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東京芸大を経て、ローザンヌとザルツブルグ、ミュンヘンで研鑽を積み、国内外でソロのみならず室内楽のキャリアを持つ鈴木舞さん。(以下敬称略)
1683年製ニコロ・アマティを使用する彼女のヴァイオリンの表現力の幅広さに、毎回新鮮な感動を得られるから不思議です。
そんな彼女が、今回共演者として白羽の矢を立てたのが、なんと弱冠16歳の森本隼太さん。
意外すぎる16歳の少年ですが、この二人には年齢を超越した芸術家としての感性が引き合っているのでしょう。
森本隼太さん(以下敬称略)は、太陽のように明るく、チャレンジ精神の溢れる溌剌とした少年というのが第一印象ですが、ひとたびピアノの前に座れば、すでに巨匠クラスの音楽性と効果的な音響の扱いに、また、内に秘める底知れない表現力に驚きを隠せません。
今回は、お二人の共演のきっかけや、今回の聴きどころなど、
さらに、意外な一面や、留学経験でのカルチャーショックに至るまで…幅広くお伺いしてみました。
偶然の引き合わせによって共演が実現──
スタッフぜお二人で共演してみようと思われたのですか?
鈴木森本さんの演奏を初めて聴いたときに、ただならぬものを持っているなと感じました。
日本人は、どうしても縦を意識した演奏になってしまう傾向があるのですが、彼の場合、とても横の流れを意識されるピアニストだったのが印象的で、アンサンブルが楽しかったのをよく覚えています。なので、一緒にやろう!って・・・(笑)
スタッフ森本さんは?
森本僕にとっては舞さんのような、すっごくレベルの高いヴァイオリニストと共演したことがなく初めてだったので、毎回こんなふうに弾くんだぁーと驚きの連続でした!
それから、本番になると音楽が変わるので、最初はそれにもとても感動しました。
前回のカルテットでも、舞さんが引っ張っていくエネルギーを心地よく感じながら演奏することができました。
スタッフあぁ、それが舞さんの“舞さんマジック”なんですよ!舞さんと共演した演奏家さんが皆さん、口を揃えて同じようなことを言われます。
森本え?!なんですかそれ!
スタッフ舞さん、実は“魔法使い”なんです(笑)
…どういうことかというと、舞さんご自身が幼い頃、音楽を聴いて深く感動したときに、「自分もこんなふうに音楽の魔法を使えるようになりたい」と思ったのがきっかけで音楽家を志したこともあり、彼女の演奏もなんというか、すごい魔力のようなものがあるのです。
ですので、何度も聴いているはずなのに、毎回、“舞さんマジック”にかかってしまい、なにかこう魔法にかかったように感動の内に引き込まれて行くのですよ。
鈴木いやいや…それはなんというか、毎回お客様からエネルギーをいただいていますね!
コロナでコンサートができなかった時期に、無観客での配信にも挑戦したのですが、お客様がいないとどうもスイッチが入りません。
リハーサルのような感じになってしまうというか、インスピレーションが降ってくるような感覚にはなりにくかったですね。
スタッフるほどですね。森本さんも舞さんと同じように、本番で化けるタイプに感じられますが・・・?
森本あぁ、どちらかといえばそうかもしれませんね。音楽作りとしては、結構似ているかもしれません。
ただ、本番で型を崩すとしても、基本がちゃんとできていなければならないと思います。まずは楽譜を理解するというところから始め、自分の中にきちっと落とし込んでから本番で自由に扱うという手順を踏まないとうまくいかないですね・・・その手順は大切にしています。
スタッフ舞さんは基本という面では、早い段階で網羅されているイメージですが?
