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目次
ヴァイオリニスト坪井夏美氏は2023年3月までベルリンフィルハーモニー管弦楽団・カラヤンアカデミーに在籍し、同管弦楽団の公演に100公演以上出演し、現在、東京フィルハーモニー交響楽団第1vnフォアシュピーラーとして、将来を期待されている。
さらに、第12回東京音楽コンクール第1位及び聴衆賞受賞等、国内外のコンクールにて入賞し、ソリスト、室内楽奏者としても多くの実績を積む。
ピアニスト大崎由貴氏は、第18回東京音楽コンクールピアノ部門第2位(最高位)、イーヴォ・ポゴレリチ氏が審査員長を務める第4回マンハッタン国際音楽コンクールにて、特別金賞を受賞し、ソリストとして東響、東京フィル、新日フィル等、多くのオーケストラとの共演実績を積み、注目を集めている。昨年度より、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校非常勤講師として後進の指導にあたっている。
藝大の同期から始まり、留学先での偶然の再会をきっかけに、本格的なデュオでの取り組みに挑戦することになった。
ベートーヴェンとシューベルトの全曲演奏という大きな挑戦を目の前に、挑戦を決心した経緯や、作品の魅力等をお伺いしてみた。
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坪井夏美&大崎由貴 ベートーヴェン&シューベルト ヴァイオリンとピアノのためのデュオ作品全曲演奏会《第1回》
2023年12月26日(火) 19:00開演
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第1番 ニ長調 Op.137-1, D384
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第8番 ト長調 Op.30-3
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第3番 ト短調 Op.137-3, D408
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 Op.30-2
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藝大同期からザルツブルクでの再会、文芸作品で意気投合
スタッフお二人の出会いを教えていただけますか?
大崎東京藝術大学の同期でした!それからそれぞれ留学して、数年後にザルツブルクで再会したのがきっかけでした。
ザルツブルクでの再会
坪井私がベルリンに留学中、レッスンを受けるためにザルツブルクに行った時でしたね!大崎さんに連絡して…たしかオーストリア料理を食べに行きました(笑)好きな本の話や、留学生活で感じることとか、共感することが多く、話が弾みまして…。これだけ気があうのだし、一緒に演奏出来たら面白いのでは?と思ったのがきっかけです。
実はザルツブルグで再会する前にも1度だけ、舞台上で再会したことがあったんですよね。大崎さんが東京音楽コンクールの本選に出場した際、オーケストラで私が弾いていたんです。その時の曲がベートーヴェンのピアノ協奏曲3番でして、彼女の演奏の印象が強く残っていました。その後、私の出身の幼稚園などで演奏させてもらう機会があり、4回ほど共演させてもらいました。
大崎その合間にも「せっかくならしっかりソナタもやりたいね!」と何度か言っていまして、今回ついに実現することになりました。
スタッフなるほど!学生の頃からとなると、お互いに知り合っている期間でいうと10年くらいですか。そこからコンクールや演奏会でと、偶然、縁が繋がっていたのですね。ちなみに、もし繋がりがあったらということで、お二人の間で話題になっていた趣味とか、好きな本とか、そんなものがありましたらお聞かせいただきたいのですが…?
坪井ザルツブルクで会った時、ちょうど読んでいて話題に上がったのは、カズオ・イシグロの「夜想曲集」とか「私たちが孤児だったころ」とかだったかな。
スタッフ「わたしを離さないで」で有名な!考えさせられる感じの作風ですよね。
大崎空気感がとっても良いんですよ。ちょっとドライというか、透き通っている感じというか。あとは伊坂幸太郎とかも挙がったかな?でもたしか坪井さん、「重力ピエロ」みたいな怖い話はダメなんだよね?(笑)
坪井伊坂幸太郎の本の中にも、好きなものはありますよ!でも、そう、彼の作品に限らず、怖い話は読むとしばらく引きずっちゃうからあまり…。
スタッフ感受性豊か!文芸作品も音楽と通ずる部分がありそうですね?
大崎そうですね。ストーリーの進め方とか、情景の表現の仕方とか、視点の近さ・遠さとか…。
坪井わざわざ意識して音楽と繋げようとしているわけではないですが、本を通して自分が経験したことのないような場面に出会えたり、自分と性格が全く違う登場人物の視点を味わえたり、表現するときの引き出しが少し増えているように感じることがあります。
大崎経験したことのない感情でも、読んでいるとまるで自分が体験したかのように想像したりもしますしね!
スタッフなるほど〜面白いですね!文芸作品も芸術ですからね。
坪井ドストエフスキーなんかは読んでいると頭がおかしくなりそうになってきて、とても最後までは読めないんです。でもそんな感覚でさえもショスタコーヴィチを弾いている時と共通する部分があるなと感じたり。
スタッフなるほど!
大崎本を読んでいて、こういうときにこういう感情があったな…と思い出すことがあって、例えば小学生だった頃、運動会の朝に走って学校へ行く時の気持ちとか(笑)。演奏でも、そういう情景や場面、空気感を感じてもらえるようになりたいなって思います。
坪井自分よりも若い年代の登場人物が出てきたときに、「あ、そういえば自分もそうだったな」と忘れていた感情を思い出すこともありますし、逆に上の人が出てきたら、想像してみることもできるし、面白いですよね。
気付きの連鎖
スタッフお二人がそれぞれに抱いている印象を教えていただけますか?
