超豪華メンバーによるフォーレのカルテットがついに登場!
昨年末に集結した、ヴァイオリニスト鈴木舞さんを中心に集まったそうそうたるメンバーでのクインテットの衝撃的な感動はまだ過ぎ去ってはいません。
演奏されたのはブラームスのピアノ五重奏曲であったが、室内楽での“第九”を思わせるような、室内楽でここまで壮大、華麗な、しかも気迫に富んだ演奏があるのか、といった感動をわたしたちに残してくださった。
ご来場いただいた皆様方も、体感したこともないような迫力に驚きにも似た凄さを覚えたようである。
その反響はとても大きく、来年もぜひ聴きたい、年末の恒例のコンサートにしてほしいとの声を多数いただいた。それはわたしたちの願いでもあった。
そこで、今年はヴァイオリン鈴木舞、ヴィオラ尾池亜美、チェロ伊東裕、ピアノ尾崎未空という超豪華なメンバーのカルテットという編成で戻ってくることになった。
サロンで聴く曲で、ブラームスのピアノ五重奏曲以上の大曲が正直あるのかとも思ったのだが、今年はフォーレのピアノ四重奏第1番であるという。これを聴いたとき、また趣の異なる素晴らしい体験ができると予感し、胸が高まるのを覚えた。
フォーレの音楽はどこかキャッチー、しかし抽象的、何か物足りない要素があると感じていたのだが、そうした印象を一変させたのが、あまりにも有名な曲ではあるがレクイエム Op.48 ニ短調であった。
このレクイエムを聴いたとき、「そうか、フォーレという作曲家は徹底的に「聴き合いながら演奏すること」に重点を置いた響き、ハーモニーを特に重視した希有の作曲家だった」と気づいた。
数あるレクイエムのいずれにもない曲想であり、これほど聴き合いながら演奏しなければならないハーモニーの美しさを狙ったレクイエムは他にない。しかもレクイエムというのは「死者のための鎮魂曲」なのだが、フォーレのレクイエムでは、生きている人間すべての鎮魂と平安を祈る生死を超えた鎮魂曲であったのだ…この独自なアプローチにも驚いた。
また楽曲のコンテンツとしても、レクイエムといえば、深い悲しみ、痛み、痛恨と悔悟、神への祈り、キリストの招き、赦し、天国での安らぎ…そういった要素が一通り散りばめられているのだが、最初から最後まで、これほどまでにハーモニーが重視されているのはなぜだろうか、決して死者のみのためのものではなく、生死を超えてすべての人びとにこの美しい「調和と安らぎ」を届けようとしたという事情に合わせて謎である。
このピアノ四重奏1番はフォーレの初期の作品で、サロン風のおしゃれな箇所が多く散りばめられているが、やはり“聴き合う”ことが重視された音楽だと感じる。
そもそもサロンで演奏されることが想定されていたであろう時代においては、“聴き合う”ことは現代以上に必須なこと、室内楽演奏の生命といってよいものだったのだろう。
今回の演奏会は、大ホールでの演奏会が日常的になった昨今、大ホールに足繁く通っている人にこそ、ぜひとも体感して欲しいと思うコンサートである。
息づかいまでがたゆとう繊細なニュアンス、体感できる圧倒的な迫力、倍音の美しさが空間全体に漂う様、サロンならではの、サロンでしか味わうことのできないこれらの音楽の魅力をハートから味わっていただきたいと願う次第である。
(美竹清花さろん)
プロフィール
鈴木 舞(SUZUKI Mai)Violin
東京芸術大学を経て、ローザンヌとザルツブルク、ミュンヘンで研鑽を積む。
2013年ヴァーツラフ・フムル国際ヴァイオリンコンクール(クロアチア)、オルフェウス室内楽コンクール(スイス)第1位。16年スピヴァコフ国際ヴァイオリンコンクール(ロシア)第2位等、内外のコンクールで優勝・入賞を重ね、これまでにスイス、チェコ、フィンランド、クロアチアなどのオーケストラと共演をするほか、各地で室内楽やリサイタルに招かれている。将来を嘱望される新世代のヴァイオリニストとして、2012年度シャネル・ピグマリオン・デイズ・アーティストに選ばれた。
2017年9月にキングレコードよりデビューCD「Mai favorite」をリリース。使用楽器は1683年製のニコロ・アマティ。
Web site:
maiviolin.com
尾池 亜美(OIKE Ami)Violin&Viola
東京藝術大学音楽学部附属高校、同大学を経て渡欧。ローザンヌ高等音楽院、英国王立北音楽院、グラーツ芸術大学にて研鑽を積む。
日本音楽コンクール、RNCMマンチェスター国際ヴァイオリンコンクール優勝。カールフレッシュ国際ヴァイオリンコンクール第2位。
これまでにスイス、セルビア、韓国、中国、イギリス等えリサイタルを開催するほか、国内外の多くのオーケストラと共演。
気鋭演奏家実験集団Ensemble FOVE, 弦楽四重奏団アミティ・カルテットメンバー。
www.amiito.com
伊東 裕(ITO Yu) Cello
奈良県出身。第77回日本音楽コンクールチェロ部門第1位受賞。葵トリオとして、第67回ARDミュンヘン国際音楽コンクールピアノ三重奏部門第1位受賞。
長岡京室内アンサンブル、関西フィル、日本センチュリー交響楽団、神戸市室内合奏団、藝大フィル他オーケストラと協演。小澤国際室内楽アカデミー、音楽塾オーケストラ、また中之島国際音楽祭、武生国際音楽祭、ムジークフェストなら、北九州国際音楽祭、宮崎国際音楽祭、東京・春・音楽祭等に参加。NHK-FMリサイタル・ノヴァ、クラシック倶楽部などに出演。藝大にて福島賞、安宅賞、アカンサス音楽賞、三菱地所賞受賞。斎藤建寛、向山佳絵子、山崎伸子、中木健二各氏に師事。東京藝術大学音楽学部を首席で卒業し、同大学院音楽研究科修士課程を修了。現在ザルツブルク・モーツァルテウム大学にてエンリコ・ブロンツィ氏に師事。紀尾井ホール室内管弦楽団メンバー。
尾崎 未空(OZAKI Misora)Piano
2016年第40回ピティナピアノコンペティション特級グランプリ、及び文部科学大臣賞受賞。
2010年いしかわミュージックアカデミーIMA音楽賞。2012年第8回モスクワ・ショパン国際青少年コンクール第3位、及び最優秀小品演奏特別賞受賞。2019年第15回MozARTe international piano competition(ドイツ・アーヘン)で第1位及び聴衆賞を受賞。2009 年にめぐろパーシモンホールにて初リサイタルを開催して以来、国内外で数多くの演奏会に出演。これまでにリトアニア国立交響楽団、ミネソタ管弦楽団、新日本フィル、日本フィル、東京交響楽団、大阪フィル等と共演。2017年3月キングレコードよりデビューCD「MISORA」をリリース、5月には浜離宮朝日ホールにてリサイタルを開催し、高く評価された。昭和音楽大学卒業、現在ミュンヘン音楽演劇大学大学院に在学。江口文子氏、アンティ・シーララ氏に師事。