3月28日(水)こけら落とし【第二十二夜】渡邊智道ピアノコンサート
“こけら落としシリーズ”総括となる最後の公演となりました。
お陰様で、満員御礼・締め切り、2名様のキャンセルも即、埋まってしまいました!
(本当に、ありがとうございます。)
お客様は音楽関係者、それもプロの方が多くお出でくださいました。
それだけ、渡邊智道さんのファンの方の層の厚さを感じます。
<プログラム>
ショパン:夜想曲 遺作
ショパン:夜想曲 第17番
ショパン:夜想曲 第18番
ドビュッシー:前奏曲集第2巻より’ヒースの茂る荒地’
ドビュッシー:前奏曲集第2巻より’花火’
ラヴェル:亡き王女の為のパヴァーヌ
プーランク:メランコリー
スクリャービン:前奏曲集 作品16
スクリャービン:詩曲 作品32-1
ショパン:前奏曲 作品28より 雨だれ
ショパン:バラード第4番
演奏会の進行はいっさいの挨拶も何もなく、
暗闇のなかに輝く月明かりのような照明に照らされながら、集中して演奏が始まりました。
ショパンの夜想曲(遺作)からです。
なんと、今まで耳にしたことのないショパンです──
しかし、もしかしたら、これが本物のショパンかもしれないと思わせるような演奏です。
例のごとく、やさしく、温かく、しかし、これ以上はないくらいの細やかさと慈しみ深さ、
わずかでもバランスを崩したら壊れてしまうのでは・・・・と思わせるほどのショパンです。
ですが、ショパンには本来このデリケートな感性と響きが欠かせない要素だと、再確認してしまいました。
世間の巷で演奏されているショパンの、なんと力強く、なんと健全なことか(笑)と思わせるような、
誤解をあえて避けないならば、ショパンらしいショパンかと思わせる演奏でした。
続いて夜想曲17番、18番、これも基本的には同じアプローチで繊細に心地良く響き渡りました。
そして、ドビュッシー前奏曲2曲(ヒースの茂る荒地、花火)、これがまた絶品!
感覚を研ぎ澄まし、音が空間を飛び交うように色彩豊かに描かれます。
難曲”花火”も軽やかに舞っていました。
そしてラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌ。
実に渡邊さんらしい演奏!
透き通るような音の響きがどこまでも響き渡り、静かな波紋を生み出します。
渡邊さんは、誰が何と言おうと、自分の好みの曲を、自分の演奏したいように演奏する、
これを貫いていることをまざまざと示すような音楽を慈しむ、音楽から一歩も踏み外さない演奏です。
そして、このスタイルは美竹清花さろんとして演奏家さんにもっとも望む姿勢でもあるのです。
演奏家さんが本当にやりたいことを、思いっきりやりたいようにやる。
信じるもの、目指す音を、奏でて欲しい ──
常に、そう願っています。
彼の演奏では、音符のすべてが、隣同志の音符としっかりと手をつないでいます。
単体の音符を叫ばせるような演奏は決してしません。迷える子羊のような音符がありません。
そうした彼の演奏を聴き、見ていて気づいたことがあります。
彼はリサイタルでもほとんど楽譜を目にしながら演奏します。
最初は気になっていました。
しかし、マーラー、またチェリビダッケが言っているように、
楽譜には音楽は何も入っていません。それは空っぽの器でしかありません。
渡邊智道さんの演奏では、彼はそうした器の一つひとつと対話しながら、そこに入っている音楽とはこんなものではないの、
これとは違うかな…と、やさしく対話しながら弾いているように見えました。
クレンペラーという指揮者は、楽譜に印刷されているものしか見えない指揮者ならば暗譜で指揮すればいい、というようなことを言っていたといいます。
この言葉の意味を私たち聴衆が100%理解することができません。
しかし、渡邊智道さんの演奏スタイルには、何か妙に納得するものを感じてしまいます。
とにもかくにも、演奏自体がすばらしいの一言なのです。
休憩をはさんで、プーランクのメランコリー、スクリャービン2曲、ショパン2曲
アンコールはバッハのイギリス組曲(第2番ブーレ)でした。
彼の演奏でまず最初に虜になったのは、このイギリス組曲でした。
バッハの幾何学的な音の世界には、超越的な美しさだけでなく、倫理的な気高さ、揺るぎなく温かな情感、慈しみ深さまでもが感じられます。
しかし、渡邊智道さんのバッハには、さらにたまらないチャーミングさを感じ、とても驚いてしまったことがあります。
今日の演奏で、もしかしたらもっとも感心したのは、スクリャービンの絶品なことかもしれません。
叙情的な美しさの原点は何だろう…思わず探してしまいました。
静けさのなかに漂う音の響きが答えでした。スクリャービンの幻影を見るようです。
しかし、しかし、なんとこの後のショパン2曲の絶品、べっぴんさんだったこと(笑)
これぞ特筆に値すべき渡邊智道ワールドのショパン!
こんなショパン聴いたことがありませんが、これこそ本物のショパンなのかも! と、唸ってしまうほどのショパンでした。
会場で共に聴くことができた方々の心の奥深くに残る宝物になったのではないでしょうか。
個人的には、ショパンのバラード4番は今ひとつ共感できない曲でした。
好みの演奏に接していないということだったのかも知れません。
しかし、そうした先入観を見事に壊してくれたすばらしい演奏でした。
こけら落としの総括にふさわしいすばらしい渡邊智道さんの演奏に感謝です。
まさに、音の余韻に浸る夜となりました。
渡邊智道さんの文筆の内容にも、毎回、新鮮な驚きを感じます。
彼の文章はたんなる音楽学的な要素だけでなく、自分の”心”と向き合っているからこそ書ける、彼独自の文章です。
それを読むたびに、音楽の本質とはこの書かれていることのなかに隠されているような気がしてなりません。
音楽は演奏できる人だけのものでも、聴く人のためだけのものでもなく、わかる人だけのものでもありません。
音楽の何が素晴らしいのか──
なぜ人は感動するのか──
人が創り上げて来た芸術であり、人が奏でる芸術だからこそ、感動が生まれるのではないでしょうか。
音楽がわからないという人がいたとしても、知らないものだからこそ、知りたくなるのではないでしょうか。
こけら落としシリーズを終えて、そんなことを改めて感じることができました。
4月からは美竹清花さろん主催公演として“123シリーズ”がいよいよ開幕です!
サロンコンサートならでは臨場感あふれる音楽の魅力が感じられる場所として、
クラシック音楽を心から愛する音楽家による”本物”の音楽が生まれる場所として、
そこから生まれる”感動の持つ力”の可能性を伝えられる場所として、
美竹清花さろんは、さらなる飛躍を目指します!
今年度も何卒、よろしくお願いいたします♪
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