大崎リハーサルをしていて思うのですが、坪井さんはとにかく頭の回転が早くて、的確に言語化できるのがすごいなと思います!今話していてもそうなんですけど、彼女のふとした言葉から私への気付きの連鎖が起きて、とっても刺激的です。
スタッフこうして取材させていただくなか、お二人とも言語化することがお得意なのかなと感じています。やはり本をたくさんお読みになられているからなのか…とても感心します。
坪井似たようなものを読んでいるからか、文章を作る時の感覚や、選ぶ単語が近い気がすることもあります(笑)。そして気づきの連鎖みたいなのはお互い様で、私も同じように感じています!大崎さんの演奏は、大袈裟なところが一切なく、自然体の中に彼女の揺らぎや個性が感じられるのが好きです。さりげなさが美しいというか…。もちろん作品によってエネルギーやキャラクターは異なるのですが。
大崎それは私が演奏する上でかなり気をつけていることだったので、嬉しいです!やっぱり坪井さんの感性や視点は鋭いなぁ〜って驚きました。坪井さんの演奏は常に本質が見えているような演奏だと思います。まず作品の魅力を一番に伝えたいという演奏スタイルがとても素敵です。大学生のころに聴かせてもらった時からそういう印象があって、特に若いときはなかなか難しいことなのにすごいなぁと思います。あとは積極的な音楽の運びとかもとても好きですね。一緒に弾いていて沢山助けられています。
坪井私の方も、合わせをしていく中で、例えば大崎さんが紡ぎ出すシューベルトの音色からインスピレーションが得られたり、とても刺激になっています。これから長いシリーズでぶつかることも出てくるかもしれませんが、それすらも楽しみです。
Be happy on stage!
スタッフ演奏するうえで、大切にしていることは何ですか?
大崎いつでもその場で感じて生まれたものを伝えたいなと思っています。というのも、準備されたものをそのまま出されてもきっと面白くないので。それと、これは私のモットーなのですが「Be happy on stage」という言葉を大切にしています。これは留学中に先生にかけていただいた言葉で、どんな作品であろうと、どんなに緊張する舞台だったとしても、一音一音その瞬間瞬間をお客様と共有して、コミュニケーションして楽しむことを忘れないようにしています。あとは細かい点でいうと、演奏するうえで細部にこだわってやりたいことはたくさんあるのですが、細かく付け足すのではなく、自然な息遣いのなかでできるように、かつそれがお客様に伝わるような、”濃く自然な表現”で伝わるようにというのを意識しています。
坪井私も大崎さんと近いかな。基本的に自然体でいたいなというのと、自分自身を表現するためではなく、楽譜から感じたことや作曲家が表現したかったことを読み取って表現するために演奏したいなと思っています。とはいえ、楽譜に書いてある音を見たままに弾くだけでは私が弾いている意味がないので、ちゃんと自分のなかで消化して、自分なりの表現をしたいなとも思います。
さきほど大崎さんが言っていた”濃く自然な表現”というのはとても納得します。というのも、自然なだけではうまくいかない作品もあって…。例えば作曲家の独白というか、独り言みたいな作品は、少し濃いめの表現をしなければお客様に届かないように感じることがあります。演奏家として、内面的なエネルギーとそれを外に向けたエネルギーの良いバランスを、それぞれの作品でみつけたいですね。作品によって客観的に演奏するものや、主観的に演奏するもの、多種多様だと思いますので。
スタッフその”バランス感覚”に、演奏家の個性が出ますよね。
一同 本当にそうです!
坪井ですので、作品ごとに柔軟に、自分のスタイルと、自分の立ち位置を変えて演奏したいなと思います。
スタッフお二人の話を聞く中で、何か音楽家として掴んでいて、自立したものがあると思うのですが、どういったことがきっかけだったのでしょうか?
例えば、日本の学生さんで、コンクールや演奏会前の直前までに先生の指導を受けて、自分のスタイルを確立できずにいる学生さんを多く目にします。
これから音楽家を目指していく学生さんたちにアドバイスをするとしたら、先輩としてどんなことを伝えたいと思いますか?
大崎普段から自分はどう思うか、どう生きたいか、どういう人間なのか、何を届けたいか…自分を知ることについてを考え出してから、表現したいものを出せるようになってきたような気がします。
スタッフやはりマインドの問題は大きいですね!
坪井そうですね。私は正直、日本の大学を卒業するまでは、先生はどう思われるかな?何ておっしゃるかな?と時に気にしすぎてしまうこともありました。もちろんそれは、先生の演奏が好きで尊敬していたからこそのことです。一方で、ウィーン留学中に習っていた先生は、1から10まで教えてくださるというより、「こういう歌い方もあるよ!」といろんなアイディアを提案してくださる先生でした。それをきっかけに、自分がどう感じてどう表現したいのかをよりはっきりと考えるようになったと思います。
そしてその段になって、拍の感じ方、和声の表現の仕方、楽器を演奏するテクニックのことなど、尊敬する日本の先生方から教えていただいたことの数々が真価を発揮したようにも思うんです。尊敬する方から学ぶことと、自分の軸をしっかり持って考えること、どちらもとても大事ですよね。
ベルリン・フィルのコンサートマスターを務める樫本大進氏と
スタッフ坪井さんはベルリンフィルハーモニー管弦楽団・カラヤンアカデミーに在籍していたことや、東京フィルハーモニー交響楽団のフォアシュピーラーとして活動されていることもすごく影響しているような気がします。触れる作品の数が段違いに多くなると思うので!
