バッハ演奏の愉しみ、舞曲── リズムの愉悦への招待
久方ぶりの「バッハを辿る」です。今回から、しばらく舞曲の世界へアクセスしましょう。
バッハの舞曲、それは、器楽曲のほぼ全てを網羅していて、どんな楽器の人でも演奏することのできる世界といえます。舞曲は、フーガや対位法といった専門的知識を必要とする音楽ではありません。
舞曲の魅力は、なんといってもそのリズムでしょう。ゆっくりのものから、急速なものまで、多彩な踊りの種類がありますが、リズムはそのどれにも息づいています。リズムのない舞曲なんてありません。というより、リズムのない音楽がないのでしょうが、舞曲ではより生き生きと迫ってくるのです。
良いリズムのあること、それが、音楽にとって最も必要なことなのではないか、最近私はますますこの念を強めています。リズムとは、人間の中で例えれば、心臓の鼓動、呼吸なのであって、まさに根源的なものであり、これなしには、人間の歌うこと(メロディー)も生まれないのです。また、ソルフェージュ課題の複雑なリズムをこなせても、それが良いリズムに直結するとはいえません。自分に確固としたリズムを持ちながら、様々な音楽へ対応していくことのできる人が、素晴らしい演奏家なのだと思います。
さて、バッハ先生のリズムに関する教本、鍵盤楽器の内では代表的なものは3つあります。
「フランス組曲」全6曲、「イギリス組曲」全6曲、「パルティータ」全6曲。
「組曲」とは、様々な舞曲をひとつにまとめたもので、大抵、5〜7曲くらいの舞曲を1セットとして成立しています。
賞味、フランス組曲全部で1時間40分、イギリス組曲2時間、パルティータ2時間半・・・。これだけ取り組めば、舞曲の何たるかがわかるであろう分量ですね。しかし、1回の演奏会でパルティータ全曲に挑戦するのは、かなりの覚悟のいることです。10年後くらいには、全曲への展望も見据えつつ、今回は、それぞれの組曲から一つづつを選んでプログラムを作りました。
フランス組曲、イギリス組曲、パルティータ、どれも違ったテイストを持っていますが、バッハがこれらの中に表現し尽くしたリズムの多彩さ、楽しさを感じていただけるような一夜にしたいと思います。
(入川 舜)
プロフィール
入川 舜(IRIKAWA Shun)Piano
静岡市出身。東京芸術大学音楽学部ピアノ科卒業、同大学院研究科修了。文化庁海外派遣研修員として、パリ市立地方音楽院とパリ国立高等音楽院修士課程でピアノ伴奏を学ぶ。
高瀬健一郎、寺嶋陸也、辛島輝治、迫昭嘉、A・ジャコブ、J−F・ヌーブルジェの各氏に師事。また、L・アンスネスやM・ベロフら世界的ピアニストの薫陶を受ける。パリ・シャトレ座やフィルハーモニーはじめ、フランス各地やスイスで演奏するほか、オーケストラとの共演、室内楽、コンクールや講習会での演奏、録音など、活発な活動を行っている。
「静岡の名手たち」オーディションに合格。神戸新聞松方ホール音楽賞、青山バロックザール賞を受賞。
日本人作曲家の作品を蘇らせたCD「日本のピアノ・ソナタ選」をミッテンヴァルト社より発売、文化庁芸術祭参加作品となる。
2011年デビューリサイタルを開催。以後も、ドビュッシーのエチュード全曲、バッハのゴルトベルク変奏曲など、意欲的なプログラムでリサイタルを行う。
2021年には東京文化会館にてジェフスキの「不屈の民変奏曲」他によるリサイタル(主催:日本演奏連盟)が予定されている。
ラヴェルアカデミー(フランス)にて歌曲クラスの伴奏助手。2016年から2017年までパリ市立地方音楽院でピアノ講師と伴奏ピアニストを務めた。
現在、 独奏から劇伴まで、幅広いジャンルで活動中。オペラシアターこんにゃく座のピアニストを2018年より務める。東京、渋谷の美竹清花さろんにて、「バッハを辿る」コンサートシリーズを進行中。横浜・馬車道ピアノサロンでもコンサートシリーズを継続している。また、東京混声合唱団や、安達真理(ヴィオラ)、井上ハルカ(サクソフォン)、加藤文枝(チェロ)らの伴奏も務めている。
東京藝術大学非常勤講師。
公式ホームページ:
https://shunirikawa.work/