瑞々しい感性をそなえた若き尾崎未空のゴルドベルク変奏曲
第5回渋谷美竹サロン ゴルドベルク変奏曲演奏会
ゴルドベルク変奏曲という曲は、わたしたちの魂のふるさとを想起させてくれるような、バッハ作品の中でもとりわけ異色で不思議な作品である。
わたしたちはどこから来てどこへ行くのか、それを示唆してくれているような作品ではないのか。わたしたちの誰もが、自分のゴルドベルク変奏曲を感じ、奏でているのではないのか。しかしそれは、複雑きわまりない人生模様のように一定のものではなく、実に多彩な変化に富んだ、そのときそのときのゴルドベルク変奏曲のフレーズがある。各人各人がそれぞれの人生行路の中で、さまざまなゴルドベルク変奏曲のフレーズを味わっているのだろう。
渋谷美竹サロン恒例のゴルドベルク変奏曲演奏会は、バッハ生誕333年の記念すべき年に入川 舜によって幕が開かれ、務川慧悟、佐藤彦大、入川 舜と継承され、今回第5回の演奏者は、ミュンヘンに留学中の尾崎未空に引き継がれた。
尾崎氏は昨年2021年12月に行われた第4回タリン国際ピアノコンクールで3位入賞したのは日本でもニュースになったが、コンクールを終えた数日後の何気ない会話で、「コンクールを経た後の演奏会こそ本番です。お客様が自分の演奏を聴くためにチケットを買ってくださるのですから…」と単刀直入に答えたのだが、その回答には正直驚かされた。演奏者としての宿命的な本質を吐露している回答だったからである。
ゴルトベルクの演奏では、演奏者の生命の鼓動、躍動している魂の呼吸、意気込み、人生観等々が、年齢を超え、知識や経験、能力等々を超えて顕現してくるのではないか。そしてそうしたものに、わたしたち一人ひとりが共感、共振、共鳴できるのではないか。精魂を傾けたゴルドベルクの演奏は、わたしたち一人ひとりの魂を揺り動かしてくれるような気がしてならない。
瑞々しい感性をそなえた若き20代の女性ピアニスト 尾崎未空のゴルドベルク変奏曲に共感、共振、共鳴できるこの上ない奇蹟を味わうことができる貴重で稀少な場がここにある。
(渋谷美竹サロン)
プロフィール
尾崎 未空(OZAKI Misora)Piano
2016年第40回ピティナピアノコンペティション特級グランプリ、及び文部科学大臣賞受賞。2010年いしかわミュージックアカデミーIMA音楽賞。2012年第8回モスクワ・ショパン国際青少年コンクール第3位、及び最優秀小品演奏特別賞受賞。2019年第15回MozARTe international piano competition(ドイツ・アーヘン)で第1位及び聴衆賞を受賞。2021年第4回タリン国際ピアノコンクール (エストニア) で第3位、及びENSO(エストニア国立交響楽団)賞受賞。
2009年にめぐろパーシモンホールにて初リサイタルを開催して以来、国内外で数多くの演奏会に出演。これまでにリトアニア国立交響楽団、ミネソタ管弦楽団、東京交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団等と共演。2017年3月キングレコードよりデビューCD「MISORA」をリリース、5月には浜離宮朝日ホールにてリサイタルを開催し、高く評価された。昭和音楽大学卒業、2018 年秋よりミュンヘン音楽演劇大学大学院に在学。江口文子氏、アンティ・シーララ氏に師事。