坪井そうですね。交響曲に限らず、オペラやバレエも大好きなので、とても勉強になりますし、刺激になります!
ベートーヴェンの矛盾
シューベルトは旅人
スタッフベートーヴェン(1770~1827)とシューベルト(1797~1828)のヴァイオリンとピアノのための作品を全曲取り組もうと思われたのはなぜですか?
大崎まずどんな作曲家が好きか?という話で、お互いに一番に出てきたのがベートーヴェンでした。東京音楽コンクールのとき、2020年のベートーヴェンイヤーにベートーヴェンを弾いたのですが、バックのオーケストラで坪井さんが弾いてくれていたということにも、何か縁のようなものも感じていました。
坪井私はベートーヴェン全曲をいつか絶対にやってみたいと思っていました!大崎さんのベートーヴェンを聴かせていただいたときもすごく好きでしたし、お互い30歳という節目を迎え、何か思い切って取り組もうとなったとき、絶好の機会だと思ったのです。
大崎そう!相当な挑戦だけどやってみよう、と二人で決心しました。
坪井それから、プログラムをどう組むか話し合いをしていて…。組み合わせたい作品として、シューベルトの二重奏作品がお互いから多く上がったので、それなら、とシューベルトも全曲やってみることにしました。
個人的にはベートーヴェンの方がよく弾く作曲家というのもあり、共感しやすく感じるのに対して、シューベルトは憧れの存在というような感じで、より挑戦という意味合いが強いです。
スタッフなるほど。お二人の考えるベートーヴェン、シューベルトのヴァイオリンとピアノの室内楽作品の魅力を教えてください。
大崎まず、ベートーヴェンについてですが、ピアノソナタでも同じことが言えるのですが、よく見てみると、同じようなフレーズでも強弱やアーティキュレーションが細かく違っていたりするのです。シンプルに見えて結構細かいので、二人で楽譜と照らし合わせながら意図を探るというのをずっとリハーサルでやっています。楽譜からベートーヴェンの思いをキャッチして、自分たちなりに作っていければと思っています。とにかくベートーヴェンには人間味を感じますし、温かさもあるので、私はそういうところが大好きですね!
スタッフ人間らしさが温かさに繋がっていますよね。
大崎はい、時々しつこいですけどね(笑)
一同: たしかに!(笑)
坪井たしかに、時にはしつこい程に意図がはっきりしていますよね。しかし、意図のわかりやすさの割には、音楽的に単純ではない面もあって。何かそのアンバランスというか、ある意味”矛盾”があるのも好きです。こうしてほしいという思いはすごく伝わってくるのに、曲は決して単純ではないというような…。だからこそ、こちらも色々試行錯誤して、挑戦する余地が存分にある作曲家なんじゃないかなと思います。
ヴァイオリンソナタは10曲書いていますが、こんなにたくさん書いている作曲家は珍しいです(モーツァルトは多いですけど)。それもベートーヴェンの初期や、そこからの興隆の時期(いわゆる中期)へ差し掛かる頃にほとんど全てが凝縮されているのも興味深いですよね。モーツァルトらしさが残る作風だった頃から、色々乗り越えこえた末に円熟しはじめた作品まで…ヴァイオリンソナタの10曲だけでベートーヴェンの作風の変遷も
大崎例えば、今回の7番なんかも特にそうですが、室内楽曲というより、対等にお互いの見せ場があるように作られていて、まるでピアノとヴァイオリンのコンチェルトかのような掛け合いがあったりとソリスティックな感じですよね。対してシューベルトには、歌の要素が感じられます。全然違う種類の”一体感”を感じていただけると思います。
スタッフなるほど。同じウィーンで活動していた作曲家で同じ時代を生きて、同じサリエリ先生の弟子なのですが、異なる作風ですね?
坪井はい!ベートーヴェンはやはりドイツ人らしさがとてもありますよね。
また、ベートーヴェンは「これ!」という意図がわかりやすいのに対して、シューベルトは上品で、寄り添うような印象です。
大崎ベートーヴェンは自分視点で言いたいことがたくさんあるのに対して、シューベルトは神の視点じゃないけど、俯瞰している気がします。若いのに結構諦めている節もありますし、達観しているというか…ずっと同じテンポで人生を歩み続けている感じがします。
留学先の先生に「シューベルトは旅人なんだ」と言われてしっくりきました。例えばピアノソナタなんかもとても長いじゃないですか。シューベルトが長い散歩をしていて、その間に花をみつけたり、嵐にあったり、倒れている人に出会ったりしながら、歩み続けていくんだと言われたことがあって、とても納得しました。ベートーヴェンは決して同じテンポで歩いていないし、もっとドラマチックで主観的ですね。
坪井例えば、どちらも”神と向き合っていた”として、ベートーヴェンは神が自分に与えた宿命や運命に真っ向から向き合っているのに対して、シューベルトは現実から解き放たれて別世界への憧れを抱いているというか、夢を見ているようなイメージがあります。
スタッフなるほど。だから、シューベルトは早く死んじゃったのかな。人間らしさよりももっと遠くの何か…神に近いのかな、という印象がありますね。
演奏に寄せて
スタッフ最後に本公演にいらっしゃる聴衆の皆さんにメッセージをお願いします!
