葵トリオのニュー・アルバムはチェコの重要な作曲家
ドヴォルザークとマルティヌー
美竹サロンにお運びいただく皆様は、室内楽にも精通している方も多い。本物志向の聴き手の方が多いからではないだろうか。
ソリストに注目が集まりやすいクラシック音楽の業界だが、歴史を紐解くと、ベートーヴェンやブラームス、この新しいCDに収録されているドヴォルザークやマルティヌーなど、偉大な作曲家たちは室内楽をとても重要視していたことがわかる。たとえば、ドヴォルザークの作品の4分の1は室内楽曲だそうである。
しかしながら昨今の日本では、葵トリオの活躍を目にするまでは、ピアノ三重奏団は決して活発ではなかった。葵トリオによって、その名が示すように、大きな"実り"がもたらされているといえる。ARDミュンヘン国際音楽コンクール第1回(1952年)が開催されて以来、ピアノトリオに1位を与えられたのは、わずか5回しかない。葵トリオは2018年にこの栄誉ある賞を受賞し、国際的に活躍するスタートを切っている。
聴くたびに進化を続ける彼らの独自のサウンドと思慮深いレパートリーには注目が集まり続け、今回は早くも3枚目のアルバムとなっている。毎回、妥協のない“渾身の出来映え”となっているので、今回発表されるアルバム(2022年11月15日 発売)にも大きな注目が集まっている。
マルティヌーは1年ほど前から彼らのレパートリーであったと記憶しているが、ここにきてドヴォルザークと組み合わせて録音作品として残すとは、さすがだ。
サロンでも葵トリオのマルティヌーを体験したことがあるが、情熱と迫力に満ちた斬新な響きに驚いた。いわゆる、よく耳にするような有名な作曲家とは言えないだろうが、聴き手を熱狂させる要素が詰まった魅力的な音楽であった。
本公演ではマルティヌー(1890-1959)のピアノ三重奏曲 第1番 H.193 「5つの小品」を取り上げる予定だが、彼はドヴォルザーク(1841-1904)よりも、50年ほど後に生まれていて、二人ともボヘミア出身であり、チェコ音楽の新たな魅力を世に知らしめた重要な作曲家と言えるだろう。
本CDのライナーノーツに今回のマルティヌーについての以下のような記述があったので紹介したい。
室内楽の分野では、マルティヌーは 「純粋な室内楽では、私はいつもより自分らしくある」と書いている。1930年、わずか10日間で5楽章からなるピアノ三重奏曲第1番を作曲した。前述したように、1930年代の新古典主義への転向を象徴する作品である。
この曲は、特にピアノのための“火のような作品”である。前方に押し出し、激しいパッセージを持ち、シンコペーションによって強いリズムを志向している。その他、いくつかのコード・フォーメーションやメロディーの転回など、マルティヌーのジャズへの傾倒を示すものは多い。(和訳)
このテキストから様々な音を想像することだろうが、なんといっても生で聴くマルティヌーは凄い!