鈴木技術的な面では確かに…中学生の頃にほとんど学び終えていたように思います。
ただ、スイスやオーストリアで学んでいた頃はコンクールメインで1年のスケジュールが密に組まれていて、“作品”としてではなく、”課題曲”として取り組んでいたような面があるので、室内楽作品をアンサンブルとして深く取り組み始めたのは、コンクールではなく演奏活動が中心となった、ここ数年かもしれないですね。
スタッフコンクール中心にスケジュールが組まれていたのですか!それは精神的な負担が、かなりありそうですね。
森本うわぁ、ヤバッ!それは僕だったらもたないなぁ〜(笑)
鈴木はい、寿命が縮んだと思います(笑)。
ですが、ミュンヘンに住み始めてからはコンクール中心の生活はやめました。
ミュンヘンではドイツにゆかりのある作曲家のソナタをじっくりと勉強し始めて、コンクールに出場するための勉強ではなく、初めてブラームスやシュトラウスなどの作品と本当の意味で向き合うことができたと思います。
スタッフやはりそのスタイルの方が、作品の本質と向かい合うことができましたか?
鈴木そうですね。
コンクールを受けるのをやめてしばらくして、当時在籍していたミュンヘン音大のマスタークラスで、かつての師であるピエール・アモイヤル先生の枠が一枠あり、たまたま受けることができました。その時に、自由に、伸び伸びと自分の演奏ができたのです。
するとあの厳しいアモイヤル先生に「君、なんで僕が指導しているとき(コンクールを受けている時代)に、こういう演奏ができなかったの?またコンクールに応募すべきだよ!」って言われました。(笑)
それくらい、”競争”から離れて音楽をすることで、自分の演奏は大きく変わったと思います。
心の底から音楽をする事は、アモイヤル先生と学んでいた時から度々指摘されていたので、先生が褒めてくださった事で、自分の演奏の方向性が間違っていなかったのかと嬉しかったですね。
スタッフなるほどですね。それくらいコンクールでの演奏と、そのプレッシャーから解き放たれたときの演奏とは大きな違いがあるのですね。森本さんはコンクールについてはどのように考えられていますか?
音楽に対してストイック!だけど、意外な一面も?
スタッフお互いに対する印象などで、意外だったことなどがありましたら教えていただけますか?
森本外というか、舞さんは音楽でこう表現したいというのがある方ですから、室内楽の時もリードしてくださるし、自分も音楽でそれに応えるようにして音楽作りをしていきたいという思いが強いですね。
スタッフおぉ、さすが。真面目な回答ですね(笑)。
ではでは、個人的に舞さんの意外な一面、言ってもいいですか?
舞さんってとてもオーラのある方なので、話す時それこそ少し緊張してしまうくらいなのですが・・・意外と食いしん坊ですよね?!
あとは、本番前にパタンと寝ちゃうのが個人的に意外な一面というか、面白かったです(笑)。きっと一種のマインドフルネスというか、本番に向けてエネルギーを集中していくプロセスだと思うのですが。
鈴木(笑)・・・・
森本あ、質問しても良いですか!舞さんって、夜、何時頃まで練習しているんですか?
スタッフあ、それは聞きたいですね。遅くまで練習しているイメージなので。
鈴木いや〜それは日によってかなぁ。
それこそ日中って、リハーサルや打ち合わせ、レッスンをしたり、家事をしたりと…なんだかんだ忙しいことが多いので、そうすると夜中に練習することが多くなっちゃうんですよね。うーん、時間の使い方が下手なのかなぁ(笑)。
ですが、演奏会のスケジュールが忙しければ忙しいほど日中にはリハーサルが入るので、リハーサルから帰って、夕飯を食べながら録音を聴いて いろいろと考え、それから練習に入るとどうしても夜遅くなってしまいますね〜。
森本ストイックですね!(笑)
スタッフそういう、森本さんも留学先では朝早くて夜遅いそうですが?
森本あ〜そうですね。僕も毎日帰ってくる時間は遅いんですよね…(笑)けど楽しいというか。毎日めっちゃ学んで、めっちゃ勉強するから…。
今、頑張らないと、と思いますね!
スタッフそれをストレスに感じることはないのでしょうか?