大崎音楽家として、こんな挑戦ができるなんて本当に素晴らしいことだと思います。皆様に聴いていただけることがとても嬉しいです。
回を進むごとに少しずつデュオとしての色も変化してくると思うので、その変化も是非すべての回で楽しんでいただければなと思っています!
坪井作品をよく知るお客様も、普段クラシック音楽を聴かない方も、どんな方にも楽しんでいただけるプログラムになっていると思います!
起伏が激しい曲や心地よい曲、人間らしい曲や美しい情景を描いた曲など、いろいろな要素がバランスよく入るようにプログラムを組んでみましたので、実際に聴いて体験してみると、難しいこと抜きに楽しんでいただけると思います。
聴きやすい、と言うと語弊があるかもしれないのですが、決して『ベートーヴェン!シューベルト!』というイメージほど堅苦しいプログラムではありません。色々な楽しみ方をしていただけると思います。
大崎各回ごとにドラマがあり、緩急をつけていますので、5回通してでなくても、1回ごとに楽しめるような内容になっています。
作品や私たちのいろいろな面を味わっていただけるよう、各回濃淡をつけて組んでみましたので、きっと楽しいコンサートになると思います!
スタッフサロンでさまざまな音楽の時間に立ち会いますが、やはり演奏家さんが作品に対して感動し、生き生きと演奏されることが、一番聴き手にも伝わるものがあると思います。このプログラムを拝見したとき、よく考えられていて、本当に演奏家さんがやりたいことが伝わってくるようなプログラムだなと思いました。きっと作品の魅力や、演奏家さんのエネルギーが伝わってくるような演奏会になるのでしょうね。楽しみにしています!
(2023年11月29日収録。文責、見澤沙弥香)
坪井夏美&大崎由貴 ベートーヴェン&シューベルト
ヴァイオリンとピアノのためのデュオ作品全曲演奏会《第1回》
東京音楽コンクールで一躍注目を浴びる
2人の女性演奏家が、大音楽家たちの軌跡を辿る──
2023年12月26日(火)
開演19:00
渋谷美竹サロン
⇨公演の詳細はこちらから
プログラム
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第1番 ニ長調 Op.137-1, D384
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第8番 ト長調 Op.30-3
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第3番 ト短調 Op.137-3, D408
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 Op.30-2
プロフィール
坪井 夏美(TSUBOI Natsumi)Violin
第12回東京音楽コンクール第1位及び聴衆賞受賞。F.クライスラー国際コンクール第5位、日本音楽コンクール第3位、マイケルヒル国際コンクール第4位等、国内外のコンクールにて入賞。ソリストとして読響、都響、新日本フィル、東京フィル等多くのオーケストラと共演。東京藝術大学、同大学院修士課程を卒業し、安宅賞、アカンサス賞を受賞。ウィーン私立音楽芸術大学修士課程を修了。NHK-Eテレ『らららクラシック』、シャネルピグマリオンデイズ、宮崎国際音楽祭等に出演。2023年3月までベルリンフィルハーモニー管弦楽団・カラヤンアカデミーに在籍し、同管弦楽団の公演に100公演以上出演。現在東京フィルハーモニー交響楽団第1vnフォアシュピーラー。
大崎 由貴(OSAKI Yuki)Piano
広島市出身。第18回東京音楽コンクールピアノ部門第2位(最高位)。
ピアニストのイーヴォ・ポゴレリチ氏が審査員長を務める第4回マンハッタン国際音楽コンクールにて、特別金賞を受賞。
ソリストとして東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、群馬交響楽団、大阪交響楽団、広島交響楽団と共演する他、多数のリサイタルや演奏会に出演。広島大学附属高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部をアカンサス音楽賞、藝大クラヴィーア賞、同声会賞を受賞し卒業。令和2年度文化庁新進芸術家海外研修員としてザルツブルク・モーツァルテウム大学修士課程を首席で卒業後、同大学ポストグラデュエート課程を修了。
昨年度より、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校非常勤講師を務める。
目次
ヴァイオリニスト戸澤采紀氏は第85回日本音楽コンクールにて当時15歳という若さで最年少優勝を果たし、豊かな音色、スケールの大きな音楽、成熟した感性に、聴衆を驚かせた。
以来、ソロ、室内楽、オーケストラとの共演等(ローザンヌ室内管弦楽団、NHK交響楽団、読売日本交響楽団、東京都交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、群馬交響楽団など)の幅広い活躍で注目を集めている。
ヴァイオリニストの両親(父親は東京シティ・フィルのコンサートマスターを務める戸澤哲夫氏、母親もプロのヴァイオリニスト)のもとに生まれ、幼い頃よりオーケストラに触れていたという彼女は、大のマーラー好きという一面も・・・!
留学を機に、すっかり洗練された淑女へと成長を遂げ、何か音楽家として掴んだものがあるようだ。今回のプログラムでは、そんな戸澤采紀の”今”が詰まった渾身のプログラムとなっている。
弱冠22歳にして、確かな考えを持ち、すでに大器の片鱗を見せ、将来を期待される若手音楽家の一人であることを感じられることだろう。
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戸澤采紀ヴァイオリンリサイタル(ピアノ:森田悠介)
2023年12月15日(金) 19:00開演[満員御礼]
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 Op.78《雨の歌》
シェーンベルク:幻想曲 Op.47
シューベルト:幻想曲 ハ長調 Op.159, D 934
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「戸澤さんの娘さん?」ではなく、「お父さんは戸澤さん?」に!
