こけら落とし【第十六夜】佐藤彦大サロンコンサート(ピアノ)
12月8日は美竹清花さろんでは2度目の登場となる、佐藤彦大さんのピアノコンサートでした!
そして翌日、12月9日はなんと佐藤彦大さんの誕生日。
ということで、この日は佐藤さん“20代最後”誕生日前夜のサロンコンサートとなりました。
そんな特別な日ということもあり、「これまでの集大成となる演奏会に」と、佐藤さんの意気込みや想いも一層強いものでした。
そんな佐藤さんから演奏に寄せて、以下のようなプログラムノートをいただいきました。
多忙な佐藤さんは飛行機の機内で過去を振り返り、音楽とご自分の人生について、その想いを馳せながら文章を書かれたそうです。
====================
幼少時代、僕は野山を駆け回り、トンボや蝶を追い、山菜・きのこを採取していた。実家は盛岡市内にもかかわらず、ツキノワグマが出没するようなところで、都会の慌ただしさも無く、豊かな自然の中で暮らしていた頃が懐かしい。そのような環境の中でピアノを習っていたのだが、本日演奏されるモーツァルト、シューベルト、ラヴェル(当時は先生と連弾した)はその頃に勉強したものである。何かの折にこれらの作品を取り出し、演奏しているが、全く飽きることがない。懐古趣味なのだろうと思うが、一方で初心を思い出させてくれる重要なレパートリーでもある。これだけ書けばお分かりかと思うが、僕は故郷・盛岡が大好きだ。高校1年生時に上京、9年を東京で過ごし、ベルリン・モスクワと5年の留学を経て完全帰国、その後息つく暇の無い目まぐるしい毎日を過ごす内に、激しい郷愁に駆られていったのだろう。何と言ってもこれらの作品には当時の楽しかった思い出や、輝かしい日々が封印されているのだ!20代最後の夜、皆様には約20年物のレパートリーに、モスクワで勉強し、盛岡で初めて演奏したラフマニノフのソナタを加えたプログラムを聴いて頂く。過ぎ去った時間が戻ることはない。だからこそ、数十年後に現在の時間を思い出して「あの頃はよかった、楽しかった」と言えるように、今を精一杯過ごしたい。
……というのは、このノートを書こうとしてふと思ったことである。実はプログラムを決める際、上記のようなことは全く考えていなかった。自分の気持ちに正直に弾きたいものを選択しただけだったからこそ、いつのまにか郷愁に誘われていることに驚いた。故郷を想う気持ちはまるで晩年のラフマニノフのようであるが、結局祖国に帰ることができなかった彼とは反対に、いつでも故郷に戻ることが可能な僕はなんと幸せ者なのだろう。僕は常に時の流れに身を委ねているため、今日の演奏も今の自分に必要なものなのだと確信している。(佐藤彦大)
====================
まったく同じコンサートというものはありえません。生演奏はまさに一期一会です。
そして演奏家さんもまったく同じ演奏、まったく同じ心境、ということはありえません。
毎回プログラムノートは演奏家さんに書いていただくのですが、私たち聴衆はこのようなプログラムノートを待ち望んでいたのかもしれません。
演奏家さんがどんな想いで選んだプログラムなのか、そしてその曲たちにどんな想いをもっているのか、このことに興味関心のない聴衆はいないでしょう。
そして今回の佐藤さんのプログラムノートで印象的だったのが
故郷への想いーー。
“僕は故郷・盛岡が大好きだ”という故郷を想うたった一言のこの言葉に今回のプログラムへの意志が詰まっているように感じます。
佐藤さんが盛岡の豊かな自然の中で暮らしていた頃、本日のプログラムであるモーツァルト、シューベルト、ラヴェルは当時、勉強したものだそうで、初心を思い出させてくれる重要なレパートリーでもある、と書かれているとおり、佐藤さんは高校1年生から本格的に音楽を学ぶため上京し、その後すぐにベルリン・モスクワと5年の留学を経て完全帰国され、もっぱら現在の活動拠点は東京にされているといいます。
まさに故郷を想う気持ちを持ちながらも、常に音楽に対して純粋に、熱烈に、献身的な愛を持って生きてこられたということが伝わり、私たちの胸を熱くします。
そして今回のコンサートはそんな想いが溢れ、私たち聴衆にダイレクトにそれが伝わる、心が温まるアットーホームなコンサートとなりました。
前半のモーツァルトは、佐藤さん独自のピュアな音が上から下まで流麗に軽やかに駆け抜けます。
フレーズをふわっと歌いきってどこまでも聴いていたい感覚になりました。
シューベルトは4つの即興曲D899/op.90を全て演奏するという、ありそうでないプログラム!