森本ん〜、無い!!(笑)。
僕は忙しい方が気楽なんですよね。というか、忙しい方がパワー出るというか。
去年それこそコロナで留学が延期してしまったり、とても孤独な日々を過ごしていたので・・・何もできないほうがストレスですね。
スタッフなるほど、森本さんらしいですね!
森本まぁ僕は誰かにやれと言われてやっているわけでは無いので、自分でやりたいからやっているだけなのでね。
スタッフ舞さんは森本さんに対して、なにか意外に感じるとか、ありましたか?
鈴木初めて森本さんにお会いしたのがピティナの入賞者ガラコンサートのフランクのクインテットの合わせで、美竹サロンさんでリハーサルをさせていただいた時だったのですが、私を含め弦楽器のベテランのメンバーのなかにフレッシュな森本さんが現れて、初めましてという時に、すっごく緊張しているのが伝わってきました。
初々しい様子だったのに、それでいてピアノに向かったら堂々たる演奏だったのには、驚きましたね(笑)
スタッフへ〜ぇ!森本さんでも緊張することがあるのですか?!
鋼(はがね)の心臓の持ち主だと思っていました(笑)。
森本〜、そりゃ〜緊張しますよ!(笑)。
錚々たるメンバーでしたし・・・(汗)
鈴木すごいガチガチでしたよね!私たち弦楽器のメンバーも顔を見合わせて、どうしよう?となってしまって(笑)。
ですが、演奏が始まると水を得た魚のように瑞々しく演奏されていたのが印象的で、それが一番のギャップでした。
森本あの本番自体が、一週間前に決まったんですよ。それで緊張していたというのもあったかもしれません。
鈴木私も急なご依頼だったので迷ってしまいましたが、フランクのクインテットでなければ、お引き受けしていなかったと思います。
以前、セカンドヴァイオリンを弾いた時にこの曲の魅力の虜になり、いつかファーストも弾きたいと思っていたので、私にとっても嬉しいものでした。
森本いや〜それは…僕は本当に幸運でしたね。
スタッフその偶然の引き合わせで、今こうやって共演されることになったのですから、ご縁とは不思議なものですね!
ちなみに、お二人ともとてもストイックに練習するイメージなのですが、リフレッシュのためにしていることとかはありますか?
森本そうですね〜。こっち(イタリア)に来てからは、イタリア歌曲の勉強など、本当に他のことをする時間は無いのですが、ピアノのみならず、色々な音楽を聴く時間を大切にしています。この前1945年のフルトヴェングラーの交響曲を聴いたんですよ。ドイツに逃げるちょっと前のやつ、恐ろしくなるくらい素晴らしい演奏だなと感銘を受けて・・・。
スタッフおぉ、リフレッシュも音楽ですか!その歳で巨匠フルトヴェングラーの演奏を聴かれるとは、やはりすごく勉強家。
でも、クラシック音楽は膨大なので興味は尽きませんよね。フルトヴェングラー、素晴らしいですよね。
鈴木もヨーロッパにいたときは、オペラやバレエの学生券が安く手に入ったので、音楽を聴いたり、美術館に行って芸術に触れたりすることがリフレッシュになっていましたね!今は日本なので、美味しいものを食べたり…(笑)。
あとは共演者との会話も、楽しみのひとつですね。フリーで活動する演奏家は、色々な人との出会いも魅力の一つだと思います。さまざまな楽器奏者や業種の人の価値観や考えに触れることができる、それもとても楽しく、有意義なことですね。
スタッフなるほど!そうやって音楽業界の人のみならず、色々な人の価値観を受け入れ、多様な会話を楽しめるのは、舞さんの人間力あってのことではないでしょうか。
アンサンブルは”対話”を大切にしたい──
スタッフアンサンブルをする上で大切にしていることはありますか?