スタッフ戸澤さんご自身の音楽との出会いは、いつ頃、どのようなものだったのでしょうか?
戸澤私の場合、母も父もヴァイオリニストですので、ごく日常的に家に音楽が溢れていました。
それこそ、生後1週間には父親がベルリオーズを大音量でかけながら練習してといったような状況でした(笑)
さらに今と違ってサブスクの時代では無かったので、家には多量のCDが置いてありました。簡単に手に取れる環境だったのはありがたかったと思います。
スタッフ本当にごく自然に音楽に触れる機会があったのですね!そこまで日常的にオーケストラのCD等を聴く機会があったのも珍しいですね。境遇に感謝ですね。
逆にご両親が音楽家だったことで苦しかったことはありましたか?
戸澤それは、当然ありました。私にも反抗期がありましたので「戸澤さんの娘さんですよね?」と言われるのがすごく嫌だった時期があって…いつかは「お父さんは戸澤さんですよね?」と呼ばせるようにしてやる!って思ったり(笑)
スタッフそれは、かっこいい!良い方向に反骨精神が作用したので立派ですね。
ご自分がヴァイオリニストへの道を考えたきっかけは、いつ頃、どんなことがきっかけだったのでしょうか。
戸澤実は私、ヴァイオリンを一度やめているんです(笑)はじめは、特に何も考えずに父母が合同で発表会しているので、その前にちょこっと練習して演奏するみたいなスタイルで弾いていました。その頃は母に習っていたのですが、どうやら母親が怖かったらしくて、父に習いたいと言って父のレッスンを受けたのですが…案の定もっと怖くて…辞めてしまいました(笑)その後、5〜6歳の頃ですかね、ピアノを始めたんですね。
そんな時に父母が一緒に乗るオケで(確かシティで母がエキストラかな?)マーラーの7番がプログラムにあって聴きに行った時に、信じられないくらい、すごく感動してしまって…。なので割と早い段階でヴァイオリニストになりたいと思っていました。
スタッフいや〜そんな幼い子供がマーラーの7番に感動する感性がすごいですね…。あの曲「夜の歌」とかですよね?
1、2、3、4、5番あたりならまだわかりますが…何か天性のものを感じます。
戸澤不思議ですよね。実は私、かなりの”マーラーオタク”で・・・(笑)父も好きなので遺伝なのか何なのか不明ですが…家族みんなクラウディオ・アバドの大ファンなんですよね。家にアバドコーナーあるくらい!(笑)
スタッフ私もかつて、アバドとか、ガリ・ベルティーニとか、インバルとか、マーラーに凝ったことがありましたよ!素晴らしかった…。アバドの場合は、本当に音楽に没入するような感じがして感動しますよね。
戸澤えー!羨ましい〜〜!!そうなんですよ!映像で見ても何か泣きそうになっているのがわかりますよね。
そんな経緯で、オケを見渡しながら子供ながらに「ピアノではオケに乗れないんだ」と気が付いて、また「ヴァイオリンをやりたい!」と父母にお願いすることになりました。けれども一度辞めていましたので、なかなかOKをもらえずに…半年〜1年くらいずっとお願いし続けて、その年のクリスマスにサンタさんからヴァイオリンのプレゼントが届きました!(笑)
スタッフサンタさん、かわいいですね!(笑)オーケストラの何にそんなに感動したんですか?
戸澤そうですね。今でもオーケストラの中で弾くとすごく満ち足りた気分になるんですよね。なんだろう…やはりこの大きなストロークと、音に囲まれるので、特有の迫力に感激してしまいます。
スタッフ私もオケが大好きで40~50年以上、メジャーなオケをあまり途切れることなく聴き続けていますが、やはりオーケストラはいいですね!
チェリビダッケ、ムラヴィンスキー、クライバー、シノポリ、サバリッシュ、アバド、スイトナー、ブロムシュテット、メータ、バレンボイム、スクラバチェフスキー、ラトル、ゲルギエフ、ドゥダメル、ティーレマン、ヤンソンス等々、日本の指揮者ではもちろん小澤さん、直近ではクラウス・マケラ、テオドール・クルレンツィスあたりが気になって来日するたびに聴きに行きます。(笑)
戸澤マケラ!それこそ最近オスロに行く機会があったので彼のマスタークラスを聴講しました。こう、あまり細かく教えるという感じではなく、ちょっとした変化で大きな差をつける…という感じで教えていました。
スタッフそうなんですね!貴重なお話をありがとうございます。
マーラーを全曲弾くまでは死ねない!
スタッフ今、一番魅力を感じる作品や作曲家、演奏家を教えていただけますか?また、生涯をかけて取り組みたい作品は何かありますか?
