当サロン主催公演、シリーズ「メシアンの神秘」にご出演いただいている深貝理紗子さんが第10回<柴田南雄音楽評論賞>奨励賞を受賞されました。おめでとうございます!!
<柴田南雄音楽評論賞> the Minao Shibata Memorial Award for Musical Criticism
https://www.tohomusic.ac.jp/toho-arion/m_shibata_prize.html
柴田南雄音楽評論賞とは、作曲家で音楽学者、音楽評論家としても日本の音楽界に偉大な足跡を残した故・柴田南雄氏に敬意を表し、音楽評論を社会に発表し、音楽文化の質の向上に貢献することのできる音楽評論家を育てることを目標として、将来期待される有能な個人に対し、その活動を顕彰し、または助成する賞金を授与するためのものとされています。
受賞作
[個評]演奏会評Ⅰ「音による天地創造の聖書-児玉桃メシアンプロジェクト vol.2」
[個評] 演奏会評Ⅱ「幸福に至るメシアン-児玉桃メシアンプロジェクト vol.3」
[音楽時評/評論]音楽時評-無意識は誘い、待つ者を浸す
受賞作の『音楽時評-無意識は誘い、待つ者を浸す』は、芸術現代社の雑誌「音楽現代」11月号に掲載されています。
https://ongakugendai.com/2023/10/12/ongen-vol-53-no-11/
深貝理紗子さんの文章に触れたとき、哲学的、色彩的、知的かつ詩的な文章に、一気に引き込まれました。
是非noteもチェックしてみてください。
深貝理紗子note✏️
https://note.com/musiquartier
インタビュー記事
音楽についてのみならず、政治や歴史、絵画や文学に至るまで…幅広い見識の持ち主である彼女は、まさに知識の泉。
誇張するわけでもなく、ごく自然に日常のことのように話される姿が、とても印象的でした。
フランス音楽を聴く──(2022年1月17日公開)
インタビュー記事ページへ移動
深貝理紗子、メシアンの神秘に迫る──(2023年6月18日公開)
インタビュー記事ページへ移動
プロフィール
深貝 理紗子(FUKAGAI Risako)Piano
パリ・エコール ノルマル音楽院 最高高等演奏課程)及びパリ スコラ カントルム音楽院 コンサーティスト課程)を審査員満場一致の最高評価を得て首席で修了。
東京音楽コンクール第 2 位、ショパン国際ピアノコンクール in ASIA コンチェルト C 部門アジア大会ブロンズ賞、フランスピアノコンクール第 1 位、C.カーン国際音楽コンクール第3 位、J.フランセ国際音楽コンクール入選等国内外で受賞。
東京文化会館や渋谷美竹サロン シリーズ メシアン音楽の神秘』)、山手ゲーテ座等の主催公演に出演。下野竜也氏や川瀬賢太郎氏の指揮のもと東京交響楽団等と共演。
2022 年秋にティートックレコーズよりメジャーデビュー。日本初録音を含む CD Parfum』を全国リリースし、芸術現代社の専門誌 音楽現代』推薦盤、音楽之友社の月刊誌 stereo』特選盤に選出された。
これまでに横山幸雄、オリヴィエ ギャルドン、島田彩乃、大西真由子の各氏に師事。
レパートリーはバロックから現代音楽の新曲初演まで。とくに近現代音楽を中心に、音楽サロン文化などの芸術文化全般を交えたアプローチを展開している。
現在演奏活動の傍ら、主宰音楽教室、インターナショナル音楽教室等にて後進の育成とクラシック音楽の普及に尽力している。
渋谷美竹サロン・スタッフ一同
タグ: ピアノ
吉田友昭氏は国内にて様々な演奏・指導活動を行うと共に、東京音楽大学にて専任講師を務める注目のピアニストだ。
第79回日本音楽コンクール第1位、マリア・カラス、ホセ・イトゥルビ、マリア・カナルス、ハエン、シドニー他の国際コンクールで優勝・入賞。
日常では“先生”と呼ばれる存在である彼だが、己の魂、その感性のすべてを出し切るような演奏スタイルに、強烈な“アーティスト魂”を感じずにはいられない。
演奏のみならず、鋭い感性、幅広い知性、本質を突いた彼の言葉は、今を生きる若手演奏家に多くの影響を与える重要な存在だろう。
今回、ショパンの重要な作品たちが一挙にプログラミングされ、挑戦的なプログラムを同日2公演開催する運びとなった。
ヨーロッパに12年間居住して帰国という欧州の経験が長いため、海外でのリアルな演奏活動のお話しや、
後進の指導に当たりながらも、演奏家として、常に己の限界に挑戦し続ける秘訣などを伺った。
————————————————–
フレデリック・ショパン123 ピアノ:吉田友昭
2023年11月19日(日) 15:00開演[満員御礼]/19:00開演[追加公演]
F.ショパン:
ピアノ・ソナタ 第2番「葬送」 変ロ短調 Op.35
バラード 第1番 ト短調 Op.23
スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
ノクターン 第3番 ロ長調 Op.9-3
ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58
※追加公演はプログラム、チケット代が異なります。あらかじめご確認ください。
15:00開演[満員御礼]⇨詳細・キャンセル待ちはこちら
19:00開演[追加公演]⇨詳細・ご予約はこちら
————————————————–
ショパンの音楽
スタッフ吉田先生の演奏を聴けば聴くほど、何か本質的な大曲を聴きたくなってきたこともあり、ピアニストの憧れともいえるショパンのソナタ3番を、私たちからご相談させていただきました。その他のプログラムについてはお任せとしましたが、プログラムの意図を教えてください。
吉田このサロンの主催公演「123シリーズ」(“いまここ” からすべてが始まるという過去の生、今の生、将来の生を象徴する)という名称に絡め、バラード1番、スケルツォ2番、ソナタ3番をまず決めたうえで「ソナタ2番の葬送も弾いたら面白いんじゃないかな?」と思い、プログラミングしました。
前半はスケルツォが変ロ短調なので、ソナタ2番を入れることで変ロ短調が二つ揃います。
さらに、後半はノクターン3番がロ長調で始まり途中でロ短調となる一方で、ソナタ3番はロ短調から途中でロ長調と、調性的にも統一感があって良いプログラムだなと思い、今回のプログラムとなりました。
特にこちらのサロンは自分のやりたいことに100%集中させていただけるので、PRから準備から何から何まで150点満点以上の環境で本当に感謝です。
そうなると本番はショパンのことだけを考えて集中できるので、実は1ヶ月くらい悩んでプログラミングしました(笑)
スタッフ本当にすごいプログラムですよね!クラシックファン、特にピアノ学習者にとってショパン(1810-1849)は特別な存在だと思います。また、注目の吉田先生がショパンを演奏されるというので…。それも、ショパンの最高傑作ばかりが詰まったプログラムだと思うのですが、吉田先生にとってショパンの音楽とはどんな存在ですか?