鈴木“対話”かな。私は本番で自由になりやすいタイプなので、リハーサルの段階でもある程度、決めてはおくのですが、本番で柔軟に合わせてくれるピアニストの方が私のなかでは楽しいと感じます。
私がこうしたら相手がこう返してきて、逆にこう仕掛けてきたら、私がこう応えて、みたいな…そこで偶然出来上がる音楽というのは、一人ではできないアンサンブルの魅力だと感じています。
森本それは同感です。
例えば前回のフランクのクインテットの時でも、舞さん、とても仕掛けて来るんですよ!(笑)。で、それをキャッチして、僕としてもさらに戦略を考えるんですけど(笑)。
アンサンブルは二人以上の演奏で一つのテイストに仕上げるので、相手への理解が欠かせません。今回も舞さんのことをちゃんと理解して、”対話”をして作って行きたいなと思います。
ベートーヴェンの美しさと、ブラームスの愛情
スタッフ今回のプログラムは森本さんが選曲されたのですか?
森本僕が勉強しているなかで、とても魅力的だなと思った曲ばかりをセレクトさせていただきました。
特にブラームスの2番なんですけど、ふと“ブラームスの愛情”ってなんだろう?って思いまして。1番や3番とは異なる、ブラームスの優しさが詰まっている作品だなと感じます。
その優しさは、より人間らしいもので、弾き方としてはシューマンやショパンと共通するものを感じつつも、ブラームスの人間味というのをどのように表現しようかな、と模索中です。
鈴木そうですね。ブラームスについては、ヴァイオリンよりもピアノの方が音が多いので、ピアニストに寄り添えるように演奏したいですね。
それから、スイスに住んでいた時にブラームスが長く滞在していた場所の近くに湖があって、そこに実際に訪れて色々感じることがありましたね。湖って、皆さん穏やかなイメージを持っているかと思うのですが、雪景色の時もあれば、雨が降って水流が速くなったかと思えば、雨が上がって晴れた日には雲から太陽の光が筋になって差し込んだりして…本当に色々な表情を見せてくれるんですね。
そういうヨーロッパの景色であったり、複雑な言葉では言い表せないようなものが、ブラームスの音楽には秘められていると思います。
ですので、そういったブラームスの心情や、彼が見たであろう景色をお客様が少しでも感じ取っていただけたらいいなと思っています。
スタッフそういった複雑さが先ほど、森本さんがおっしゃられていた”ブラームスの愛情”に通じるところがあるのかなぁと思いますね。
今回のベートーヴェンの8番のソナタについてはいかがでしょうか?この曲も掛け合いがとても面白いと思いますが?
森本ベートーヴェンについては、僕もすごく楽しみです!
なんて言えば良いのかな…“ベートーヴェンの美しさ”ってすっごく特殊なものだと思っていて、それこそ、その美しさに魅了された著名な演奏家たちがたくさんレコーディングを残されていますよね。
皆さん楽譜に忠実な印象ですが、僕は改めてベートーヴェンのフレージングや音色ってなんだろう?と、ずっと考えています。色々と試行錯誤しています。
鈴木ベートーヴェンってドイツの作曲家なのですが、私にとっては、彼自身も長く住んだ、オーストリアのニュアンスも併せ持っているように感じています。
どちらかといえばブラームスとかよりも、モーツァルトのほうが感性的に近いのではないでしょうか。
モーツァルトとの違いは、ベートーヴェン自身が持っているパッションでしょうか?モーツァルトって悩まない…というと怒られそうですけど「なんとかなるさ!」という感じじゃないですか(笑)。
ベートーヴェンは思い悩んじゃいますよね、心配性だったみたいですし・・・。対人的にも、すごく気難しいと言われていたようですが、きっとどうやって接したらいいのかわからなかったのではないかな、と思います。ですので、決して、人間嫌いだったというわけでは無かったと思うんですよね。
そういう純粋で、品格があるなかでの強さや温かさがあるのがベートーヴェンだと思います。時代的には後期古典派から前期ロマン派にかかりますが、ベートーヴェンの音楽は、中期以降のロマン派の音楽のように「私がわたしが!」って、語るものでは無いと思うんですよね。
バランスをとって演奏することがポイントで、それができたらベートーヴェンらしい演奏ができるのではないかな?と、今の私は思っています。
スタッフベートーヴェンは、イメージしているよりも主観的ではなく、客観的な面があるということでしょうか?