戸澤普遍的なところでいうと、ブルックナーは私の核になるところです。それから、マーラーは、自分が人間として選択に迷ったときに助けてくれるような存在です。
最近では、今勉強させていただいているダニエル・ゼペック先生の影響もありますが、ベートーヴェンはソロ、室内楽、オケがぜんぶあるので、改めて凄いと思っています。演奏するにしても、どうしたって等身大の自分が出てしまう…いや、ある意味それが出ても良い作曲家だと思います。なので、人生を通して弾き続けたいと思っています。それこそ膨大なので、すべてのレパートリーはなしえないと思いますが…。
作品でいうと、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲なんかはやはり大好きですし、マーラー、ベートーヴェン、ブラームスあたりの交響曲は全曲取り組みたいです。それこそマーラーを全曲弾くまでは死ねないと思っています!(笑)
スタッフベートーヴェンの弦楽四重奏曲は「ベートーヴェンが本当にやりたかったことはこれか!」と思ってしまうような深淵な作品群ですよね。死ねないとは凄い!やはりここでも、マーラーオタなのがすごく伝わってきました(笑)
「幸も100、苦も100」
スタッフ今まで長いこと音楽に携わってきていると思いますが、楽しかったこと、辛かったことなどをご紹介いただければ幸いです。
戸澤私にとって、演奏家が舞台に立ち、お客様がいらっしゃったうえでの空間で演奏をするということの喜びは図り知れないものです。コロナの頃は、無観客でコンサートをやっていましたが、音楽は作曲家とお客様と演奏家との共有があって、初めて成り立つものだと思うので、苦しいものでした。コロナ後の有観客で久しぶりに舞台に立ったときの感動というか喜びは、今でも鮮明に覚えています!
辛かったこと、楽しかったこと、というと…音楽家というのは言い方は悪いですけど利益不利益でいうと、ものすごくコストパフォーマンスが悪い仕事です。たった一度の舞台のために何十時間という時間を掛けることになりますので…。しかし、素晴らしい芸術に常に携わっているという喜びの方が勝ります!ですので「苦しくて音楽やめたい〜!」と思ったことは一度も無いですね。
スタッフコロナは、私たちも考えさせられた出来事でした。世の中全体のダメージもありましたが、音楽は生ものなので当たり前だった演奏会が当たり前では無かったと…改めて芸術は尊いものだということを再認識しました。
そういえば、戸澤さんの江副さん紹介ページでの好きな言葉で「幸も100、苦も100」という言葉を拝見して、ものすごい演奏家としての覚悟を感じました。
戸澤そうですね。音楽は、人間や世界のあまり良く無い部分さえも芸術にしてしまうという意味では、とても救われるものがあります。
スタッフたしかに、芸術は人そのもの、歴史そのものです。
運命的に決定した留学先、ドイツ・リューベック
スタッフ留学についてお話しをお伺いしたいのですが、ドイツ・リューベックを留学先に選んだのはなぜですか?
戸澤留学はリューベックに決定する前からしたいと思っていたのですが、ちょうど留学を決めていた年がコロナに被ってしまって…1年延期になってしまったんです。自分ではもう留学するつもりで計画していましたので、少し抜け殻のような感じになってしまっていました。そんな時、当時、芸大で習っていた玉井菜採先生がコロナで抜け殻になっている私に対して「リューベックのダニエル・ゼペック先生のところが良いらしいわよ」と珍しくご助言をくださって、その鶴の一声で大きく私を動かしました。すぐにあらゆる手段を使ってコンタクトを取り、オンラインで授業枠も取って、それまでとは打って変わって全てのことがスムーズにポジティブに事が運んだんですよね。普段はそれこそ私が何をしていても自由にさせてくださるような寛容な先生でしたので、そのたった一言のアドバイスはとても私に響きました。門下生の間では”放牧”なんて言われているくらいです(笑)
スタッフそれは運命だったかもしれないですね!スムーズに行く時というのは、不思議に導かれているように事が運びますよね。
ゼロイチを創る難しさ
スタッフ留学生活でよかった点、感動したこと、楽しいこと、苦しいことなど、印象的な出来事など…なんでもお話しいただきたいと思います。
戸澤もちろん音楽的な面でダニエル・ゼペック先生には大きく影響を受けました。彼は普段は室内楽オケでコンマスをされていて、バロックヴァイオリンも弾くような方です。それで面白いのが、私とはまったく異なるレパートリーを持っていて…それこそシベリウスのヴァイオリン協奏曲は弾いたことがありませんと言っていました(笑)もちろん戸惑うこともあるのですが、逆に、曲や作曲家に対して偏見を持たずに向き合うことができるので良かったです。さらに、楽譜に真摯に向き合う、楽譜をリスペクトして向き合うというのを大切にされている方なので、ものすごく音楽的に良い影響があると感じています。
あとは人間的にもこっちはものすごく時間の流れがゆっくりで…よくドイツ人はきっちりしているといいますが、それは大嘘で、日本人の方が全然きっちりしています!リハーサルに時間通りに行って、自分が一番手じゃなかったことがないので…(笑)それだけでなく、リハの前日にリハの部屋を予約していなかったり…(笑)
こっちにいて辛いことというのは冬に日光が上らないことですかね〜。なのでこっちの方は日光が出ると「散歩に行く!」と、すべての予定をキャンセルしてでも散歩に行く人がいるくらいです(笑)
ちょうど留学を始めるタイミングというのは、日本でスランプというか…音楽的にも限界を感じている時期でしたし、何か、自分のことを誰も知らない街に行ってゼロからスタートしたいと思っていたタイミングでもありました。リューベックという街は、音楽家としても社会的にもゼロから生きる道を作らないといけなかったのでそれが大変といえば大変でした。しかし、友達ができてきて室内楽に誘われるようにもなってきて、その輪が広がっていくと、自分の実力と自分の人間性で創り上げたという確信が出てきますので、辛いこともありますが、それよりも充実感の方が勝りますね。
師匠ダニエルゼペック氏との写真
スタッフゼロイチで何かを作り上げるというのは大変ですよね。それこそ今日お話しさせていただいて、最初に戸澤さんの演奏に触れた音コンの頃から、何か一皮も二皮も脱皮したような印象を持ちます。留学先でのそういった出来事がご自身の成長につながっていることがよく分かります。留学してそのほかに感動したことは何かありますか?