吉田私も小さい頃からショパンばかり弾いていましたし、途中、サッカーばかりでピアノを弾かなくなった時期もショパンの音楽だけは当時CDやテープなどで聴いていました。
ショパンの音楽は、聴く側にとってはとても憧れが詰まっていますし、それでいて親しみやすさもあります。
しかし、これが弾く側になってみると、途端にその難しさが立ちはだかり、夢見るどころか「え?!こんなに難しいの?!」って…(汗)
特にこのショパンという人は妥協しない作曲家だったと思うんですね。
妥協しないという点でいえば、トップ2がショパンとベートーヴェン(1770-1827)だったと思います。
ベートーヴェンについては耳が聴こえなくなったという要因が大きく影響したと思うのですが、ショパンの場合は故郷であるポーランドを離れ、ワルシャワ蜂起もあり、色々あったなかでパリに落ち着いた経緯などを考えると、政治的背景による環境要因が彼の作風に大きく影響したのかなと思います。
例えば、同じ時代のリスト(1811-1886)と比べると、リストは社交ができて、自分の大切なものが心にありながらも、うまく妥協しながら社会との繋がりをもてるタイプだったと思います。
シューマン(1810-1856)も、精神病を患っていて、難しい人だったといわれていますが、少し妥協が見られます。
もちろん、クララの支えが大きかったと思いますが、例えば指揮者としての活動や、レッスンもかなりの人数を教えていたようですし、なんとか社会と繋がる術を見つけていたようです。そしてブラームスだったりショパンなどなど尊敬する他の作曲家への応援文章がものすごいこと。
しかしこれがショパンとなると、レッスンもすぐにクビにしちゃうし…(笑)
ショパンが公職に就いたという話を私は聞いたことがありません。
演奏会についても「こんな大きいホールでは弾かない、今日はこの人たちの前では弾かない」なんてこともあったり…(笑)周りの人達は常に気を遣ったでしょうね。
弾く側になって、ショパンを知り、寄り添い、彼の人柄にアプローチするうえで「こんなに難しい人だったのか・・・」というのが一つ、課題としてありました。
しかし、彼のように妥協しないで生きていくというのは、すごく憧れますよね。
現代の人間社会においてはとても難しいことだと思いますが…。
彼はほとんど妥協しない…ただ、支えてくれる人たちに恵まれた人生でした。
彼の持つ不思議な魅力、人を惹きつける力(マグネティズムというのですが)、そういうものがすごくあったと思います。それはベートーヴェンにもいえます。
我々演奏家も、だからこそ、彼の音楽に憧れ、一生かけて弾いていきたいと思えるのかもしれません。
「彼の生涯に共感する」というのは、この現代の日本に生まれた私には難しいところですが、作品を通して、様々な形で寄り添っていけるように試行錯誤すれば、きっとショパンが降りてきてくれるかなと思って、日々ピアノを弾いています
コロナが明け、また別の意味で難しい時代になってきましたね。
色々な意味で楽しい時代ともいえるでしょうが、一人の時間が無くなり、皆なんとか妥協しながら自分を見失わないようにしつつ、日々、忙しく生きている方が多いと思います。
私も何か、そのなかでショパンという作品を通して、お客様に日々やこれからを振り返っていただける機会になれば、これはもうピアニストとして、演奏家冥利に尽きますね。
スタッフありがとうございます。サロンとしても何か、あらためてミッションというか、“サロンの軸”というものがとても大切だなと感じていたところだったので、ショパンのこの妥協のない芸術家としての生き方にはとても共感します。
日々、難しい社会のなかに身を置く私たちにとって、このサロンの空間だけは、自分のなかにある美意識であったり、癒しであったり、心であったり、何か「自分のなかの大切なことを大切にできるような場所」であって欲しいということを再発見しました。そういう時間というのはとても尊いものだと思っています。
吉田そうですね。ある意味、ショパンの音楽から現代を生きる我々が学ぶことができる機会ともいえそうですね。
僕は歴史、特に大河ドラマが大好きですから、家康から学べることもありますしね!
