演奏会に寄せて
今回の企画者であるヴァイオリニストの福原すみれさんは、かねてより私(サロン主宰・見澤沙弥香)の友人でした。
日本を離れ、モスクワで研鑽を積む彼女ですが、帰って来るたびにたくましくなっていく様子を感じていました。それほどまでに、過酷な環境のなか、毎日が目まぐるしく、学ぶべきものが莫大なのでしょう。
現代においていわゆる"弾ける演奏家"はたくさんいますし、"上手い演奏家"も溢れかえるほどに多くいらっしゃいます。
ですが、そういった演奏家の演奏に触れても、不思議と「なぜか感動しない」という感想を抱くことが時々あります。
完璧なはずなのに・・・なぜでしょう?
その"なぜか"のたりない部分を彼女は持っていると、個人的に感じています。
人は一人で生きているわけではありません。わたしたちももちろん、演奏家さんも同じくです。
クラシックの演奏家さんが追求する作品たちもまた、人が生み出した芸術なのですから。
"完璧さ"のみを追求していたとしたら、それはもはやロボットにお任せすれば良いことになってしまいます。
「なぜか感動しない」
その"なぜか"の正体・・・それは、少々古くさい言い方をすると "ハート"です。
"ハート"がある演奏か、"ハート"がなく表面的に上手いだけの演奏か、聴衆は正直です。
「人間性が良くないと良い音楽は奏でられない」という言葉を、とあるピアニストの方がおっしゃっていましたが、その言葉にも共感します。
表面的な音に現れる音楽は単なる"器"であり、大事なのはその"中身"ではないでしょうか。
その中身こそ、その人自身の本質的なものであったり、曲の中に込められた作曲家の本音というか、魂というか・・・言葉では単純に表現できないものですが…。
今回、そんな彼女の人望の厚さによって素晴らしいメンバーが集結しました!
メンバーのご紹介を含め、彼女からメッセージをいただいております。
ロシアのモスクワ音楽院に留学して早くも2年が過ぎようとしています。
日本に住んでいた頃から、外国で出会った演奏家と一緒に日本で演奏することはひとつの夢でした。
この2年間で、数々の経験や素敵な出会いがあり、2年目の夏にしてようやく、素敵な演奏家を日本に招待することができます。
日本で協力してくださった方々、何より一緒に演奏してくださる方々に感謝の気持ちでいっぱいです。
今回来日するのは、ヨーロッパを中心にめざましく活躍するチェリスト、グレッブ・ステパーノフ。
幼少期よりロシアの英才教育課程で学び、数々の国際コンクールで入賞、優勝、という華やかな経歴を持ち、
モスクワ音楽院の教授陣をはじめとした、名だたる演奏家より共演パートナーとして慕われている、現在、ロシアでもっとも注目すべきチェリストのひとりです。
驚くべき集中力を持って音色と響きにこだわり、音楽の解釈に真摯に取り組む姿に並ではない才能を感じ、鳥肌を立たせながらいつも見ていました。
同じく世界で活躍し、尊敬するピアニストの浜野与志男さんも、モスクワ留学で出会った素晴らしい出会いのひとつです。
彼らと共に同じステージに立てることは、とても幸運で貴重な機会だと思っています。
私たち三人による室内楽の「ロシアとの対話」をぜひ味わっていただけたら光栄です。
(福原すみれ)
プロフィール
グレッブ・ステパーノフ(Cello)
レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれ、モスクワ国立中央音楽学校を経てモスクワ国立チャイコフスキー記念音楽院に進学し伝説的な音楽家と広く称されるナタリア・グートマン女史に師事。国際スラヴ音楽祭コンクール、ウラジオストク国際音楽コンクール、ヴィンチェンツォ・ヴィッティ国際コンクール(イタリア)、そして若手の登竜門であるFLAME国際コンクール(パリ)など多くのコンクールにてその実力を認められた。
FLAME国際コンクールの優勝を皮切りに演奏活動を国際的に展開し、モスクワ音楽院大ホールや救世主大聖堂をはじめモスクワ、サンクトペテルブルグから極東ハバロフスク、ウラジオストクまで国内各地をくまなく演奏旅行で訪れるほか、ヨーロッパ諸国、米国、アジアへも招かれている。
イリーナ・ボチコーヴァやミハイル・ヴォスクレセンスキー、マリア・ガンバリャンなど名だたる演奏家より共演パートナーとして慕われ、今後ますます活躍が嘱望されている。
浜野与志男(Piano)
2011年日本音楽コンクール第1位、マルメ北欧ピアノコンクール第1位、アルマトィ国際ピアノコンクール第2位、野島稔・よこすかピアノコンクール最高位など多くの賞歴をもつ。日本フィル・サントリーホール定期やロイヤル・フェスティバル・ホール、パーセル・ルーム(ロンドン)、モスクワ音楽院ラフマニノフホール、浜離宮朝日ホールでのリサイタルをはじめ国内外にてソリストとして積極的に演奏活動を展開し、自主企画にも注力している。東京藝術大学音楽学部を経て英国王立音楽大学大学院にて修士号ならびにアーティストディプロマを取得、モスクワ音楽院およびドイツ・ライプツィヒにて研鑽を積む。これまで岡田敦子、エリソ ヴィルサラーゼ、故・エレーナ アシュケナージ、御木本澄子、ヴァディム サハロフ、ニキータ フィテンコ、ドミトリー アレクセーエフ、ゲラルド ファウトの各氏に師事。本年4月より東京音楽大学および東京藝術大学音楽学部にて後進の指導にあたる。
福原すみれ(Violin)
第55回東京国際芸術協会新人演奏会オーディションに合格。副賞でソロリサイタルを行う。
2014年夏に、バイエルン州立青少年オーケストラ研修に大学代表として参加。その他、BS-TBS「日本名曲アルバム」や、複数のWEBサイトのイメージソングのソロ演奏収録。
東京音楽大学を卒業した後、モスクワ音楽院にて研鑽を積む。学内では派閥選抜コンサートや室内楽選抜コンサート、学外では国際音楽祭や美術館といった数々のコンサートに出演し、多方面で活躍している。また、自主企画にも注力している。
現在、ステパン・ヤコビチ氏に師事。