戸澤この夏にリューベック音楽大学の学部を卒業したのですが、卒業演奏会をした際に、友達が祝福の気持ちを表して一輪のお花を買ってきて親しい友達に渡すという儀式があるのですが、自分は日本人だし、あまりもらえることを期待していなかったのですが、結果、抱えきれないほどのお花をいただくことができて、知らないうちに自分が周りと深い関係性を築くことができていたんだな、と実感して感動しました。
卒業リサイタル後、もらった花を抱えている戸澤さん
スタッフ留学して、特にこういうことが変化した、ということは何かありますか?
戸澤日本にいた時は、音楽以外のことに取り組むことに、ものすごく罪悪感に苛まれるタイプでした。自分の人生のすべてを音楽に費やさないといけないといった強迫観念といいますか…。しかし留学して、日常生活が色々な要素として音楽に影響を及ぼすということがわかり、割と余裕が出てきたと思います。
たしかサイモン・ラトルか誰かが言っていた言葉で「自分の人生は音楽のためにあるのではなく、音楽が自分の人生を豊かにするのだ」という風なことを言っていて、自分の中で腹落ちして、意識が変わったと思います。
スタッフなるほど、素敵な言葉ですね。演奏家という職業は一生物だと思うので、継続性が必要だと思います。プレッシャーで押しつぶされそうになることも事実あるかと思いますので…大切な価値観ですね。
ソロ、室内楽、オーケストラ
柔軟性を持ったオールマイティな人材に
スタッフ現時点で、戸澤さんがお考えになっているやりたいこととか、将来の方向性とかをお伺いできますか?ソリストとして活躍されたいか、コンマスなどのオケマンとしてポジションにつきたいなど、ご自身の将来についてはどのようにお考えでしょうか?
戸澤今すぐに就職したいという思いはないのですが、やはり、コンサートマスターになりたいと思います。ただし、ソリストや室内楽をやらないというわけではなく、バランス良く活動していきたいとは思います。
スタッフそれはとても素晴らしい志だと思います!今の時代、オケマンだけに身を固めるのではなく、個として活躍されている方が増えてきたように感じています。もう少し広い意味で、どんな演奏家になりたいと思っていますか?
戸澤分野にとらわれず、ソロでも室内楽でもオケでも場面、場面で柔軟性を持ってやるべきことができて自分の力を発揮できるような、そういうオールマイティな人材になりたいなと思っています。音楽が人を繋いでくれて、さらに人との繋がりが音楽の世界を広げてくれるという…何かそういう循環を自分で作っていけるようなイメージで取り組みたいと思っています。
演奏に関しては、「共感する」というのは難しいと思っていて(伝える、共感を生むというと、何か少しおこがましいと思ってしまうので)「共振する」という言葉が割としっくりきています。それこそ個性とかそういうのではなく、今、この瞬間を同じ場で共有するということが、とても尊いことだと思うので、それを大切にしたいですね。
スタッフたしかに!個性とは変な話し、簡単に出てしまいますしね(笑)なので、その背後にある何か普遍的なものを大切にされているのは、作品に対しての誠実さというか、敬意が感じられますね。
戸澤個性の話でいうと、良くフランス人っぽいとかドイツ人っぽいとか良く言いますが…。私の場合、日本に生まれて日本人の血が流れていて、そういう人間がまったく異なる文化の中で生活しているわけなので、逆に言えば、自分のアイデンティティというのは無色透明の無地のキャンバスを何色にでも染められる、何にでもなれる、という感じです。
ヨーロッパではよく見られる光景なのですが、先日プラハに演奏に行った際にハンガリー人の学生と話す機会があって「ドイツ音楽には自分の言葉とかアイデンティティに繋がるものをすごく持っているので共感するから弾けるけど、フランス音楽はわからない」と話しているのを聞いて、日本人である自分はそんなことを言う必要も、思う必要もないな、と気が付きました。なので自分の個性はもちろんありつつも、「何にでもなれる」という、そういう音楽家になりたいですね。
スタッフ日本人であるアイデンティティを、逆の強みに捉えられるわけですね!よく、日本人の緻密で細かくまじめな性質が音楽に向いているという意見は聞きますが、その意見は何か斬新です。
楽譜と向き合うこと、楽譜に忠実であること
スタッフご自分の演奏の強みというか、魅力というか、または特性というか、そうしたものについてどのように考えられていらっしゃいますか?(大切にしていることなどでも良いです!)