歴史を学ぶと現代の見えていなかったところが見えてきたり、大切な気付きになります。
「最初から本質」驚きの吉田友昭の演奏スタイル
スタッフ吉田先生の演奏スタイルについてお伺いしたいです。聴き慣れている曲なのに、最初から核心を突くような演奏スタイルに引き込まれてしまいます。
普通、ウォーミングアップみたいな感じで、だんだん調子を掴んでいくようなリハーサル風景が当たり前だと思っていたのですが…何かいきなり本質に切り込んで行くので「この演奏スタイルはなんだろう?」と、驚いてしまいます。
吉田最初から本質というのは嬉しいです。
それはもう、今日は朝からサウナに行って、整えてから来ましたので…(笑)
今日は確かに本番ではなく収録ですけれども、やるからにはそこは妥協しないで臨みたいと思っています。もちろん、人それぞれ考え方があるとは思いますが。
僕の場合は誰かとのご縁をいただいて、共同作業で行う時間は、せっかくだから100%、いや150%で臨みたいと思っています。
スタッフ私もかれこれクラシック音楽を40年聴いていますが、吉田先生の演奏って、指揮者のカルロス・クライバー(1930 – 2004)の演奏を初めて聴いたときの衝撃と同じような次元の異なる衝撃を味わってしまいました。
吉田それはおかしい!大袈裟というか、そんなことは絶対ないです!(笑)
前も申し上げたと思いますが、僕の夢はカルロス・クライバーと共演することでしたから!
僕もめちゃくちゃ大好きですよ。今の子はクライバーを知らないので、残念ですよね。
スタッフ演奏家さんによって、個性や特色が現れて素晴らしいなといつも思うのですが、吉田先生の場合、何か「見たことも聴いたこともない」吉田先生の演奏を形容する言葉が見つからないのです。
吉田良い意味でも悪い意味でも、私は人の真似をしません。
もちろんこれから取り組む曲は何百回も聴いています。それこそ、過去の巨匠から今の若手まで…。
この人は何を伝えたいのだろうと自分なりに研究して発見もあり、逆にあまり伝わってこない人の原因を探ってみたり、そんなことをしながら音楽作りを進めます。
ショパンのソナタは2曲とも誰のレッスンも受けてこなかったですし、ソナタ3番は演奏会では初披露となるので、楽しみです!
演奏会のときは、演奏家が表現する喜びを持って弾くべきだと思いますし、それが表現者のあるべき姿だと思います。
なので、「見たことも聴いたこともない」というご感想は非常に光栄に思いますし、僕自身も毎回、自分が聴いたことのない演奏を自分でしています。
さっきの演奏も、もう覚えていないし…ちょっと思い出すと、すごいことやっていたなと思いますしね(笑)
演奏家の役割とは何か?
スタッフ吉田先生の演奏に接して「音楽とは何だろう?演奏家の役割って何だろう?」と、改めて考えてしまうインパクトです。
皆、白と黒のただの同じ楽譜をもとに演奏しているはずなのに、なぜ吉田先生の演奏はこうも生き物のように瑞々しく我々のハートに直接、伝わってくるのだろう、と。
当たり前のことではありますが、演奏家さんによって、同じ作品でもまったく違った作品に聞こえる理由はなぜなんでしょう?
吉田たしかに、楽譜というのは、黒と白の必要、最低限に記載された死んだ文字と記号です。
もちろん、見る人が見れば色々なことが伝わってくるのでしょうが、幼児から見れば絵本の方がおそらく価値があると感じるわけですし…不思議ですよね。
現代音楽の楽譜と違って、当時は音符を大きく書いたり小さく書いたりするわけでもないですし。
最近、同じテーマで私も考えていたのですが、ふとドラマを見ていて、台本や脚本をもとに作品(舞台)作りをする俳優さんと同じだなと気が付きました。
台本の文字も印刷されて死んでいます。それを読み取って、演出家さんや俳優さん一人ひとり考えが違うなかで、向き合い、考えつつ、それらを生きたものにしていく…そういう作業がきっと俳優さんの仕事なんだと思います。
演奏家も同じです。日々積み上げていく作業があり、個人個人で考えを深める作業もあり、
当日どういう現場になるかわからない…この点も演奏家と共通しています。
スタッフまさに演奏家自身の生き方が現れる仕事ですよね。よく、舞台の上では隠せないというのも今のお話で頷けます。
常に、表現者としての喜びを──
スタッフ吉田先生の演奏は、いつも生き生きと、瑞々しく、新鮮な思いで演奏されているのが伝わってきます。
演奏家として、常に新鮮さを持ち続けられる秘訣を教えてください。
吉田そうですね、演奏家が努力するだけでは難しいと思います。
調律師の重要性、楽器の重要性、会場の運営の方の重要性、様々な要素が揃って、初めて良い演奏会が成り立つと思うので。
例えばヨーロッパだと、ギャラ振り込まない→問い合わせる→音沙汰無し→裁判起こすぞ!とか、もう普通なので(笑)
「それでも俺は弾いてやる!」っていうふうに自然と自らを掻き立てるようになるんですよね。他にも、当日、会場に行ってもピアノがあるかわからないし、そもそも飛行機が飛ぶかどうかもわからない、調律師が来るかどうかもわからない…そんなことが何回もありましたね。
行ってもお客さん4人とか、告知するのを忘れていたとか…(笑)しかもそれがバルセロナとか大都市ですよ。主催者さん自身もコンサートがあることを忘れていて300m先の会場にアルゲリッチを聴きに行っていたとか(笑)
そういうことが普通にあるので、「それでも俺は弾いてやる!」っていうモードになるのですが、日本ではそんな杜撰な運営はあり得ないですよね。
あまりにも恵まれすぎているがゆえに、少し集中するというのが難しいのかもしれません。
なので、演奏家はよほど優れたマネージャーに恵まれ、日々の過ごし方に気をつけて意識していかないと、世間に揉まれていってしまうという危険性がありますよね。
だからこそ、私はここ(サロン)で演奏するのが好きなんですよ。
やりたいことに集中できますし、お客様全員とも繋がっているような感覚があります。
例えば、大きなステージで、これが難しかったという経験をしたこともありまして…。
2000人の前でリサイタルを行ったこともありますが、この規模になってくるとお客様一人ひとりという感覚はさすがに難しいですね。
演奏も、自分が表現したいことというよりも、パフォーマンスというかショーみたいな弾き方になってしまったりしますよね。私が未熟で実力不足という原因もありますが。
特にヨーロッパなんかでは、自分では「あまりうまくいってないな〜」と思っても、なぜかブラボーの嵐になったり(笑)
オランダなんかですと、スタンディングオベーションが普通にありますし!