鈴木そうですね。
ベートーヴェンって激しさはありますが、それを人に表現して伝えるというよりは、“自分に対しての激しさ”だと思うんですよね。
誰かに自分の怒りや情熱を伝えるための作品ではないと思います。自分と向き合うなかで生まれた音楽だと思います。
スタッフなるほど、深いですね〜。たしかにベートーヴェンって感情を超越したものがありますね。
だからこそ、万人の心に響く音楽になりえたのだと思いますが…。
森本とても共感しますね!プログラムノートでは、もう少しその辺を書いておきたいと思います。
はじけるようなフォーレの感情、ドビュッシーの透明感溢れる歌
森本舞さんはフォーレについてはどのようにお考えですか?
鈴木第1番のソナタは幸せいっぱいで、結婚を間近に控えハッピーなときに書かれたものです。みずみずしい感情が表出しています。
ドイツ語の語彙(単語)が多いのは哲学を語るためとドイツ人の友人が話していましたが、ベートーヴェンやブラームスの作品は、より深く考え込まれた表情を持っているのに対し、フォーレのこのソナタは、感情がはじけるようなものがありますね。なので、より一期一会の表現で音楽作りができるのかなと思います。フランス語圏にいる時とドイツにいる時と音楽の作り方が違っていたことを思い出しました。
フランス人とのリハーサルでは、イマジネーションで音楽を作っていましたね。ここは湖畔に腰掛けて沈む夕日を見ているイメージでとか、ここはもっとキラキラした感じでとか…イメージで音楽を語り合ったりしていたのですが、ミュンヘンに移ってからは、イメージの話でリハーサルをしたことってほとんど無いですね!
クレッシェンドの扱いかた一つでも全然違いますね。フランスだと「ここから気分が盛り上がっていく感じで!」という感覚的なイメージだけで、一緒に弾いて意気投合するんです。
対照的に、ドイツ人だと「どの音がきっかけでクレッシェンドすると思う?」とか聞かれて・・・(笑)
森本わかります!
なんかフォーレって、いわゆる一般的にイメージされているラヴェルやドビュッシーなどのフランスものと、ちょっと時代が違いますよね?僕は弾いていて、ブラームスとちょっと似ているなと思うんですよ。常にバスが方向性を繋いで行っている感じが…。ラヴェルのような軽やかさというよりは、バスで広がりを大切にしているように感じられます。それこそ、ワーグナーなんかと近いものも感じますし…。
鈴木おそらく本人がオルガン弾きだったということも関係しているかと思います。あとはやっぱりワーグナーも好きだったみたいですしね…。
スタッフたしかに、ラヴェルやドビュッシーの色彩感というよりは、ロマンチックですよね。そこがまた魅力かもしれないですね。
・・・プログラムでは、あとはドビュッシーの歌曲が取り入れられていますね?
森本近フランスの歌曲を聴くことが増えていて、フランスの歌って素晴らしいなって思うんですよね。
透明感というか…、フォーレも歌が重要だと思うんですよね。なので、歌の色彩を演奏に落とし込みたいなと思います。
鈴木そうですね。歌を意識することはもちろんとても重要だと考えています。
それと同時に、ヴァイオリンは歌詞がないので、ヴァイオリンで演奏することにも意識を置かなければいけないと思います。今回はハイフェッツ編曲のもので演奏する予定なのですが、もともとヴァイオリンの曲であったかのような…そういったヴァイオリンの曲としての完成度も上げていきたいところですね。もちろん、歌を意識しながら…。
“今”しかできない演奏。”今”しかできない音楽。
スタッフコンサートにお越しいただくお客様に向けてメッセージをいただけますか?
