スケールが大きく天衣無縫──
時空を超えた先に見る江崎萌子の世界
プログラムについて、そして美竹清花さろんのこと。
『詩人の恋』に惚れ込み、あの美しい出だしを初めてピアノでなぞってみたときだったでしょうか。今この瞬間は私がもっともシューマンの魅力をわかっていて、彼の胸の内を痛いほど理解できる— 私はピアノ弾きならずとも音楽愛好家なら一度は経験したことがあるだろうエンパシーを感じ、この幸福な錯覚に陥りました。それ以来シューマンは私にとって特別な作曲家となっています。今回のリサイタルは長年憧れていながら今年初めて取り組むフモレスケと、私のもう一つの軸となりつつある作曲家ドビュッシーの円熟の作品を中心にプログラミングしました。
「花鳥風月の心を欠いた芸術などはありえず、一輪の花も咲かぬ小説は少なくとも芸術としての価値がない。」美竹清花さろんという名前に、いつか本の中で出会ったこの言葉を思い出しました。大都会の中心に位置しながら、その名が連想させるとおりアーティストの美意識をほころばせてくれる空間です。
私が演奏において常に心がけていることのひとつは、聴いてくださる方々に語りかけること、そして対話することです。ここではサロンが提供してくれる理解と安心感の中でその対話が実現でき、音楽を囲んで若手演奏家と聴衆、相互間に温かなリスペクトが生まれると想像しています。なによりそのような稀有な場所で演奏できることは音楽家冥利に尽きることです。
皆さまにお会いできますのを心待ちにしています。
江崎 萌子
プロフィール
江崎 萌子(Moeko Ezaki)Piano
1993年生まれ。桐朋女子高等学校音楽科首席卒業後、パリスコラ・カントルム音楽院、パリ国立高等音楽院にてテオドール・パラスキヴェスコ、フランク・ブラレイ、上田晴子の各氏に師事し、修士課程卒業。現在ライプツィヒ・メンデルスゾーン演劇音楽大学演奏家課程にてゲラルド・ファウト氏に師事する。またメナヘム・プレスラー、マリア・ジョアン・ピレシュ各氏の薫陶を受ける。
2019年第8回ヴェローナ国際コンクール(イタリア)第2位、クラシックソナタ賞、女性演奏家賞受賞。第26回エピナル国際コンクール(フランス)第4位、オーケストラ賞、現代曲賞受賞。第2回桐朋ピアノ・コンペティション第1位、第4回東京ピアノコンクール一般部門第2位、第80回日本音楽コンクールピアノ部門入選。
パリ・フィルハーモニー大ホールにてパリ管弦楽団プレリュードコンサートのソリストを務めたのをはじめ、これまでに日本、フランス、ベルギー、ドイツ、オーストリア、イタリア、パキスタンにて演奏する。CHANEL Pygmalion Days 2018アーティストとして2018年東京にて全六回のソロリサイタルを行うと同時に、ホームページ上に三回にわたりコラムを掲載。2017年福岡にて大山平一郎氏指揮、モーツァルト 二台のピアノのためのコンチェルトを師匠上田晴子氏と共演したほか、東京交響楽団、Orchestre symphonique et lyrique de Nancy等と共演。
室内楽にも積極的に取り組み、ザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクール2014第2位受賞、ラヴェルが晩年を過ごした地モンフォール・ラモリ(フランス)でのラヴェル音楽祭、Music Dialogueディスカバリーシリーズ、シャネル室内楽シリーズ等に出演する。Music Dialogueアーティスト。
掲載インタビュー記事
【江崎萌子さん】スケールが大きく天衣無縫── ピアニスト江崎萌子を紐解く【音楽のQ&A】