コンセルトヘボウでリサイタルをした時は、小ホールで400〜500人規模でしたが、全員がスタンディングオベーションになった時は、さすがに「私ってキーシンか何だっけ?」と勘違いしそうになりました(笑)オランダでは普通のことなのに。
とにかく、演奏に集中させてもらえる環境があったうえで成り立つことなので、このステージに立てる機会と、お運びいただけるお客様への感謝の気持ち、関わる方との連携や信頼があって、100パーセント自分を解放できると思っています。とても充実感を感じています。
スタッフありがとうございます。
このような一次情報はこれから音楽で生きて行こうと試みる人たちや、聴き手にとっても重要な情報だと思います。だからこそ、小さなサロンではありますが、この日本で、この渋谷でサロンを運営することができる尊さを改めて実感しています。
今回のオール・ショパン・プログラムでは、プロの方や玄人の方が何かと注目されている吉田先生がどんな“表現”をされるのか、心から楽しみにしています。
(2023年10月2日収録。文責、見澤沙弥香)
フレデリック・ショパン123 ピアノ:吉田友昭
鬼才、吉田友昭
ショパンの精神に迫る1番、2番、3番の作品をセレクト
2023年11月19日(日)
開演15:00 [満員御礼]
開演19:00 [追加公演]
渋谷美竹サロン
追加公演⇨公演の詳細はこちらから
プログラム
F.ショパン:
ピアノ・ソナタ 第2番「葬送」 変ロ短調 Op.35 ※昼公演のみ
バラード 第1番 ト短調 Op.23
スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
ノクターン 第3番 ロ長調 Op.9-3 ※昼公演のみ
ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58
プロフィール
吉田友昭(YOSHIDA Tomoaki)Piano
札幌市出身。東京芸術大学を経て20歳時にヨーロッパへ移住。パリ国立高等音楽院にてミッシェル・ベロフ、エリック・ル・サージュに師事。同音楽院を一等賞の成績で卒業後、イタリア・ローマ聖チェチーリア音楽院にてセルジオ・ペルティカローリに師事し修了。ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学ポストグラデュエート課程にてパヴェル・ギリロフに師事し修了。
第79回日本音楽コンクール第1位。マリア・カラス、ホセ・イトゥルビ、マリア・カナルス、ハエン、シドニー他の国際コンクールで優勝・入賞。スペイン、イタリア、オランダ、ドイツにて演奏ツアーを行う。バルセロナ・カタルーニャ音楽堂、アムステルダム・コンセルトヘボウ、ミュンヘン・ガスタイク文化センター、バレンシア音楽堂にて演奏。フランスに5年間、イタリアに4年間、オーストリアに3年間居住した後、2015年に日本に帰国。現在は国内にて様々な演奏・指導活動を行うと共に、東京音楽大学にて専任講師を務める。2022年は第76回全日本学生音楽コンクールの審査員を務める。趣味は歌舞伎鑑賞、サウナ、ランニング。
目次
2015年渡仏。パリ・エコール・ノルマル音楽院の最高高等演奏課程に授業料全額免除奨学生として在籍し卒業。パリ・スコラ・カントルム音楽院ヴィルトゥオーゾ課程及びコンサーティスト課程を審査員満場一致の最高評価を得て首席で修了し、フランスものを得意とするピアニスト深貝理紗子さん。(以下敬称略)
昨年の公演「メシアンの神秘」では、メシアン特有の音響や色彩をサロンという親密な空間で体験でき、好評を博しました。
さらに、彼女のフランス音楽や現代音楽の造形の深さ、視野の広さ、思考の深さ、鋭い感性に驚くばかりです。
音楽についてのみならず、フランスのサロン文化の歴史や政治など、幅広い見識の持ち主である彼女は、まさに知識の泉。
今回、サロンが旗をあげて取り組む特別企画、作曲家オリヴィエ・メシアンをテーマとした演奏会第2弾を開催するにあたって、お話しを伺いました。
————————————————–
メシアン音楽の神秘2 ピアノ:深貝理紗子
2023年6月24日(土) 15:00開演
⇨詳細・ご予約はこちら
————————————————–
メシアンは体験するもの
スタッフ昨年のメシアン(フランス・1908-1992)の演奏会、とても印象的でした。
その空間にいた皆さんが一体となったような感じがしましたが、今年はどんな演奏会になることを期待しますか?
