狂気の優しさを幻想に見る ─シューベルトからシューマンへ─ <第1回>「追憶と幻想」
シューマンの《幻想曲》は、ベートーヴェン記念碑建立の寄附のために作曲され、ベートーヴェンの連作歌曲《遥かなる恋人に寄す》が尊敬の念をもって引用されています。これは3楽章構成で書かれており、ソナタ風幻想曲と言えるものです。ベートーヴェン・シリーズ最終回のプログラムの作品27(第13番と第14番《月光》)が、ベートーヴェン自身によって「幻想曲風ソナタ」と題されたことと照らし合わせると、両者に鏡のような関係を感じます。ベートーヴェンへの追憶とクララへの思慕のなかで、シューマンはどのように感情の流露を書き綴ったのでしょうか。
シューベルトの《ピアノ・ソナタ第18番》も、初版は「幻想曲」と記載されていました。作曲されたのは1826年、シューマンの《幻想曲》より10年ほど前、ベートーヴェンがまだ存命で、弦楽四重奏曲の傑作を書いた頃のことです。このシューベルトの《ピアノ・ソナタ第18番》はベートーヴェンからの影響が色濃く、第18番の挑戦的な作曲法には《熱情ソナタ》への意識も感じられます。
シューマン&シューベルトの新シリーズの幕開けに、シューベルトの意欲作、真情の発露を、ここ美竹清花さろんで皆さまと共に感じることができれば幸いです。
(鐵 百合奈)
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全シリーズ・プログラム一覧
第1回「追憶と幻想」 2022年9月17日(土) 18:00開演
シューマン:幻想曲 Op.17 ハ長調
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第18番「幻想」 D 894 ト長調
第2回「情熱と幻想」 2023年4月29日(土) 18:00開演
シューマン : 交響的練習曲 Op.13 (遺作入り)
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第19番 D958 ハ短調
第3回「包容と幻想」 2023年11月25日(土) 18:00開演
シューマン:クライスレリアーナ Op.16
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第20番 D959 イ長調
第4回「瞑想と幻想」 2024年6月15日(土) 18:00開演
シューマン:幻想小曲集 Op.12
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 D960 変ロ長調
プロフィール
鐵 百合奈(TETSU Yurina)Piano
2019年、N&FよりCDデビュー。2021年には2枚目のCD「シューマン」をリリースし、「レコード芸術」で準特選盤、毎日新聞や「音楽現代」などで特薦盤、推薦盤に選ばれる。
2019年よりベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏シリーズを開催、NHKからドキュメンタリーが放映される。
多くのリサイタルを開くほか、読売日本交響楽団、東京交響楽団、広島交響楽団などオーケストラとの共演も多い。
第86回日本音楽コンクール第2位、岩谷賞(聴衆賞)、三宅賞。第4回高松国際ピアノコンクール審議員特別賞。第20回日本クラシック音楽コンクール高校の部第1位、グランプリ。第11回大阪国際音楽コンクール、第14回ローゼンストック国際ピアノコンクール、各第1位。 2015年、皇居内桃華楽堂において御前演奏を行う。2017年度香川県文化芸術新人賞受賞。
ヤマハ音楽振興会、よんでん文化振興財団、岩谷時子 Foundation for Youth、宗次エンジェル基金より、奨学金の助成を受ける。
学術面では、論文「『ソナタ形式』からの解放」で第4回柴田南雄音楽評論賞(本賞)を受賞、翌年「演奏の復権:『分析』から音楽を取り戻す」で第5回同本賞を連続受賞。
東京藝術大学附属音楽高等学校、同大、同修士課程、同博士後期課程を修了、論文「演奏解釈の流行と盛衰、繰り返される『読み直し』:18世紀から現在に至るベートーヴェン受容の変遷を踏まえて」で博士号を取得。2020年より桐朋学園大学院大学専任講師に就任。