生演奏ならではの音響と迫力、録音に映し出される完成された美しい音像――どちらも愉しめるこの貴重な機会を本格的に味わっていただきたい。
(渋谷美竹サロン)
プロフィール
葵トリオ(Aoi Trio)Piano trio
ピアノ:秋元 孝介(AKIMOTO Kosuke)Piano
ヴァイオリン:小川 響子(OGAWA Kyoko)Violin
チェロ:伊東 裕(ITO Yu)Cello
「『とても高い個々の技術を備えた3人の素晴らしい奏者』、そして『ピアノ三重奏としてのサウンドと精神』。優れたピアノ三重奏を形成するこの2つの要素が、完璧なバランスでした。」
-ヴァンサン・コック(トリオ・ヴァンダラー, ピアニスト)<音楽の友>-
「幅広いレパートリーで、類まれなほど多才であり、優れた洞察力を伴った演奏を披露。」
-<The Strad>-
「若く秀逸な葵トリオが幅広い音楽を披露。エネルギーに満ちた技巧的な演奏で、ヨーロッパからアジアにわたる、古典から現代作品までを展開。」
-<Deutschlandfunk>-
第67回ミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ三重奏部門で、日本人団体として初の優勝を受賞した、現在最も注目を集めるピアノ三重奏団。
東京藝術大学、サントリーホール室内楽アカデミーで出会い、2016年に結成。「葵/AOI」は、3人の名字の頭文字をとり、花言葉の「大望、豊かな実り」に共感して名付けた。
好評を博したサントリーホールでのコンクール優勝記念公演に続き、これまでにトッパンホール、紀尾井ホール、フィリアホール、びわ湖ホール、宗次ホール、ふきのとうホール、ザ・フェニックスホール、兵庫県立芸術文化センター、アトリオン秋田、アクトシティ浜松、ミュンヘン、バイロイト、バーデン=バーデン、ケルン、ハンブルク、ヒッツァッカーフェスティバルなどに出演。
2021年度はサントリーホール、静岡音楽館AOI、住友生命いずみホール、さいたま芸術劇場、かつしかシンフォニーヒルズ、レーゲンスブルク、ハンブルク、その他イタリア、フランス、チェコなどヨーロッパ各地で出演。2021年1月に札幌交響楽団とベートーヴェンの三重協奏曲を、12月には名古屋フィルハーモニーとカゼッラの三重協奏曲を協演して好評を博す。紀尾井ホールでは2021~2023年度のレジデント・シリーズを務め、サントリーホールとは2021年から7年間のプロジェクトが進行している。
マイスター・ミュージックから「ハイドン27番&シューベルト2番」と「ベートーヴェン1番&メンデルスゾーン2番」の2枚のCDをリリースしており、両ディスクともレコード芸術誌で特選盤に選ばれて好評を得ている。
第28回青山音楽賞バロックザール賞、第29回新日鉄住金音楽賞フレッシュアーティスト賞(新日鉄住金音楽賞は2019年4月より日本製鉄音楽賞に改称)、第22回ホテルオークラ音楽賞を受賞、第34回ミュージック・ペンクラブ音楽賞を受賞。
これまでに日本で伊藤恵、中木健二、花田和加子、原田幸一郎、堀正文、松原勝也、山崎伸子に学び、ミュンヘンでフォーレ四重奏団のD. モメルツに師事。ヨーロッパと日本で公演活動を続けている。
公式ホームページ:
http://aoitrio.com/
秋元 孝介(AKIMOTO Kosuke)Piano
東京藝術大学を経て、同大学院音楽研究科修士課程修了。第2回ロザリオ・マルシアーノ国際ピアノコンクール第2位、第10回パデレフスキ国際ピアノコンクール特別賞などを受賞。サントリーホール室内楽アカデミー第3期フェロー。現在は東京藝術大学大学院博士課程に在籍しながら日本とドイツで演奏活動を行っている。
小川 響子(OGAWA Kyoko)Violin
東京藝術大学、同大学院修士課程修了。第10回東京音楽コンクール第1位、聴衆賞受賞。小澤征爾、アンネ=ゾフィ・ムター、原田幸一郎、磯村和英、池田菊衛、小山実稚恵、山崎伸子、川本嘉子と共演。サントリーホール室内楽アカデミー第3、4期フェロー。2021年4月までベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミーに在籍。
伊東 裕(ITO Yu)Cello
東京藝術大学を経て、同大学院修士課程修了。第77回日本音楽コンクール第1位、徳永賞受賞。関西フィル、日本センチュリーと協演。小澤征爾音楽塾オーケストラ、武生国際音楽祭、東京・春・音楽祭などに参加。サントリーホール室内楽アカデミー第3期フェロー。紀尾井ホール室内管弦楽団メンバー。