深貝昨年、このサロンという素敵な空間も相まり、お客様と一体となって、私もとても心地よい空間で演奏できました。
昨年を振り返ると、ちょうどロシア・ウクライナ戦争が始まる頃?だったので、情勢的にもちょっとピリピリしていたと思います。
たまたまですが、プログラムも火の島なんかはバイオレントと記載されているような作品であったり怒りを感じるような作品も多く、時に緊張感のある雰囲気も漂っていましたが、お客様にあたたかく見守っていただいたような感覚もありました。
今年はもう少し、自然体の日常に近いイメージで、暗いものというよりは爽やかな風であったり、光の多いイメージであったり、そういった部分を出していきたいなと思います。
心地よく、色彩的で、光や香りが多いプログラムになっており、昨年よりもリラックスできる内容かと思います。
ドビュッシー(フランス・1862-1918)も、昨年は結構プレリュードの無調のものを入れたのですが、今年はデュカス(フランス・1865-1935)についても牧神関連で繋いでみたので、メシアン以外の作品からも色彩感が感じられるかなと。
昨年よりは色合いが明るいですね。
前半にベリオ(イタリア・1925-2003)の作品を取り入れていますが、水や風が感じられるような自然の音が入っているようなピアノ作品をセレクトしました。
ドビュッシーの生家にある「パン(牧神)と羊飼い」の像。
ドビュッシーにとってもその後のフランスの作曲家にとっても「牧神」(神話の半獣神)は重要なアイコン
サントシャペルのステンドグラス。メシアンの色彩の源
スタッフそれこそ、クラシックの公演に行こうと思ってプレイガイドを探してみても、なかなかベリオの作品に触れることって少ないと思うのですが、もし初めて聴く人にベリオの特徴をお伝えするとしたら、どんな作曲家だと思いますか?
深貝今回演奏する2つのピアノ作品は、ベリオの作品のなかでより「曲っぽい」と思います(笑)
というのも、一番最初に私がベリオを聴いたのは高校生の時で「セクエンツァ」と「シンフォニア」という作品だったのですが、まるでパッチワークみたいに曲が変わって行くんですね。
人の声が突然入ってきたり管弦楽のドビュッシーやラヴェル、バッハやベートーヴェンなどの一部分が合わさっていたりというのがあったり…。
その中の歌詞の一部分がクロード・レヴィ=ストロース(20世紀の社会人類学者・哲学者)の『神話論理』のなかの言葉が入っていて、それが20世紀の音楽家へも与える影響が大きく、さらに時代が終わるきっかけを作ってしまった人でもあります。
なので、もちろん賛否両論があるかもしれません。
クロード・レヴィ=ストロースの『神話論理』に書かれているような「文化と自然の在り方」や「音楽は神話のように天上と地上を交感できる存在」という考え方はベリオだけではなく、メシアンに通ずるものがあるので、そういった裏の面から見ても面白いプログラムかもしれないです。
スタッフそういう背景があったのですね!
そこまでの情報量をあらかじめ共有していただけるのは、とても興味深いです。
深貝そうですね。ただ今回セレクトしたベリオの作品はそこまで尖っていないので、割と初めて聴く方でも馴染みやすいかなと思います。
ベリオは実験音楽を試みた人なので、ジョン・ケージ(アメリカ・1912-1992)やブーレーズ(フランス・1925-2016)もそのあたりですね。
ジョン・ケージをメシアンと関連付けるのだとしたら「偶然性」という要素でしょう。
ジョン・ケージとブーレーズは私の感覚から並べると喧嘩しそうな感じだと思っています。
ブーレーズは偶然性を重視しつつも、必然性があるというような枠組みや形式的なものを完全には破壊しなかったのに対して、ジョン・ケージは偶然性オンリーだったので、完全に破壊しているという違いがあります。
ベリオについては、そこまで自分のこだわりは強くは無いけど、偶然性という要素を重視していたようです。あとは一つの和音がずっと最後まで聞こえているようなイメージでと楽譜に記載されていたりと(物理的には聞こえていないのですが)そういったところに彼の面白さというかメッセージが感じられますよね。
スタッフデュカスについてはどうでしょう?一般的には魔法使いの弟子くらいしかイメージしかなくて…(笑)
深貝そう、デュカスはメシアンが大好きだった先生です!デュカスのオペラ『アリアーヌと青髭』を聴いたメシアンは、少し恥ずかしがりながらも「あの色彩感が忘れられません。そこには幸福しかなかった」と熱烈な手紙を送っています。
なのでやはり彼の色彩感にはすごく影響があったと思います。
メシアンの曲の中にもデュカスのための追悼の作品なんかもあって、それと同じ比較としてスペインの作曲家ファリャ(スペイン・1876-1946)も作品を作っています。そのあたりを並べるのも面白いかな〜と実は思っていましたが…
ドビュッシーを崇拝するアパッシュというグループ(1900年頃にパリの音楽家、詩人などが結成した芸術グループ)があって、ファリャとラヴェル(フランス・1875-1937)はそこのメンバーだったので、とても仲も良かったようです。
スタッフなるほど〜そう考えるとロマン派みたいで面白いです。
いつも驚くのですが、深貝さんの知識量、すごいですよね…。
深貝さんはなぜフランス音楽にそんなにお詳しいのですか?
