モーツァルトという天才の煌めきがいまここに。
3人の名手が紡ぐ、燦然と輝くディヴェルティメントK.563
モーツァルトがディヴェルティメントK.563を作曲したのは、かの「ジュピター」他、モーツァルトの交響曲の至宝とされる最後の3つの交響曲を完成した1788年の創作意欲がピークを迎えていた時期だ。
ディヴェルティメント(嬉遊曲)」というと、軽快なリズムで親しみやすい旋律の、軽い娯楽的な曲をイメージする方も多いだろう。
しかし、このK.563は、愉しく軽快な音楽であると同時に、モーツァルト音楽の深淵を覗かせる、気高く、かつ精神性の深い作品なのだ。
モーツァルト唯一の弦楽三重奏作品だが、たった3つの弦楽器で、これほど豊穣な音楽を展開するとは、まさに天賦の奇蹟といえるのではないか!
彼の作品のなかでも最も円熟した室内楽作品といっても過言ではないだろう。
演奏時間は全6楽章で約45分と、モーツァルトのどんな交響曲よりも長い。
また、モーツァルトのディヴェルティメントで唯一の、弦楽三重奏という珍しい編成となっている。
モーツァルトの音楽は、「明るい」や「暗い」といった、単純な言葉で形容しきれるものではない。
常に、全人類を太陽のように照らしながらも、気高さや清らかさ、また崇高さともいえる“何か”が潜んでいる。
その言葉にならない魅力こそが、彼の音楽が持つ不思議な心地よさなのだろうか。
聴く者の心を癒し、心の内奥に光を差してくれる。
モーツァルトを演奏するには、洗練された音楽性や技術だけではなく、モーツァルトのそうした精神性に共感、共振できる特性が要求される。
特にこのK.563では、演奏者一人一人に、モーツァルトとの音楽的な対話も求められるといえる。
毛利文香氏率いる「毛利 文香&近衞 剛大&ミンジョン・キム」のトリオは、このようなモーツァルトの音楽に、どこまで肉迫できるのかと、満を持して編成されたものであり、私たちを極上のモーツァルトの世界に誘ってくれるのではないだろうか。
(渋谷美竹サロン)