鬼才、吉田友昭
ショパンの精神に迫る1番、2番、3番の作品をセレクト
吉田友昭の演奏の衝撃は、吉田友昭の演奏によって癒される以外にない
前回のベートーヴェン3大ソナタ以来、何度となくこうした声を伺ってきた。吉田友昭は東京音楽大学でピアノを教えている“先生”と呼ばれる存在である。しかし、極めて稀で貴重な機会でしかないのだが、ステージの上ではピアノの教師ではない、ピアニストですらない、いったいどのような存在なのか!・・・とにかく強烈な魅力を放つ“アーティスト”であることだけは確かだ。彼の演奏に一度でも触れると、どこでも聴いたことのないような演奏に耳目が開かれ、衝撃にうちのめされてしまうのだ・・・今時こんな演奏があったのだ、いったいこれは何なんだ!霊感に導かれ、紐解かれている情熱、立体的というよりも次元の異なった宇宙に響いているかのような聴いたことのない創造的な音、小さなピアノという楽器から発せられる“巨大な音”(決して音量ではない)、こうした創造を成しうるのはどんな技なのだろう…。鋭い知性によるコントロール、瞑想的で風格あふれる詩情・・・。こうしたすべての要素が演奏されている作品に“生命”を与え、聴く者を魅了する。…己の魂、その感性のすべてを出し切って演奏しているようにも感じられる。聞くところによると、演奏会がある2週間前には“教師”としての仕事を一切入れずに“アーティストモード全開”自己を誘導するらしい。これには驚いたが、彼の特筆に値する演奏の秘密はその辺にあるのだろうと得心するものがあった。
彼の音楽キャリアは第79回日本音楽コンクール第1位、マリア・カラス、ホセ・イトゥルビ、マリア・カナルス、ハエン、シドニー他の国際コンクールで優勝・入賞。ヨーロッパに12年間居住して帰国という欧州の経験が長い。そんな中でも、海外から応募した第79回日本音楽コンクールでは、インタヴューで「死ぬ覚悟で挑んでいる」という気概を表明し、その言葉どおりの演奏によって聴衆に強いインパクトを残し、今だに伝説として語られることがある。現代では珍しい大和魂、日本的な美を備えつつ、それに留まらないスケール・・・吉田友昭とはなんとも不思議な魅力を纏ったアーティストだ。
今回の吉田友昭はショパンを取り上げている。しかも、数あるショパン作品の中でも特に外せない3曲を「“いまここ” からすべてが始まる」という過去の生、今の生、将来の生を象徴する「123シリーズ」(ワンツースリー・シリーズ)という名称の本定期公演に絡め、バラード第1番、スケルツォ第2番、ピアノソナタ第3番というプログラムとなった。まさにショパンの123(ワンツースリー)である。もうこれ以上の拙い説明は不要だろう。
(渋谷美竹サロン)
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プロフィール
吉田友昭(YOSHIDA Tomoaki)Piano
札幌市出身。東京芸術大学を経て20歳時にヨーロッパへ移住。パリ国立高等音楽院にてミッシェル・ベロフ、エリック・ル・サージュに師事。同音楽院を一等賞の成績で卒業後、イタリア・ローマ聖チェチーリア音楽院にてセルジオ・ペルティカローリに師事し修了。ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学ポストグラデュエート課程にてパヴェル・ギリロフに師事し修了。
第79回日本音楽コンクール第1位。マリア・カラス、ホセ・イトゥルビ、マリア・カナルス、ハエン、シドニー他の国際コンクールで優勝・入賞。スペイン、イタリア、オランダ、ドイツにて演奏ツアーを行う。バルセロナ・カタルーニャ音楽堂、アムステルダム・コンセルトヘボウ、ミュンヘン・ガスタイク文化センター、バレンシア音楽堂にて演奏。フランスに5年間、イタリアに4年間、オーストリアに3年間居住した後、2015年に日本に帰国。現在は国内にて様々な演奏・指導活動を行うと共に、東京音楽大学にて専任講師を務める。2022年は第76回全日本学生音楽コンクールの審査員を務める。趣味は歌舞伎鑑賞、サウナ、ランニング。
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