深貝フランス音楽は私にとって風通しが良いというか、すっと体に入ってくるような存在です。
あとは音楽だけでなく、他の絵画や詩、文学など、いろいろなものが関わっていて、さらに深掘っていくとその前の音楽家と関わっていたりとか、いろいろな関係性が見えてきて面白いのです。
それでいて、あまり「作り込もう」とはせず、「自然な生活の中で」生まれる音楽が多いような気がして、人間っぽい感じが素敵だと思っています。
スタッフなるほど、それがフランス音楽の軽妙洒脱な印象を生み出しているのかもしれないですね。
深貝:絶対こういう風に聴いて欲しいという強い何かというよりは、もちろん一本芯はあるんですけど、この面から聴いてもこの面から聴いても良いよ、というような受け皿の広い感じが良いですよね。
自分のピアノは「オタク」
スタッフご自分のピアノについてどう思っていますか?
深貝自分のピアノは・・・・オタクでしかないかと・・・(笑)
スタッフオタク!わかる気がする(笑)
深貝ピアノを弾いていない時間も歴史や背景を調べたり、実際に作曲家がどんな人だったのか、その人が読んでいる本を読んでみたり…そんなことでも楽しめちゃうんですよね。
スタッフ探究心というか好奇心というか、それがすごく伝わってきます!
深貝これ勉強しなきゃというよりかは、楽しくてあっというまに時間が過ぎていたみたいな…。
スタッフいや〜才能ですね。よく努力は夢中には勝てないという言葉がありますが、まさにこのことですね!体現されていますね。
先ほどのリハーサルの様子をお聴きしていたのですが、空気を吸って吐くたびに、サロン全体であらゆる方向からメシアンの音楽が自然に現れてくるような、そんな感覚になりました。
作品の持つ温度感を自然に伝えていきたい
スタッフ深貝さんはどんな演奏をして目指していますか?
これからの抱負なんかも教えてください。
深貝そうですね、たぶん今までのまま行ったら、レパートリーはフランス近・現代が中心になるかなと思います。
そこから関連した作曲家たちプラス、あまり日常から離れすぎないような作品に取り組んでいきたいですね。
なんでしょう。例えば「芸術はこうであるべき」みたいな感じではなく、あまり芸術を誇張しないというか、美化しすぎないというか…。
スタッフえっと、それはベートーヴェン(ドイツ・1770-1827)のことでしょうか?(笑)
深貝いえいえ、ベートーヴェンはあの時代を考えるととても人間らしいと思います!
私ができることとしては、そういった作品のもつ温度感を自然に伝えていきたいのです。
演奏会という場所は「今どういうことを伝えたいのか?」ということを、音楽を通じて訴えかけられる、社会的意義を持つ場だと思います。
そして昔はさらに、そういう要素が強かったと予想します。宮廷で弾かないといけないという場合は該当しないかもしれませんが、ベートーヴェンの作品も、哲学書のように感じられたり、生き方や主張を感じられる作品もありますよね。メシアンも「ベートーヴェンは苦悩と葛藤を乗り越えたから感動的な作品を残せた」と語っています。
そういった作品の本質的な部分を出していける演奏をしていきたいですね。
スタッフ温度感を自然に…というところが、今の時代、とても珍しい演奏スタイルのような気がしてお話を聞いていました。
それこそ、コンクール主義ということもあり、熱中して作り込めば美しいというような価値観が前提であるような気がします。
もちろん、どちらも芸術を追求する姿勢は同じだと思いますので、逆とまではいかないかもしれませんが、もう少し肩の力を抜いて、そういった自然の美しさを見つめ直すのも大切なことだと思います。
深貝作ることだけに集中してしまうと、気づいたら視野が狭くなってしまうような気がしてしまって…。
温度を高くして熱中して作っているものほど温度が低くなってしまうときもあるような気がするんですよね。
例えばプロコフィエフなんかを弾くときはあえて温度を低くして冷たくした方がフィットすることがあります。人間味を排除したほうが、人として訴えたかったことを引き出せるかもしれない、と思うからです。だから彼の色彩感にはどこか空元気のようなものを見ています。
作っているものを見てくださいとなると、どこか綺麗事っぽく感じてしまうこともあって…気が付かないうちに温度感をなくしてしまうのが怖いなと思っています。
スタッフなるほど。
練習して、作り込んで、本番があってというフローが当たり前になってしまっているような気がするので、温度感を客観的に捉えて、俯瞰した方がより美しくなる場合もあるかもしれないですね。
深貝あとは会話と一緒で聴衆とのコミュニケーションが取れるようにしたいですよね。
一般的に言われている、インスピレーションに近いのかもしれません。
近・現代音楽をどう捉える?
スタッフ深貝さんは近・現代のレパートリーがとても豊富だと思うのですが、ずばり、現代音楽って何だと思いますか?
それこそ、日本音楽コンクールの作曲家部門も実演がなくなってきたりと、現代音楽が止まってしまっている(もしくは衰退している)ように感じるのですが、どうでしょうか?