鈴木森本くんはこれからどんどん活躍していくピアニストだと思います。だからこそ、”今”しかできない演奏があると思うんですよね。
例えば、世界的な巨匠と呼ばれるピアニストでも彼らの若いときの演奏を聴いているとなると、すごく貴重なことじゃないですか。特に10代の輝く時代って特別なものがあるように思います。私自身も、絶えず感覚や感性が人生を通して変化していくなかで、森本くんと共演することで今だからこそ起こりうる化学反応を楽しんでいただければ嬉しいなと思います。あとは若さに負けないようにしたいな、と思います!(笑)。
一晩のリサイタルに3曲のソナタを組むことは最近していなかったのですが、今回は森本くんに押されて、入れちゃいましたね!
スタッフいや〜舞さんも相当エネルギッシュなので、負けないと思いますよ!(笑)
鈴木頑張ります!
森本僕も今できる最大限のことをしたいと思っています!
僕の場合、まだまだ成長段階なので、毎回の本番で本当にたくさん学ぶことがあるんですよ。それこそ毎回、違う世界を見るような感覚です。なので、今回のコンサートもとってもワクワクしています。
特に舞さんのフランスもの、抜群なので!
そして今回の3曲のソナタはそれぞれの作曲家にとって、特別な作品だったと思うので、作曲家に寄り添い、味の違いなどをお客様と共感したいなと思います。
音楽は不要不急ではない!人の温度を感じる音楽。
鈴木コロナ禍で演奏会がまったく無くなってしまい、そこから数ヶ月ぶりに、それこそ美竹さんのクローズドの演奏会に出演させていただいたときに、お客様に拍手で迎えられて、音楽を表現できることの喜びにとても感動してしまって…涙が出てしまいました。
お客様の拍手から「待っていたよ」って歓迎してもらえたように感じました。やっぱり音楽というのは、生で受け渡ししないといけないものなんだろうな、と改めて感じさせられた体験でした。
美竹清花さろんはそういったお客様の反応を心地よく感じられる規模かと思います。今回も皆様と共有できることが楽しみです。
スタッフあのときは世の中も殺伐とした中でしたので、どうなるかと思いました。
改めて、音楽の力を感じましたし、ここ最近である意味、一番感動した演奏会でしたね。お客様も私たちスタッフも、そこに居合わせた人、皆さん目に涙を浮かべていたのが印象的で…当時の状況を物語っていますよね。なんというか、原点に立ち返ることができました。
鈴木とても勇気づけられましたね。それこそ世の中の状況から、音楽は不要不急と言われているようで、生きる意味を見失っていましたが、もう一度見出すことができました。
森本わかります。演奏会って、音楽を通じて実際に人と人との心が通じることができるんですよね!
スタッフそうですね。コロナでオンラインのコンサートばかりに一時期なりましたが、やっぱり生の演奏会って必要なものだなと、つくづく感じましたね。
──【番外編】日本と欧州、カルチャーショック?
