1位および徳永賞受賞。生駒市市民功労賞受賞。京都フランス音楽アカデミー、草津夏期国際音楽アカデミー、クールシュベール夏期国際音楽アカデミーなどのマスタークラス受講。長岡京室内アンサンブル、関西フィルハーモニー管弦楽団、日本センチュリー交響楽団、神戸市室内合奏団ほか、多くのオーケストラと協演。小澤国際室内楽アカデミー、音楽塾オーケストラ、また中之島国際音楽祭、いこま国際音楽祭、武生国際音楽祭などに参加。朝の光のクラシック、兵庫県立芸術文化センターワンコインコンサートなどに出演。
これまでに斎藤建寛、向山佳絵子、山崎伸子、中木健二らに師事。東京芸術大学音楽学部器楽科を首席で卒業、在学中に福島賞受賞。現在、同大学院音楽研究科修士課程に在学中。
トッパンホールには、2015年7月の山根一仁公演、16年6月のジャン=ギアン・ケラス公演にアンサンブルメンバーとして出演している。