「どのように捉えられているか?」もしくは「これからどうなっているのか?」などお聞かせいただければと思います。
深貝あ〜たしかに、少し敬遠されがちなジャンルですよね。
前提として、現代音楽とは、バッハのもっと前の音楽、それこそグレゴリオ聖歌から遡って知っている(あるいは学んできた)現代を生きる人が作っている音楽のことを指します。
なので、良く現代音楽を「破壊」と表現される方がいますが、私は「アップデート」だと思っています。
例えば、ベートーヴェンの時代の作品のようなストレスのかからない和音に対して、その時代時代に生きてきた人たちが「今どう思うか?」という試行錯誤を重ねていったというイメージです。
ですので、伝統を破壊してまた新たに構築するというよりかは、伝統を守るプラス発展させていると考えます。
例えば、少し不思議な和音を重ねていったりとか、何か概念を破壊するものもありますよね。
「こうであるべき」という枠組みだけで決めてしまうと、そこに共感する人しか聴かなくなってしまって、すごく細い線になってしまうと思います。
コンクールの作曲部門で実演がされないことは驚きました。一層閉ざされた印象も受けてしまいかねません。武満徹の言葉に「舞台があって、演者と聴き手の生のコミュニケーションを感じて初めて、自分の曲がどんな曲なのかわかるんだよね」というとても素敵なものがあって、私も演奏するときに大切にしています。現実的に、コンクールの運営も大変な負担があると思いますが、音楽である以上演奏はされるべきと考えます。さらにそれはたった一度のコンクールのために消費されるわけではなく、今後も演奏され続けるものとして、一演奏者として興味を持っています。
スタッフ本当にその通りです。
現代音音楽の取り組みについて、最近興味深いと思ったことを教えていただけますか?
深貝例えば、今、フランスなどで見られるのは自動ピアノと一緒にセッションするというものがあります。
ですが、自動ピアノ自体が発明されたのは1800年代なので、実はすごく古いものなんですね。他で言えばファックスなども発明された時代ですよね。
オルゴールの原理で空気を送ることによって鍵盤が動くようになっているので、実は単純なのです。
演奏家にとっても、録音技術がまだ発展していなかった時代だったので、自分の演奏を後世に残すために発明されたのが始まりだそうです。しかしそのあと録音技術が発展していったので、一旦、自動ピアノは世の中から消えてしまいました。
この話からもわかるように、現代音楽って前衛的な印象を持たれがちなのですが、実は昔の人がやってきたことと、そんなに変わらないんですよね。
シェーンベルク(オーストリア・1874-1951)が調を壊していったといわれていますが、その前の音楽が大嫌いだったからではなく、好きで好きでたまらなくて、こんな素晴らしい音楽がどうしたらもっと可能性を広がるのかなと(もっと人間の声として広がるのか)という探究心からまず調を破壊したという背景があります。
メシアンも同じで、和音がもっと無限大になるような工夫が随所に見られます。音がぶつかり合うように書かれたものに抵抗のある方もいると思いますが、メシアンは音が重なり合うほど色彩も光も増していくと考えていたようです。
メシアンは敬虔なクリスチャンであったにも関わらず、ヒンドゥーの音楽(リズムパターン)が大好きでそれを取り入れています。
なので、西洋音楽というのがキリスト教の音楽と思われがちですが、そこにメシアンが他の宗教のリズムパターンを入れたというのは、実はとても破壊的な試みだったと思います。
メシアンが「まなざし」を出したときは、批評家たちはすごい大ブーイングだったそうで…メシアン事件と言われたくらいです。
しかし、それを擁護していたのがプーランク(フランス・1899-1963)だったのも興味深いですよね。
スタッフなるほど!その繋がりからも現代音楽の変遷を辿ることができますよね。
現代音楽に批判はセットでついてくるような気もしますが?
深貝そうですね。批判批評を繰り返して、守るべきものと取り入れていくものの議論が繰り返されることで、発展していくのが現代音楽だと思います。
しかし昨今、現代音楽という分野に対して、潜在的にみんな敬遠しすぎちゃっているような印象です。
そういった先入観無しにもっと深く学ぶと、その時の社会情勢が必ず反映されていると思いますし、そういう背景から見ると、とても人間的な流れの自然な中から生まれている音楽で親近感が湧きます。
なので、人として考えることが重要だと思います。
それによって破壊される前の音楽が良ければそれは一つの答えなのです。
スタッフなるほど!そういうふうに現代音楽をとらえたことがなかったので、とても勉強になりました。
音楽もそうですが、SNS等で個人で発信できるようになったからこそ、演奏家さんの演奏会に対する取り組み方も変わってきたような気がします。「上手ければ売れる」時代はある意味終わってしまったような気がします。
例えば、アレンジとかもクラシックと似ているポピュラーの曲を重ねる試みもあり、それをクラシック畑の方は批判する人もいて、ある意味現代音楽と近いような部分があるなと思います。
深貝そうですね。まぁ、アレンジに関してはサティ(フランス・1866-1925)とかもやっていましたからね(笑)
スタッフたしかに!時代を俯瞰してみるからこそわかることですよね。
深貝さんって視野がとても広いですよね。なぜだと思われますか?
深貝広くはないと思いますが、自分の意見を持つのはすごく大事なことなんですけど、その意見を守るために人の意見を批判しなくても良いと思うんです。
逆に取り入れちゃった方が面白いと思うんです。興味のある分野かどうかという問題もあると思いますが、自分から拒否してしまうと、もっと面白く繋がる可能性の種を摘んでしまうような気がして。
スタッフ素敵だと思います。フランスに留学されたのは影響ありますか?