結論的なことを言うならば、「佐藤彦大といえばシューベルトだ!」と確信したひとときでした。
間違いなく、自己の内奥から導かれたすばらしい音楽性に溢れたシューベルトであった、と。
そしてそれを裏付けるように、打ち上げの際、「
思い入れもひとしおなのでしょう。佐藤さんの繊細なタッチで紡がれるシューベルトはやはり素晴らしく、ボリュームたっぷり!!
特に第3曲、第4曲は聴きごたえ抜群で、立て続けに聴いてしまうのがもったいないくらいの非常に贅沢な演奏でした。
例えて言えば、美しいダイヤモンドだけではなく、ルビー、サファイア、エメラルドのすべてを披露されてしまい、その全部に魅せられてしまったと言えましょうか…。
ですので、変な話、素晴らし過ぎて“もったいない!”という思いにもなってしまいました。このような気分になるコンサートも珍しいですが。(笑)
続いてのラヴェル=シャルロのマ・メール・ロワ。
佐藤さんのラヴェルは絶品!ただこの一言に尽きました!
前回のコンサート時にも感じたことなのですが、彼の音楽はまるで元からそこにあったものが、彼の存在によって自然の調和の中で音楽として紡ぎ出されてくる…そんな感覚におちいらされるのです。
そんな風に生まれる彼の演奏とラヴェルは非常に相性が良く、その繊細な曲の魅力が極限まで引き出される…そんな風に感じられました。
打ち上げ時には、なんと今回のマ・メール・ロワは今までで一番良い演奏ができたのではないか…とお話しされていました♪
最後は大曲、ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番変ロ短調op.36(1931年版)。
ラヴェルから一転、情熱的でドラマティックなラフマニノフ。
ダイナミックながら耳に心地良く響き、その曲の魅力が遺憾無く発揮される演奏でした!
ここまでの大曲を終えたのち、止まぬ拍手に応じるようにアンコールをなんと4曲も披露してくださいました!!
シューベルト:楽興の時 第3番、ラフマニノフ:前奏曲 嬰ハ短調「鐘」、ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ、モーツァルト:トルコ行進曲。
佐藤さんのサービス精神に脱帽です!!(
また、この日は誕生日前夜ということで、サプライズでケーキとお花のプレゼントも!
ケーキを片手に嬉しそうです♪
30歳となられた佐藤さん。今後の彼の演奏が更にどのように磨かれてゆくのか……
今後もますます目が離せないピアニストです。
「”綺麗な音”を出す演奏家は増えたといわれますが、”美しい音楽”」を奏でる演奏家は減少した」と良く耳にします。佐藤さんは”美しい音楽”を奏でる演奏家の希少な一人です。
今後のますます円熟した演奏に期待したいと思います。
さて、今回ご自身の集大成である非常に思い入れの深い舞台を、美竹清花さろんとしてお手伝いができたことを大変嬉しく思っております。
演奏家の皆様の心に常に寄り添い、かけがえのない場所として思い出の中に一生輝き続ける、そんなサロンにしていきたい…
そんな想いを再確認することのできた、心温まるコンサートでした♪