戸澤大切にしたいことは、楽譜をよく読むこと、楽譜に忠実であることです。忙しくても楽譜と向き合うことを大切にしていますね!特にドイツものなどはそういった基盤というか、ルールをもとに成り立っている音楽だと思いますので。私の場合、どう頑張っても楽譜に書かれていないことをやろういう気にはなれません。何を作曲家が思って、この指示を書いたのかというようなことを、頭をフル回転させて、例えばソロの作品であればピアノに座ってピアノパートを弾いてみるというようなこともします。
自分の魅力としては、さっきのお話と被りますが、個性というよりは柔軟性を持って取り組みたいなと思っています。
強みでは…ありがたいことによく言っていただけるのは音がいいと言っていただけます。
卒業リサイタルの様子
「若い」は当たり前
スタッフ日本のクラシック音楽の現状は、いくつか問題をかかえていると思います。ご自身が音楽家として生きていくうえで、そうした現状について、どのようにお考えでしょうか?
戸澤音楽の市場の問題はあまりわかりませんが…音楽に限らず普通に生きていて若い人に対してすでに完成品を求められる傾向があると思っていて、よく演奏を聴いて「若いね!」って言う感想を耳にすることがあると思うのですが、若い頃があるのは人間として自然なことだし、誰しも若い頃を経験します。音楽の場合、途中段階も芸術になってしまう面もあると思うので、それを踏まえたうえで、人として、音楽家としてそれ自体を寛容に楽しんでいただけるとありがたいなと思います。
スタッフそれは何かわかるような気がします。インターネットの進化によって完璧な演奏に容易に触れることができてしまっていることにも原因がありそうですよね!「これが完成品か」と自分のイメージや先入観を持って聴いてしまうと視野が狭くなってしまいます。もちろん、正直なところ、私たちもそうした聴き方になってしまうこともあるとは感じていますが、若手演奏家さんが安心して活躍できるような活動を行っていきたいですよね。
戸澤私はいま22~3歳の年で、学部でいうと同級生は卒業して、やれ就職だ進学だと焦っている友人を近くで見ていると特に感じます。音楽家としては20代前半というとまだまだこれからだと思うので…若手を伸び伸び育てていただける土壌があれば、嬉しいなと思っています。なるべく長く勉強を続けられた方が、より層を厚く、様々な経験を経て、何か変化していくことを恐れない柔軟な音楽家が育つのではないかなと思っています。
自分を振り返る旅──
スタッフ最後に、本公演の聴き所など、お越しいただくお客様に向けてメッセージをお願いします。
戸澤都内では久しぶりのソロリサイタルになります!なかなか美竹サロンさんのように、お客様と近い距離でがっつり室内楽というのはこれまでなかったので、近ければ近いほど、私の息づかいのようなものが空間に広がっていくような感じですので、逆に私の方も皆様の空気感を感じられるのをとても楽しみにしています。まだ留学中で変化の途中という段階ですので、自分の思うこととこれからの可能性というのを感じていただける機会となれば嬉しいなと思っています。
スタッフありがとうございます!プログラミングもすごく考えられているなと感心しましたが、プログラムについてはどうでしょう?
戸澤自分の人生のなかで、人との繋がりを生み、世界を広げてくれたような思い入れのある作品たちばかりです。個人的には自分を振り返る旅のようなイメージで組ませていただきました。少し語弊があるかもしれませんが、自分ができる最大限のことを出し切って、次へのモチベーションやきっかけに繋げていければ良いなと思っています!
それこそ、何年か経ても、また同じプログラムで弾きたいなと思えるような作品たちです。
スタッフありがとうございました!当日を楽しみにしています。
(2023年11月14日収録。文責、見澤沙弥香)
戸澤采紀ヴァイオリンリサイタル(ピアノ:森田悠介)
第85回日本音楽コンクール最年少優勝を果たした戸澤采紀の“今”
構成美と幻想美が織りなす渾身のプログラム
2023年12月15日(金)
開演19:00 [満員御礼]
渋谷美竹サロン
⇨公演の詳細はこちらから
プログラム
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 Op.78《雨の歌》
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シェーンベルク:幻想曲 Op.47
シューベルト:幻想曲 ハ長調 Op.159, D 934
プロフィール
戸澤 采紀(TOZAWA Saki)Violin
第85回日本音楽コンクール最年少優勝、ティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリンコンクール第2位(最高位)。これまでにヴァイオリンを玉井菜採、ジェラール・プーレ、
森田 悠介(MORITA Yusuke)Piano
第58回ポセール音楽賞コンクール第2位、メンデルスゾーン・ドイツ音楽大学コンクール、カンピリオス国際コンクールにてディプロマ。
埼玉県立大宮光陵高等学校音楽科を経て京都市立芸術大学音楽学部卒業後、2018年に渡欧。ウィーンとザルツブルクにてイェルク・デームスの元で学ぶ。同氏の推薦を受け、マルタ・アルゲリッチの弟子でもあるコンラート・エルザー教授のもと、ドイツ国立リューベック音楽大学ソロピアノ科修士課程を満場一致賞賛付きの最高点で修了。
これまでにピアノを中井恒仁、安田正昭、武田美和子、砂原悟、コンラート・エルザー、オペラ伴奏法をロバート・ロッチ、歌曲伴奏をフローリアン・ウーリッヒ、チェンバロと通奏低音をピーター・ヤン・ベルダーの各氏に師事。またアンジェイ・ヤシンスキ、クラウス・ベスラー、ライナー・キュッヒル、ゲルハルト・シュルツより音楽的示唆を受ける。
現在ハンブルクに在住。ピアニストとしてのみならず、教育者としてもドイツ国内で青少年のための最大のコンクール”Jugend Musiziert”ハンブルク地区の審査員をつとめるなど活動は多岐にわたる。