深貝そうですね。自分の意見を伝えたときに、否定するわけではなく、まず認めてくれるというのがあり、それがとても良いなと思いました。
それって、その人も自分の考えを曲げてないと思うんですけど、意見を出し合うことで良いものを共有できているポジティブなイメージがあります。
それでいて、変に劣等感も持たないし、かといって変に威張らないし、自然体でそれ以上でも以下にもならないというのが居心地よかったですね。
スタッフ深貝さんのピアノも否定がないというか、心地良いウェルカム感があって、やはりその人の思想というかスタンスは演奏に現れるなと思いました。
暗譜についての興味深い話
スタッフ近現代曲が得意な人ってすごいな〜と思うのですが、深貝さんは結構レパートリーに入れられているイメージですね?
深貝そうですね、シューマンなんかも好きなのですが、自分が一番ノリノリで弾いていられるのが近現代だと思いますね。
スタッフすごーい!暗譜とかどうやっているんですか?
深貝画像として覚えちゃうというのもあるし、もちろん指もあるのですが、それだけだと調律が微妙に違うとわからなくなってしまうので、画像で覚えるのが一番多いです。
スタッフすごいですね。フォトグラフィックメモリーというやつですね。
この暗譜方法はできる人が限られていると聞きます。
深貝暗譜に関しては色々な方法がありますよね。メロディーラインであったり、曲の構造を覚えたり。
スタッフ暗譜一つでもとても興味深いです。
6月24日という日
深貝演奏会の日にちが6/24だったと思うのですが、実はメシアンにとっても重要な日でもあるのです。
メシアンは従軍期間がありまして、ナチスの占領下でも音楽家ということもあり一応大事にされていたようですが、解放されてパリに戻ったのですが、なかなか地方に住む家族にも会いにいけなかったそうです。
そんな中、真っ先に考えたのが戦時下で書かれた衝撃的なカルテット「世の終わりのための四重奏曲」を、パリで初演すること。そしてそのパリでの初演の日が6/24でした。生きて帰って、再び音楽を発信した日だと思うと、勝手に感動してしまいます。パリ解放までは劇場もドイツの支配下でしたから、忍耐が希望になった素晴らしい瞬間だったのではないかなと思います。
スタッフ「世の終わりのための四重奏曲」はヴァイオリン、ピアノ、チェロ、クラリネット、楽器はそれしかなかったという──大変な作品ですよね…。
メシアンという作曲家を代表する重要な作品の一つですが、その後、トューランガリラ交響曲や、鳥のカタログ、アッシジの聖フランシスコなどが作曲されていることから、転換期となる作品だったことがわかりますね。
メシアンが多く初演を行ったスコラ・カントルム音楽院の中庭(深貝氏の母校でもある)
(2023年6月6日収録。文責、見澤沙弥香)
メシアン音楽の神秘2 ピアノ:深貝 理紗子
2023年6月24日(土)
開演15:00
渋谷美竹サロン
⇨公演の詳細・キャンセル待ちはこちらから
Tel:03-6452-6711
info@mitakesayaka.com
プログラム
オリヴィエ・メシアン:《8つの前奏曲》より 第1曲「鳩」
オリヴィエ・メシアン:《鳥のカタログ》 第5巻より 第9番「ヨーロッパウグイス」
モーリス・ラヴェル:《鏡》より 第2曲「悲しき鳥たち」
ルチアーノ・ベリオ:《6つのアンコール》より
第2曲「葉」
第3曲「水のピアノ」
オリヴィエ・メシアン:《鳥のカタログ》 第7巻より 第12曲「クロサバクヒタキ」
ポール・デュカス:遥かなる牧神の嘆き
クロード・ドビュッシー:《6つの古代のエピグラフ》より 第1曲「夏の風の神、パンに祈るために」
オリヴィエ・メシアン:《幼子イエスに注ぐ20のまなざし》より
第2曲「星のまなざし」
第4曲「聖母のまなざし」
第16曲「預言者、羊飼いと東方の三博士のまなざし」
第10曲「喜びの聖霊のまなざし」
プロフィール
深貝 理紗子(FUKAGAI Risako)Piano
パリ・エコール・ノルマル音楽院及びパリ・スコラ・カントルム音楽院を審査員満場一致の最高評価を得て首席で修了。
東京音楽コンクール第2位、ショパン国際ピアノコンクール in ASIA コンチェルトC部門アジア大会ブロンズ賞、フランスピアノコンクール第1位、C.カーン国際音楽コンクール第3位、J.フランセ国際音楽コンクール入選など国内外で受賞。
2022年秋にティートックレコーズよりメジャーデビュー。日本初録音を含むCD『Parfum』を全国リリースし、芸術現代社の専門誌『音楽現代』推薦盤、音楽之友社の月刊誌『
これまでに下野竜也氏、川瀬賢太郎氏などの指揮のもと東京交響楽団等と共演。東京文化会館や岩崎ミュージアム主催公演等多数出演。皇居での御前演奏や、フランス「世界文化遺産の日」を記念する文化財でのデモ演奏なども務めた。
これまでに横山幸雄、オリヴィエ・ギャルドンの各氏に師事。レパートリーはバロックから現代音楽の新曲初演まで。とくに近現代音楽を中心に、音楽サロン文化などの芸術文化全般を交えたアプローチを展開している。
現在演奏活動の傍ら、主宰音楽教室、インターナショナル音楽教室等で後進の育成とクラシック音楽の普及に尽力している。
オフィシャルホームページ:https://risakofukagai-official.jimdofree.com/