スタッフお二人とも国際的なキャリアが長くなると思うのですが(森本さんは16歳という若さで、これから海外のキャリアを積んでいくところかと思いますが)何か、カルチャーショックがあったことを教えていただきたいです。
鈴木もともと、小学校の時の教育が自分の意見をはっきり言いましょうといった、カナダ発祥の教育だったこともあり、小学校から討論会みたいなことをやっていたので、割と自分の意見を伝えるようにしていた方だと思います。
ヨーロッパでは「わからない」というのが一番NGな答えで、なぜわからないのか理由まで言わないとダメでしたね。ですが、それは私にとっては心地よかったですね、というか楽でした!日本だと遠慮しないといけないかな…と思う場面もあったので。私にとっては、自分の意見を言えない方が、フラストレーションでした。
あとは、ヨーロッパって大陸続きなのもあり、色々な民族が入り混じっているので、自分と違う人を受け入れる文化が成り立っていると思います。日本で「あの人変だよね」ってなると、関わりたくないという意味が含まれると思うのですが、ヨーロッパではそれが愛すべき個性だよねというようなポジティブな印象で受け入れられます。変でも許されるんだって思うと、安心しますね(笑)
スタッフなるほど!興味深いですね。
人間少なからず、みんな変なのでね(笑)特に才能が突出した人は、人と違うと言われますが、それは素晴らしいことだと思います。
きっとディスカッションをするという、文化的背景もあるのではないでしょうか?討論の中で自分の意見が生まれ、自分の芯ができるというか…だから欧州の人の方が自己肯定感が高い人が多いと思うんですよね。自分の意見が常にあるので、外的要因に流されずに受け入れられるのではないでしょうか。
鈴木あとは逆カルチャーショックでいうと、ヨーロッパに長く住んでいるうちに、ヨーロッパでの生活の不便な部分にすっかり慣れてしまったのですが、日本ってどこにでもコンビニがあったり、深夜や週末でも社会が機能していてすごく便利ですよね。
ですけど、その分、休みが無いというか、いつもせかせかしてしまうことがあります。何もしない時間を楽しむということも、大事な気がします。例えば友達と遊ぶにしても、ヨーロッパでは、公園に行ってぼけ〜っということもよくあったのですが、日本だとそういったことはあまりないですね。
森本僕はまだそこまでのカルチャーショックはないかなぁ。
というか、まだ16歳ということもあり、せっかくこの歳で留学できたので、表面ではなく根本的に変えて行きたいですね。
スタッフそれはある意味、恵まれているかもしれませんね!
鈴木環境が整って、早い段階で本場の空気で学べることは本当に羨ましいです。
私の場合、なかなか留学を許してもらえなかったので、痺れを切らして留学を決めた時は、先生にも親にも事後報告だったので・・・(汗)
スタッフすごい行動力!カッコいいですね!
その強い思いが、今の舞さんの音楽家としての魅力に表れていると思うので、すべての経験が必要なことだったのではないでしょうか。
(2021年10月13日収録。文責、見澤沙弥香)
鈴木舞&森本隼太デュオリサイタル
2021年11月12日(金) 開演19:00
美竹清花さろん
⇨公演の詳細・ご予約はこちらから
Tel:03-6452-6711
info@mitakesayaka.com
当日プログラム
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第7番 Op.30-2 ハ短調
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番 Op.100 イ長調
ドビュッシー:美しき夕暮れ
フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 Op.13 イ長調
*プログラム等は、やむを得ない事情により、 変更になる場合がございます。
プロフィール
鈴木 舞(SUZUKI Mai)Violin
東京芸大を経て、ローザンヌとザルツブルグ、ミュンヘン研鑽を積む。チャイコフスキー国際コンクール最年少セミファイナリスト。ヴァーツラフ・フムル国際コンクール、オルフェウス室内楽コンクール優勝。スピヴァコフ国際コンクール第二位。読響、東響、ホーフ響、モラヴィアフィル、クオピオ響、ローザンヌ室内管等、内外のオーケストラと共演を重ね、各地で室内楽やリサイタルに招かれている。
キングレコードよりデビューCD「Mai favorite」をリリース。使用楽器は1683年製ニコロ・アマティ。
Website: https://maiviolin.com
森本 隼太(MORIMOTO Shunta)Piano
2004年生まれ。ピティナ・ピアノコンペティション全国大会において、2018年G級金賞、2020年特級銀賞および聴衆賞。2017年第8回福田靖子賞選考会第1位、福田靖子賞受賞。2019年PIANALE International Piano Academy & Competition審査員賞、特別賞KNS Classicalを受賞。2020年AOIDE Scholarshipを取得。令和3年度新進芸術家海外研修制度高校生研修員。ピアノはWilliam Grant Naboré氏、 関本昌平氏、伴奏はGiovanni Velluti氏の各氏に師事。サンタ・チェチーリア音楽院、学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校に在学中。