クラシック音楽はバッハにはじまったといっても過言ではありません。
バッハという作曲家は特別に大切にしたい作曲家の一人として、当サロンでは12月のクリスマスの時期にゴルトベルク変奏曲を聴く機会を毎年設けています。
バッハみずから「心の慰め」と語ったこのゴルトベルク変奏曲ですが、年末の少々忙しい師走の時期に心の浄化と安らぎを与えられ、そして新しい年を迎える前に大きなパワーをもらえる、この時期に絶対聴きたい曲ともいえます。
ゴルトベルクファンにも、クラシックを聴き慣れない人でも、すべての人に聴いて欲しい、まさに太陽のような曲ともいえるでしょう。
今年2023年は第5回目となるゴルトベルク変奏曲を演奏を務めるのは、本企画では3度目の登場となる入川舜さん。
第32回青山音楽賞では「確固たる技術と、歌心を忍ばせながらも知的コントロールの行き届いた表現。音楽の本質を真摯に探求しようという姿勢は称賛に値する。」と、高い評価を得ている”入川舜のゴルトベルク変奏曲”に注目が集まります。
————————————————–
ゴルトベルク変奏曲BWV988 特別演奏会2023 ピアノ:入川 舜
2023年12月22日(金) 19:00開演
フランク:プレリュード、コラールとフーガ M.21
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲BWV988
⇨詳細・ご予約はこちら
————————————————–
今回の演奏会に寄せて、入川舜さんにメッセージをいただいたので、ご紹介させていただきます。
バッハ生誕333年記念、と銘打って開始された美竹サロンのゴルトベルク変奏曲演奏会、その第1回目に演奏をすることができたことは、大変光栄なことだったと思っています。それから5年ほども経ちましたが、現在でもこの音楽は私にとって常に立ち返るようなものとなっています。
ゴルトベルク変奏曲は、有名なアリアと、それに続く30の変奏によって構成されている、バッハの鍵盤楽曲の中では最も長大な作品です。アリアの単純な美から、複雑な対位法を駆使した小宇宙が広がっている。変奏を経るごとに、1度ずつ音程の異なったカノンが配置されている独特な構成や、全曲中で3つの短調の変奏が数えられ、それらは全体の重要なターニングポイントであること。最期の変奏は、クオドリベットと記され、変奏の総決算をした後に、冒頭のアリアがまた再現されること、などが特筆すべきことでしょうか。
本来なら、楽曲の詳細について解説すべきでしょう。
しかし以下は、私的な「ゴルトベルク」にまつわるエッセーとして、少し気ままに書かせていただきます。
12月は、モーツァルト、このバッハからそう遠くない時代に生きた天才が、35歳で天に召された月です。しかしそれまでに、全人的な文化遺産のような音楽が残された、ということはやはり驚くべきことです。
確かに35歳は、若すぎるけれども、モーツァルトにとっては人生のラウンドを晩年まで走った、といえるのです。
もしモーツァルトが40代、50代まで生きていたら…と思うと、また新たな想像が頭をもたげます。
「円熟」という言葉は、人間の中で捉えるなら、単純に何歳のころ、ということができないものです。モーツァルトのような例があるかと思えば、先ほど取り上げたフランクは、60代にして円熟期を迎えています。もちろん、もっと高齢でその時を迎えた人の例もあるでしょう。
「ゴルトベルク変奏曲」を書いたとき、バッハは50代でした。円熟の極みに達していた作曲の技によって、この他の追随を許さない完成度を持った音楽が書かれたのですが、それは、彼が10代から一歩ずつ着実に歩み、磨いてきた技が、50歳にして見せた姿だったといえます。まさにバッハの音楽の成熟は、ウイスキーが樽の中で次第に香りを深めていくような具合だったのです。
バッハの成熟のしかた、というのは、考えようによっては、自分にとって、参考になるケースなのかもしれない。
モーツァルトのような、超速で駆け抜けるような生き方は不可能(年齢的にも)にしても、一段ずつ階段を上り続けることは、どんな人にも残されている方法ではないだろうか。
音楽を演奏することについても、単純な出来不出来によって判断されるのではなく、今までその人がその楽曲(そして音楽自体)とどれほどの付き合い方をしてきたか、によってわかってくるものではないでしょうか。ある曲を演奏する時、以前同じ曲を弾いた経験があるならば、それがフィードバックするのは当然だし、そうでないとしても、これまでの演奏から得た体験がつながってくる場合もあります。
バッハの音楽と、この何年か付き合ってみて分かってきたのは、彼の全ての鍵盤楽曲は、非常に見通しの効く線上に並べることができるだろう、ということです。そう、例えれば、私の故郷の静岡の街から、南アルプスを臨んだ感覚と似ているかもしれません。なだらかな市街から次第に奥地へと入っていくにつれて、現れる山も高く険しいものとなっていきます。
ゴルトベルク変奏曲は、そのかなり後ろの方に位置していますが、それでも、他の楽曲がその前方になければ、成立もしなかったでしょう。やはり、平均律や、インヴェンションがあった上で、ゴルトベルクへとアクセスすることになるのだと思います。
ゴルトベルク変奏曲に取り組めたことは幸せなことだが、それを繰り返し弾く、ということも、得難い経験となるでしょう。この先、もし自分に円熟というものがあるとすれば、その時にもこの作品は自分の傍にいてほしいと願っています。(入川舜)
ゴルトベルク変奏曲BWV988 特別演奏会2023 ピアノ:入川 舜
一つの「うた」の主題から、大きな宇宙が生まれる。
すべての人に 心の慰めを ──
第32回青山音楽賞を受賞
入川舜 ゴルトベルク変奏曲
(第6回渋谷美竹サロン 演奏会)
2023年12月22日(金)
開演19:00
渋谷美竹サロン
⇨公演の詳細はこちらから
プログラム
フランク:プレリュード、コラールとフーガ M.21
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲BWV988
プロフィール
入川 舜(IRIKAWA Shun)Piano
静岡市出身。東京芸術大学音楽学部ピアノ科卒業、同大学院研究科修了。文化庁海外派遣研修員として、パリ市立地方音楽院とパリ国立高等音楽院修士課程でピアノ伴奏を学ぶ。
高瀬健一郎、寺嶋陸也、辛島輝治、迫昭嘉、A・ジャコブ、J−F・ヌーブルジェの各氏に師事。
「静岡の名手たち」オーディションに合格。神戸新聞松方ホール音楽賞、青山バロックザール賞を受賞。
日本人作曲家の作品を蘇らせたCD「日本のピアノ・ソナタ選」(MTWD 99045)、また「ゴルトベルク変奏曲」(MTKS-18341)のソロ録音CDがある。
2011年デビューリサイタルを開催。以後も、ドビュッシーのエチュード全曲など、意欲的なプログラムでリサイタルを行う。
2021年には東京文化会館にてジェフスキの「不屈の民変奏曲」他によるリサイタル(日本演奏連盟による主催)を開催。
2022年のバッハの「ゴルトベルク変奏曲」演奏会が、第32回青山音楽賞を受賞した。
現在、 幅広いジャンルで活動中。オペラシアターこんにゃく座のピアニストを2018年より務める。東京、渋谷の美竹サロンにて、「バッハを辿る」コンサートシリーズを継続中。
東京藝術大学非常勤講師。日本演奏連盟会員。
公式ホームページ:https://shunirikawa.work/
- ニュース一覧
- ニュース記事
過去のニュース
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年